ジャイアンツを自由契約となり横浜DeNAへ5年ぶりに復帰した筒香嘉智外野手(32)が18日、本拠地の横浜スタジアムで公開入団会見を行った。背番号は渡米前につけていた「25」。会見には三浦大輔監督(50)がサプライズ登場したが、筒香は巨人を含めた複数の球団の争奪戦になっていた中でなぜ古巣への復帰を選んだのか。そしてメジャーで成功できなかった筒香はかつてNPBで通算205本塁打を放った打棒を取り戻せるのか。

 「鳥肌が立った」

 スタンバイしていた一塁側ベンチの奥で、筒香は心を震わせていた。
「横浜の空高くホームランかっとばせツツゴウさぁ打てツツゴウ飛ばせ空の彼方横浜に輝く大砲かっとばせホームランゴーゴーツツゴウ」
あいにくの小雨が降る横浜スタジアムで、異例とも言える公開の形で行われた入団会見。バックネット裏に駆けつけた約9600人のファンが、以前に在籍した2019年までおなじみだった応援歌で出迎えてくれた。筒香は万感の思いを第一声に変えた。
「この横浜スタジアムでまた野球ができる喜びをかみしめています。正直、かなり鳥肌が立っています。僕も大好きな応援歌を久々に聞けて本当に興奮しています」
渡米5年目をジャイアンツのキャンプ地、アリゾナ州スコッツデールでスタートさせた。マイナー契約を結んだ上で、内野手枠の招待選手からメジャー昇格を目指す挑戦は、腰の張りで別メニュー調整を余儀なくされた2月29日に暗転した。
復帰したのは3月9日。しかし、オープン戦の成績が出場5試合で打率.125、0本塁打、2打点にとどまっていた13日にマイナーキャンプ行きを告げられ、21日には自由契約となった。数日後に三浦監督から電話がかかってきたと筒香は苦笑しながら明かす。
「監督からは『おい、帰って来いよ。じゃあまたな』と。僕は『お疲れさまです。また連絡させていただきます』と返して、15秒くらいで終わりました」
筒香がポスティングシステムでのMLB挑戦を表明した2019年オフ。主砲を快く送り出した横浜DeNA側は、同時に「再び日本でプレーするときにはベイスターズに戻ってきてほしい」と伝えた。渡米前まで背負った「25番」を空き番にしたまま、ジャイアンツ退団発表後も「気持ちはいまに至るまで変わっていません」と誠意を示している。
しかし、筒香のなかで帰国はすぐにファーストチョイスとはならなかった。
「ジャイアンツを退団して、どうなるかがわからない状況が続いたなかで、正直、日本に帰国してプレーするモチベーションがいまひとつ上がらなかったのは事実です」
NPB復帰を逡巡した時期に対して、筒香は「決して悪い意味ではなくて……」と断りを入れた。メジャーでの通算成績が182試合に出場して打率.197、18本塁打、75打点。レンジャーズに所属した昨年は一度もメジャー昇格を果たせないまま6月に退団し、夏場には独立リーグでプレーした。結果を残せていない現実が、後ろ髪を引かせた。

 ただ、アメリカで練習を続けながら、自身のキャリアに思いを巡らせたときに心境に変化が生じ始めた。そこへ横浜DeNAをはじめとする、複数のNPB球団からのオファーが届いた。8日には一部スポーツ紙が「巨人入りが決定的」と報じ、その後に複数のメディアが一転、古巣への復帰を伝えたなかで、16日に横浜DeNA入りが正式発表された。
名字の「つつごう=255」にちなむ粋な計らいで、午後2時25分に発表された筒香の復帰。報道では3年契約で、2年目までは推定年俸3億円で、3年目は変動制の契約となったという。しかし、条件面などが決め手になったわけではないと筒香は言う。
「交渉自体は代理人以上の信頼関係を築けているジョエルにすべて任せていました。そのなかで常に野球が上手くなる方を選択して進む、という考え方が自分の頭のなかにありました。今回もいろいろと考え、自分の頭を整理していった結果、最もエネルギーを要し、日本でプレーする上で僕のモチベーションにもなるのがベイスターズでの優勝でした」
条件などを引き出す交渉は、代理人のジョエル・ウルフ氏に一任していたが、筒香の決断につながったのは、25年間、遠ざかっている古巣の悲願達成の力になることだった。自らが在籍中も届かなった大目標である。横浜DeNAでは2016年には44本塁打、110打点で2冠に輝いた実績がある。しかし、メジャーでは結果を残せなかった。
「みなさんもご存じの通り、アメリカでの成績は決して満足できるものではありませんでした。それでも、プロ野球選手が結果で評価されるのは当たり前です。結果を出せなかった原因といまも向き合っていますし、今後もそうし続けていきます。その意味でアメリカでの日々は間違いなく僕のかけがえのない財産になりますが、いまは過去を振り返っている時間もありません。ベイスターズのために必死に頑張るだけです」
筒香は平均球速が150kmを超えるストレートに対応できなかったことがメジャーやマイナーで苦戦を強いられ続けた理由として指摘されている。筒香自身も課題がわかっているからこそ、これまでも、そしてこれからも「向き合っていく」と力を込めた。

 レフトだけでなくサード、ファーストを守れる筒香だが、開幕の段階では、レフトに佐野恵太(29)、サードに宮﨑敏郎(35)、そしてファーストにオースティン(32)が固定されていた。しかし、10日の中日戦でオースティンが右太もも裏に肉離れを負って出場選手登録を抹消された。
ポジションがひとつ空いた形になるが、それでも筒香は「一人のプレイヤーとして、ポジションのひとつを取りにいく」と、名前ではなく、ストロングポイントを含めた実力で居場所を築いてみせると誓いを立てている。
「勝負の世界に『はい、ポジションをどうぞ』といった形はないと思っている。アメリカでプレーした4年間だけでなく、それ以前のベイスターズの最初の10年間、そしてこれからも変わらずに、自分のパフォーマンスでポジションを取りにいきます。そのなかでチームの勝利に少しでも貢献できるプレーを、みなさんにお見せできればと思っています」
公開会見の途中からは三浦監督がサプライズ登場。筒香の移籍以来、空き番となっていた「25番」のユニフォームと帽子を手渡した上で、国際電話を介してラブコールを送っていた左のスラッガーへ、目を細めながらこんな言葉をかけた。
「やはり横浜スタジアムが似合う男ですね」
開幕から3カード連続で勝ち越すなど、好スタートを切った横浜DeNAだったが、現在は4連敗中で4位タイに順位を下げた。チーム打率.254はリーグ1位と看板の強打戦は健在だが、総本塁打はワースト2位タイの5本。チームトップはドラフト1位ルーキーで、筒香の母校、横浜高の後輩である度会隆輝外野手(21、ENEOS)の2本となっている。
自身が留守にしていた4年間で、チームメイトの顔ぶれも大きく変わったと驚いた筒香は、それでも変わっていないものを問われてこう答えている。
「応援歌を聞いたときの自分の高ぶる気持ちは、渡米前と変わらないですね」
現状の打線に不足している一発を期待される大砲は、入団会見前から神奈川・横須賀市の球団施設DOCKで続けてきた調整を19日以降も継続。ファームでの数試合の調整出場を経て一軍に合流する青写真を描いている。
(文責・藤江直人/スポーツライター)