未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。今回は、弁当作りを通じて子どもたちを育てる「弁当の日」の提唱者・竹下和男(たけした・かずお)先生が、子どもの習い事についての悩みにアドバイスします。

「ピアノを習いたい」と言うから習わせたのに練習をしません

【質問】

 小学2年生の娘にピアノを習わせています。小学生になったら何か楽器を習わせたいと思っていたところ、お友達がピアノを習っているのを見て、娘も「ピアノを習いたい」と言ったから通うことにしました。しかし、親がきつく言わないとなかなか自分では練習をしないし、レッスンも疲れていると「行きたくない」と言って泣き出す始末です。自分から「習いたい」と言い出したことなので、自主的に取り組んでくれたらいいのにと思っています。

▼習い事には苦しい時期が必ずある 話し合いで親子関係のプラスに

【竹下和男先生の回答】

 「ピアノを習いたい」というから習わせたのに、「行きたくない」というとやめさせるのでは、子どもに振り回されている状態ですね。子育て中にはよくあることなので「ピンチはチャンス」と考えましょう。つまり、今回のことが親子の関係にプラスになればいいのです。

 まず「ピアノを習いたい」という娘さんの言葉は、親の願い通りですから、すんなり結論が出ました。実はこの場面では、子どもは「ピアノを習うことを願っている親の期待に応えたい」という気持ちになることを知っておきましょう。もちろん子どもに親をだますつもりはないし、自分もお友だちのように弾けるようになりたいと思っています。ところがピアノを習い始めてみたら、思うように上達できないし、親を喜ばせることも難しいと分かり、負担になってきたのでしょう。そこで「行きたくない」と訴えたのに、今度はすんなりと聞き入れてくれないので娘さんも困っています。

 才能の伸び方には個性があります。周囲の人を驚かせるほど早く上達する子や、楽しそうだけれど全然うまくなれなかったのに、突然劇的に上達を始める子がいます。前者はいつも周囲の反応がうれしくてよけいに練習が楽しくなっています。後者は、練習を苦にしなかったから練習量が増えて上達できたのです。キーワードは楽しさです。

 質問の文面からすると自宅にピアノがあり、きつく言わなくても練習していたことがあるようですね。まだまだ希望ありです。こんどは親が楽しそうにピアノに触れてみませんか。簡単な曲を弾いて見せたり、好きな曲にチャレンジしてみせたりすると、娘さんもこっそり弾き始めるかもしれません。娘さんが自主的に練習したら、さりげなく褒めてあげてください。子どもは褒めてくれるのを待っています。またレッスンの日は、「○○が良くなったねー」と具体的にほめると、もっと褒めてほしくなって練習への意欲が湧きます。

 習い事には必ず、苦しい時期があります。でもピアニストにならなくても、ピアノを習った経験を後悔している大人はほとんどいません(40歳を超えた愚息の二人も同じです)。それは習い事を続けることで演奏力以外の学びがあるからでしょう。例えば音楽を楽しむ心・音感・努力・忍耐・友情・成功・失敗・創意・・・。

 まずは習い始めて良かったことを思い返してゆっくり娘さんと話し合ってみませんか。しばらくは続けてみて、「これ以上続けるのは無理かな?」と親子でうなずき合えたらやめ時ですね。

竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。

 #はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。