ドジャースの開幕投手を務めたタイラー・グラスノー(30)が米メディア「ジョムボーイ・メディア」が発信するポッドキャスト番組「クリス・ローズ・ローテーション」に出演して、大谷翔平(29)が元専属通訳の水原一平容疑者(39)に違法賭博で作った借金返済のために1600万ドル(約24億5000万円)を口座から騙し取られた問題について語った。すべてが発覚したのは3月20日の韓国でのパドレスとの開幕戦後のミーティングだったが、グラスノーはその裏舞台と、高額年俸をもらっている大物アスリートのほとんどが資産の管理は専門家に任せており自らの銀行口座をチェックするようなことがない実情を明かした。

 「一平が何か怪しいことをしていたことはすぐに分かった」

 大谷が巻き込まれた賭博スキャンダルは連邦当局が水原容疑者を訴追したことで大きな進展を見せた。1600万ドル(約24億5000万)以上の大金を大谷の口座から無断で騙し取り、その口座から送金するために大谷になりすまして銀行に電話をしていたなどの悪質な手口も次々と明らかになった。また検察は「大谷は被害者である」と表明し、大谷が違法賭博に一切関与していないことも証明された。その中で、現在3勝1敗でチームの勝ち頭である右腕エースのグラスノーが衝撃的な裏舞台を明かした。
ポットキャスト番組「クリス・ローズ・ローテーション」で語ったもの。自らが開幕投手を務めた3月20日の韓国でのパドレス戦後のクラブハウスで行われたミーティングで、水原容疑者が「私はギャンブル依存症でした。すべての責任は私にあります。大谷に借金の肩代わりをしてもらいました」と吐露した際の現場の様子をこう明かした。
「特に形式ばったことはなかったが、全員が(大谷を)支持するという感じだった。自分も同じで、クラブハウスでは、みんなが『彼(大谷)は何もやっていないんだ』ということはすぐに分かった。(その後に)彼が最初にやったことは、『(私の)携帯を調べてくれ!』ということだった。『それで解決してくれ』と。我々はみんな『イッペイが何か怪しいことをやっていた』とすぐに分かった。だから(大谷が)ストレスを感じているようにも見えなかった。自分が何もしていないと分かっているから『解決は時間の問題だ』という感じだったと思う」
このミーティングでは、まだ水原容疑者は「大谷に借金を肩代わりしてもらった」と嘘をついていた。ホテルに帰った後に地下の会議室で大谷と1対1で話し合いを持ち、口座から無断で違法なブックメーカーに送金していたことを告白。その際、罪を逃れるために「借金を肩代わりしたことにしてくれないか?」と最後の悪あがきを見せたが、大谷は拒否。「おかしい」と感じた大谷は、代理人らを呼び、水原容疑者を当局に告発することを決めドジャースは同容疑者を解雇した。
大谷は3月25日に記者会見を開き、賭博に一切関与していないこと、信頼していた水原容疑者にずっと嘘をつかれ、無断で口座から大金を送金されていたことなどを伝えた。
大谷は本拠地でジャイアンツ戦が行われた4月2、3日に連邦捜査当局の事情聴取を受けており、ここで携帯電話を提出、すべてのデジタルデバイスに捜査当局がアクセスすることを認め、潔白を証明するために捜査へ全面協力した。実際、捜査当局が日本語が堪能な特別捜査官の協力を得て9700件のメッセージのやりとりをチェックしたところ、スポーツ賭博や借金の肩代わりに関するワードは何ひとつ出てこなかったという。

 グラスノーは、韓国での事件発覚から、連邦捜査当局が起訴を発表するまでの約20日間に及ぶ間の大谷の様子をこう伝えた。
「この状況を快く思っているはずはなかった。ただ自分に何か(やましいところが)あればストレスを感じるだろうが、彼は冷静だった。彼はとてもストイック。30歳になろうとしているのに、いつも笑顔で、私が今まで会った中で一番生まれつきストレスのない人間に思えた。あの立場で、それができるのは凄いことだ。いつも夏のキャンプにでも行っているような感じで幸せそうにこなしている」
チームは4月5日から敵地シカゴに遠征に出て、大谷はその初戦で移籍第2号を放っているが、「シカゴの寒い中で打撃ケージで一緒にいた時、彼はいつものルーティンをこなしていた」という。
「打席で凡退してベンチに戻ってきても『Oh No!内角の球だった!』という感じだ。彼は、いつもこんな感じで幸せそうで、何も変わることがない。だから、これだけ素晴らしいのだろう」
連邦捜査当局が訴追した翌日に水原容疑者は法執行機関に出頭して身柄を拘束され、ロサンゼルス連邦地裁で行われた保釈審問で、大谷との接触禁止など数多くの条件を付けられた上で2万5000ドル(約380万円)の保釈金で保釈された。
事件が全面解決に向かいグラスノーも「彼は精神的に大変なようには見えなかったが、この一件のすべてが(連邦当局の訴追により)判明して野球に集中できるようになってよかった。今年はずっとこれについて質問されるのは確かだけれど、彼はうまく対応してくれるだろう」という。
今回のスキャンダルでの最大の疑問点のひとつが、1600万ドル(約24億5000万円)もの大金がなくなったことに約3年間も大谷が気付かなかったことだ。訴状では大谷が資産や口座の管理を会計士や金融の専門家に任せており、水原容疑者が彼らが口座にアクセスできないように工作していたことも明らかになった。大谷には、年俸が振り込まれる口座と、スポンサーフィーなどその他の収入が振り込まれる口座のふたつがあり、年俸が振り込まれる口座を水原容疑者に乗っ取られていたようだが、口座に3年間アクセスしていなかったことが話題となっていた。
だが、グラスノーは、その謎について明確な答えを出した。

 「自分も口座を毎日チェックはしていない。自分の(資産や口座管理を任せている)スタッフを長年信用している。私だけでなくほとんどの人(高額年俸選手)が自分の口座をチェックしていない。私が知っているほとんどのアスリートが口座について何も分かっていない。(専門)スタッフに任せている。(お金を扱うような)ストレスのかかることを消したいんだ。『君たちを信用しているから管理してくれ!自分はタッチしない』となる。お金の心配はしていない。それはとても普通のことなんだ。そういうアスリートの実情を知らなければ、信じられないかもしれないが、これについては絶対そうだと信じている」
昨年オフにレイズからトレードでドジャースに移籍してきたグラスノーも5年で総額1億3650万ドル(約211億円)の大型契約を結んでいる。あまりにも桁が違う高額年俸が口座に振り込まれる選手は、資産や口座の管理は契約している専門家に任せ、10年7億ドル(約1083億円)の大谷同様、いちいち自分の銀行口座をチェックするような作業はしないようだ。
ただグラスノーは、大谷が巻き込まれた事件を教訓に「私は金に深く関わる人間ではないけれど、今後は自分の口座には目を向け続けるようになるだろう」と口にしている。