阪神の岡田彰布監督(66)が5日から7日までの神宮でのヤクルト3連戦で試合後の囲み取材に応じなかった。いわゆる取材拒否だ。テレビでは伝わらない岡田監督の取材拒否の理由を追った。

 「1勝2敗は想定外」と報道されたのが発端

 岡田監督の語録がスポーツ各紙の紙面から消えて4日になる。ユーモアを交えた深い話が定評の岡田監督のコメントを楽しみにしている虎ファンも、さすがに異変に気付きはじめてSNSでは騒ぎにもなっている。岡田監督はヤクルト3連戦で取材拒否を続けていた。
取材拒否のきっかけになったのは4日の試合後報道だという。
開幕の巨人3連戦に続き、横浜DeNAとの3連戦にも1勝2敗と続けて負け越し「想定外」という見出しが躍った。これは岡田監督の意図とは180度違う報道だった。
筆者は、その場にいなかったが「想定外」という発言が伝えられ、「本当にそう言ったのか?」という違和感を覚えた。
開幕前に監督からじっくり話を聞く機会があったが、昨年のような絶好調のスタートは想定していなかった。
「開幕、4月にチーム状態をベストにもっていく必要はないんよ。その話はオープン戦の前半で投手陣にはしたんよ。4月にピークにもっていこうとして合わせると、その後に反動がくる。だから開幕カードは、ひとつ勝てればいいわ。1勝2敗でええんよ」
むしろ1勝2敗で序盤戦のカードを終えるのは「想定内」だったはずだ。
岡田監督は「勝ったゲームから学ぶもんってあんまりないんよ。 負けたゲームの方が反省や課題がわかりやすく出る。 序盤戦は、負けて学ぶ時期。 今季は混戦になるやろうから、引き離されんように勝率5割はキープしておかなあかんけどな。 勝負の9月に向けてチームがどんどん成長して強くなっていけばええ」とも語っていた。
番記者は岡田監督のインタビューをレコーダーに録音している。絶対に間違いは書かない。岡田監督は「想定外」と喋ったのだ。だが、それは本意ではない。つまり岡田監督は「想定内」を「想定外」と言い間違えたのである。岡田監督が報道陣に不信感を抱いたのは、そのやりとりの中で「え?想定内じゃないんですか?」という確認がなかったことである。
岡田監督が4月序盤の戦いをどんな考えで臨んでいるかを理解しているのであれば「想定外」という言い間違いに「え?」と疑問を抱くはず。「想定外」と話したとしても「実際は想定内」とのストーリーを展開させるはずである。岡田監督は、自分の意図が伝わらない状況にあきれて取り巻くメディアへの信頼をなくし取材拒否という強硬手段に出たのである。
自分の意図がファンに伝わらない。ましてやチームにも伝わらない。それでは喋る意味がない。との三段論法からくる、少々強引な結論である。
岡田監督は、こういう事態が起きることを予期していて記者団に「レコーダーを使うな」とも伝えていたという。それは「音声を取るより考えよ」という呼びかけでもあった。
今年に入って岡田監督の取材拒否は早くも2回目である。

 そもそもの“伏線”は2月23日の一部報道にあった。巨人とのオープン戦に阪神は4−9で完敗した。試合後の囲み取材を終えた監督は、迎えの車に乗る瞬間に、後部座席に帽子を叩きつけた。その行為をまるで負けたことに対して悔しがる指揮官の姿の象徴として報じられたのだ。岡田監督が帽子を投げつけたのは事実だ。だが、互いにボーダーラインの若手を起用したオープン戦である。そこで巨人に敗れたことに何の感情もない。この日は、先発の伊藤将がまさかの7失点したが、これも調整段階である。では何に怒ったのか。囲み取材で最後に投げかけられた報道陣の質問に怒りが収まらなかったのが真相だった。デイリースポーツによると「まだメンバーはそろってはいないが、巨人の印象は?」の質問に「いや、こんなメンバーで知らんやん。そんなん、きょう1試合で何で総括せなあかんの」と返答している。不快感をあらわにして席を立ったという。
メディアからするとオープン戦とはいえど今季初対戦の巨人の印象を聞くのは必須の質問事項だった。だが、岡田監督からすれば、阿部新監督が描く今季の巨人像がまるで見えないメンバー相手のオープン戦では印象の語りようがなかった。関西メディアへの不信感という名のギャップが徐々に開きだして3月16日のオープン戦の中日戦後の報道を巡って今季一発目の取材拒否に至る。この試合で岡田監督は佐藤をスタメンから外した、森下と共に疲労の蓄積などを考えて当初からスタメンから外すことは計画されていた。デイリースポーツによると試合後に佐藤の欠場理由について聞かれた岡田監督は「なんでや。使わなあかんの?なんでそこまで言わなあかんの。選手起用まで言われたらかなわんわ」と、またいら立ちを隠さなかった。
佐藤が、打率.128と低迷していたため一部スポーツ紙が岡田監督が佐藤を欠場させたことのメッセージを読み解こうとする考察記事を掲載したが、その内容が的外れで岡田監督を激怒させた。
この時はすぐに取材拒否は解除されたが、それらの積りに積もった不信感が横浜DeNAとの3連戦が1勝2敗に終わった後の記事で爆発したというわけである。
岡田監督は2005年にリーグ優勝した前監督時代に「そりゃそうよ」という代名詞的なフレーズを使っていた。だが、今回の監督就任でクローズアップされたのは「おーん」という“接続詞”。「そりゃそうよ」という言葉は、ほぼ使わなくなった。

 岡田監督は、その理由をこう説明していた。
「なんで『そりゃそうよ』と言わなくなったかわかるか。記者の勉強不足よ。前回の監督時には、記者が質問で、こっちの考えている通りのことを言ってくるから『そりゃそうよ』と相槌を打つしかなかったわけや。でも今回、阪神で15年ぶりにユニホームを着て記者とやりとりをしてみると、こちらから聞き出すばかりで自分の意見を言わない。ちゃんと野球を知っている記者も中にはいるけどな。野球を知らん記者が多すぎるんよ」
繰り返すが「レコーダーを使うな」と伝えたのも「考えよ」という岡田監督からのメッセージだったわけである。
ただ筆者も囲み会見を聞かせてもらう機会があるが、今キャンプからは、昨年とは番記者のメンバーも変わって非常にスムーズに取材が進んでいるとの印象を受けた。
沖縄では囲み会見が30分以上に至るときもあった。それだけ岡田監督と記者団との信頼感が高まっている証拠だった。関西のスポーツメディアにとってメインディッシュの阪神を取り扱う虎番記者にはよりすぐりの精鋭記者が送りこまれている。監督の番記者のレベルも高い。
それでも続けて取材拒否が起きる理由は、岡田監督が指摘する「勉強不足」ではなく「取材不足」だと感じる。常識でははかりしれない岡田監督の思考を読み取ることは難しい。ただ取材を深めて何を考えているかを理解すれば、言葉や采配の意図を感じ取ることはできる。岡田監督のコメントのほとんどは本音だが、ときには本音に反してチームへ向けてのメッセージ、あるいは対戦チームへの陽動作戦として語る言葉もある。それだけにそこが間違って伝わることだけは我慢ならないのだろう。
今日9日からは甲子園で広島と3連戦。ホームゲームではテレビ向けの恒例の勝利監督インタビューがある。さすがにテレビにまで取材拒否はしないので自然と取材解禁の流れになるだろうが、虎ファンは初戦を取って4日ぶりの岡田語録に耳を傾けたいに違いない。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)