Hyunjoo Jin Norihiko Shirouzu Chris Kirkham

[17日 ロイター] - 米電気自動車(EV)大手テスラは2万5000ドルの低価格で販売を計画していた新型EV「モデル2」の開発を中止したとロイターが今月5日に報じたことに対し、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は謎めいたメッセージを投稿し、投資家を宙ぶらりんの状態にさせている。

マスク氏は報道当日の投稿で「ロイターはうそをついている」と主張したが、何が間違っているのか具体的には指摘しなかった。

それから2週間近く経過した今もマスク氏は新たな情報を発信せず、投資家は途方に暮れている。世界的にEV需要が減退し、安価な中国産EVとの競争が激化する中で、一部からはマスク氏に対して、モデル2はどうなるのか、そしてテスラ車の販売減少にどうやって歯止めをかけるのか答えてほしいとの声が強まりつつある。

テスラが15日、全世界の従業員の10%余りと複数の上級幹部のレイオフを発表すると、投資家の不安はさらに増大した。

ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリストチームはこのレイオフ発表後に、テスラが23日の四半期決算公表時に予定している電話会議でそうした疑問に回答してくれるのを「市場は望み、必要としている」と指摘。テスラに関する悪いニュースだらけの「ホラー番組」を見せられている以上、「戦略的なビジョンとその重要な要素のモデル2」についてはっきりさせる必要があるとの見方を示した。

テスラの投資家にとって、モデル2は成長ストーリーの中核部分になっているだけに、マスク氏の沈黙で「胃の縮むような」思いを持っている、とウェドブッシュのシニア株式アナリストのダン・アイブス氏はロイターに語った。

ガーバー・カワサキ・ウエルス&インベストメント・マネジメントのロス・ガーバー社長兼CEOはもっと率直で「モデル2を投入しないならテスラに投資すること自体さえ意味がなくなる」と言い切る。

ロイターはテスラとマスク氏にコメントを求めたが、回答を得られていない。5日の記事についてもコメントを得られていない。

ロイターが5日に報じた記事の内容を巡り、投資家はもう1つ明快にしたい点がある。それはテスラがモデル2に採用する予定だったプラットフォームで自動運転タクシーの開発を推進するという計画だ。

マスク氏がこの日に「テスラのロボタクシーが8月8日にベールを脱ぐ」と書き込み、それ以上詳しい内容を示さなかったため、市場にはまた多くの疑念が浮上した。業界の専門家によると、自動運転タクシーは設計や規制の面で大きな課題があるため、早急な生産は現実味が非常に乏しいという。

ただマスク氏は16日に改めて、テスラが自動運転車に注力する考えを投稿した。

実際、一部の投資家は、テスラがモデル2の代わりに自動運転タクシーに重点を置くことを歓迎し、ロイターの報道で一時6%下落したテスラの株価はその後のマスク氏による2件の投稿で持ち直した。

それでも投資家にとって、テスラが次にどんな車を生産するのか、さらに一番重要なそれがどれぐらいの期間かかるのかについては、今なお推測の域を出ない。

テスラの株価は15日のレイオフ発表後に再び下がり、昨年7月の直近高値から足元までの下落率は45%を超えている。

<投資テーマ一変>

ドイツ銀行などの分析に基づくと、モデル2の開発中止はテスラに対する投資テーマの全面的な変化につながり、大衆車市場で成長するという見通しは消え去って、自動運転タクシー開発に向けたかなり長期の視点での人工知能(AI)技術に賭ける投資になる。

一方、ウェドブッシュは、モデル2のないテスラの将来に悲観的だ。アナリストチームは先週、開発中止はテスラの成長見通しを「瓦解」させ、自動運転タクシーはその穴を埋める「魔法のモデル」ではないと記した。

マスク氏は1月時点まで、モデル2を来年後半に市場に投入すると表明していた。これに関してウェドブッシュのアイブス氏は、既にずっと前から約束していた低価格車の開発着手が遅れていた上に、たった3カ月で方針を180度変える企業はもう「たそがれ」を迎えるだろうと突き放した。

現在販売されているテスラ車で最も安いのは約3万9000ドルの「モデル3」。同社は世界的なEV需要鈍化や中国勢との競争を背景に、このモデル3と、クロスオーバー車「モデルY」の値下げに動いている。

量産タイプはモデル3とモデルYだけだが、いずれも投入開始から月日が経過しており、全面改良の時期を迎えている。より高価格で実験的な「サイバートラック」は、電池製造に絡む問題のため量産化に苦戦中。それもあってテスラは今月、全車種の販売台数が第1・四半期に約4年ぶりの減少に転じたと明らかにした。

中国メーカーとの価格競争も激化している。BYD(比亜迪)は既に中国国内で最低価格1万ドルのEVを販売し、携帯電話メーカーのシャオミ(小米科技)が投入した初のEV(価格約3万ドル)には受付開始から1週間足らずで10万件を超える予約注文が集まった。

<約束守れるか>

テスラがモデル2から自動運転タクシーに軸足を移すことには好意的な見方も出ている。

ディープウォーター・アセット・マネジメントのマネジングパートナー、ジーン・ミュンスター氏は、これはテスラを次世代の交通手段である自動運転車分野へ一気に突入させる契機になるし、自動運転車は受注規模のおかげで利益率が高まると話す。

カーソン・ウエルス・マネジメント・グループのポートフォリオマネジャー、ジェイク・ブライヒャー氏も、テスラは本物の自動運転車を武器に中国EVメーカーに対して先行できる可能性があるとみている。

「8月が来てテスラが『5、6都市でロボタクシーを開始』と発表したら、それで株価は十分動くだろう」とブライヒャー氏は言う。もし具体的な進展がなけば投資家は『おびえる』だろう」と語る。