我が子の能力を最大限に引き出してあげたい、と願うのが親心。しかし、脳の「育つ順番」を無視した早期教育は、もしかしたら効果がないかもしれません。

子どもの脳が育っていく正しい順番を、医師の成田奈緒子さんが解説します。

※本稿は、成田奈緒子著『子育てを変えれば脳が変わる 』(PHP研究所)から、一部抜粋・編集したものです。

脳には3つの種類がある

「脳が育つ順番」とは何でしょうか。そもそも脳は、どのようなしくみを持ち、どう育っていくのでしょうか。まずは、そこからお話ししましょう。

まず、脳には3つの種類があります。

それが「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」の3つです。

からだの脳

1つ目の「からだの脳」は、姿勢の維持・睡眠・食欲・呼吸・情動・性欲などを司る脳です。自律神経の働きをコントロールするのもからだの脳です。脳の部位でいえば、大脳辺縁系、間脳(視床、視床下部)と脳幹(中脳、橋、延髄)から構成されます。

具体的には、寝たり起きたり、立ったり座ったり、食べたり呼吸したりといった生きる上で必要不可欠な身体機能を担っているのが、からだの脳です。

おりこうさんの脳

2つ目の「おりこうさんの脳」は、知能・言語・知覚・情感・微細運動(手先の器用さなどの細やかな動き)などを司る脳です。脳の部位でいえば、大脳新質から構成されています。

おりこうさんの脳が育つことで、お勉強ができたり、スポーツが上手だったり、手先が器用だったり、言葉が達者だったりといった成長が見られるようになります。

こころの脳

3つ目の「こころの脳」は、論理的思考や問題解決能力、想像力や判断力といった、「人らしい能力」を司っています。こころの脳は、「おりこうさんの脳」の一部である前頭葉と「からだの脳」をつなぐ神経回路から構成されています。

そもそも、人間の心の働きには、2つの種類があります。それは「情動」と「情感」の2つです。

「情動」とは、怒り、不安、恐怖、衝動性など、外界の出来事に対して起こる、原始的な心の働き、いわゆる喜怒哀楽です。これらは「命を守る」ために働きます。危険にさらされたときに恐怖を感じて「逃げよう!」と判断する、脅やかしてくる相手に怒りを覚えて攻撃する、などが典型例です。

一方、「情感」とは、自分の置かれた状況や、周りの人の心情などを考慮して、とるべき言動を判断する力で、安心、喜び、好意、自制心などの心の働きを指します。

動物は基本的に、「情動」だけで動きますが、人間はそうはいきません。高度な社会生活を営む生物である以上、怒りや衝動だけで行動すると信用を失いますし、悪くすると犯罪者になってしまいます。

そこで「情感」の出番です。情感は、反射的に生じた怒りや衝動を、冷静な判断によって「安心」や「喜び」に変えることができます。「どうすべきか」を思考して、より合理的な行動に結びつけることもできます。

この「情動」を「情感」によってコントロールする機能の拠点になっているのが、「こころの脳」である前頭葉なのです。

こころの脳が育つことで、感情や衝動を抑え、じっくり考えることができるようになります。また、自分の気持ちにブレーキをかけられるようになることで、思いやりやコミュニケーション能力なども育ちます。