Guy Faulconbridge Darya Korsunskaya Andrew Osborn

[モスクワ/ロンドン 13日 ロイター] - ロシアの新たな国防相に起用されたアンドレイ・ベロウソフ氏(65)は、経済学者で軍事経験ゼロ、ロシア正教の敬虔な信者で趣味はロッククライミングと、ウクライナとの戦時下としては奇妙な人選に映る。

しかし関係者6人はベロウソフ氏について、強面で職務に通じており、大企業からの徴税キャンペーンを率いた実績により、体制を導く辣腕(らつわん)ぶりは証明済みだと評する。

戦時下のロシア国防相は、巨額の資金の流れと経済・産業計画を司らねばならず、日々の戦闘の管理は他の担当者らに任せることになる。プーチン大統領は、企業利益に約3000億ルーブル(30億ドル)の課税を実行したベロウソフ氏の手腕に強い印象を受けた可能性が高い。

ベロウソフ氏の起用にはまた、ウクライナとの長期戦に備えてロシアを再編したいというプーチン氏の狙いが表れていると多くの関係者は言う。

ベロウソフ氏と仕事をしたことのある政府筋は「彼は非常に組織的、系統的で、タフだ。全てをコントロールしたがる」と語る。

同氏の非常に国家統制主義者的な考え方により、時として民間企業が不利な立場に追いやられたとの批判もある。

ある関係者は「ベロウソフ氏は半分ソビエト人だ。非常にソビエト的だ」と言う。「ベロウソフ氏は国家を信じている。国家は至上であり、国家がカネの使途を決めるべきだと考えている」とし、司令官の中にはそうした彼の存在を快く思わない者もいるだろうと話した。

ベロウソフ氏は西側の制裁を回避する方法を考え、しぶといインフレに対処するとともに、軍事経験を持たない自分に反発する者もいる軍の世界で職務に当たらなければならない。

軍事専門家の間では、軍と防衛産業にはびこる汚職を根絶するのにベロウソフ氏の手腕が役立つとの見方がある一方、国防相には軍出身者の方が適任だとの指摘もある。

ベロウソフ氏は指名後最初の公式コメントで、兵士にはもっと良い住居、病院、福祉が必要だと述べ、あからさまに軍におべっかを使った。

<疲弊する経済とウクライナ戦争>

ベロウソフ氏の起用には、ウクライナ及び西側との軍拡競争に向けて軍産複合体を強化するだけでなく、その目的に向かって経済全体を制御していきたいというプーチン氏の意向が表れている。

ロシア中央銀行の元顧問はXへの投稿で「消耗戦を制するのは経済だ。ベロウソフ氏は予算によって需要を刺激することを好む。つまり軍事支出は少なくとも削減せず、むしろ増やすだろう」と予想した。

ベロウソフ氏は政府のドローン(無人機)開発プログラムに寄与した実績があり、報道によれば2017年にプーチン氏にデジタル経済とブロックチェーンの重要性について説得した1人だ。

ベロウソフ氏の職能を踏まえれば、戦闘に関する決定には深く関与せず、今後もゲラシモフ参謀総長に任せそうだ。交代するショイグ前国防相は安全保障会議書記に就く。

ペスコフ大統領報道官は12日の記者説明で、ウクライナ戦争により軍事関連支出は国内総生産(GDP)対比3%から6.7%に拡大し、旧ソ連時代を想起させる7.4%に向かっていると指摘。「これは極めて重要であり、特別な手綱さばきが必要になる」と述べてベロウソフ氏起用の狙いを説明した。

<軍事汚職>

ベロウソフ氏はプーチン氏の下で経済顧問や第1副首相のほか、短期間ではあるが首相代行を務めた経験もあり、現在のロシアにおける最有力者の1人になったとする見方もある。

ある政府筋は、ベロウソフ氏はプーチン氏の信任が厚く、首相と同等のレベルに上り詰めたと語った。

セルゲイ・マルコフ元大統領顧問は、ベロウソフ氏には汚職一掃の任務もあると言う。先月はショイグ氏の側近であるイワノフ国防次官が多額の賄賂を受け取った容疑で拘束された。

マルコフ氏は、現在は戦時下で国防省に巨額の資金が流れ込んでおり、「イワノフ氏の一件は、汚職が通常の限度を超えていることを示した」と語った。

政府筋によると、ベロウソフ氏には目立った汚職の履歴がない。

国防省に近いとされる戦争ブロガーのライバー氏は、「ベロウソフ氏の国防相起用は、国防の中枢の金銭構造について、大規模な検査と再編が始まることを告げている」と語った。