阪神が27日、甲子園でのヤクルト戦に5−4で逆転勝利し首位をキープ。4月の戦いを3試合残して今月の勝ち越しを決めた。勝負を決めたのは近本光司の逆転2ランだったが、随所に岡田彰布監督(66)の奥深い采配が光った。前日の敗戦後には超異例とも言える緊急野手ミーティングを開いたという。

 1点差の9回一死一、三塁で併殺狙いの中間守備を指示

 2年前のチャンピオンチームは簡単には終わらせてくれなかった。
5−2の9回を任されたゲラが先頭の武岡にソロアーチを浴びて1点差とされ、さらに長岡、青木に安打を許し、一死一、三塁のピンチを迎えた。ヤクルトは代打の切り札、川端をコールした。ここで岡田監督が、内野の守備陣に指示したのは、同点阻止の前進守備ではなく、併殺狙いの中間守備だった。川端は初球から打ってきた。詰まってはいたが、ライナー性の打球はセンターのヒットコースへ。だが、中野が下がっていたため、追いつきアウトにした。もし前進守備であれば抜けていただろう。
各紙の報道によると岡田監督は「常識よ」と語ったそうだが、三塁走者が長岡だったことを考えれば、当然、ゴロゴーあるいは、ギャンブルスタートも切ってくる場面。選択肢として前進守備もあり得る状況で、川端の足と二遊間の守備力を考えて併殺狙いの中間守備を取った岡田監督の判断は、さすがとしか言いようがない。二死になったゲラは、落ち着きを取り戻し、丸山を156キロの吊り球で、スイングアウトの三振に斬りゲームセットである。
「(ヤクルトは)前回の神宮の時よりも、だいぶバットも振れていた。最後は1点差になったが、今日の勝ちは大きい」
岡田監督はベンチでホッとしたような笑顔を浮かべた。
随所に奥深い岡田采配が光ったゲームだった。
まずは小幡のスタメン抜擢である。
「木浪もあんまり調子がよくない。打つほうも。だからちょうどいい機会という感じで使った」
前日に木浪が3失策、2−8完敗の“戦犯”となったが、そのことを持ち出さないのが岡田監督らしさである。先発の大竹がプレーボール直後の初球を塩見にレフトスタンドに運ばれる波乱のスタートとなり、2回にも、まったく無警戒のサンタナに三盗を許すなどして追加点を奪われた。しかし、その裏、二死一、二塁から小幡が変化球に粘り強く反応してセンター前へタイムリーを放った。そして5回の逆転劇を演出したのも先頭の小幡のセンター前ヒットからだった。
大竹にバントで送らせ、近本がカウント1−2からのサイスニードのストレートをライトスタンドに放り込んだ。さらに、この回、大山のタイムリーで1点を追加している。
7回に大竹がつかまった。一死からサンタナ、山田、長岡に3連打を浴びた。岡田監督は、長岡のところでの交代も考えていたそうだが、一死満塁で、中村を迎えたところで桐敷にスイッチした。ヤクルトは、川端、青木、西川と、3人もの左の切り札をベンチにスタンバイさせていた。岡田監督は、先を読み、“左封じ”にかかった。
中村は三振。二死となってから、代打の青木にフルカウントから押し出しの四球を与えた。だが、この打席で桐敷は死球も恐れず内角を攻めていた。押し出し四球を与えてもまだ1点のリードがある。ストライクを取りにいき、ヒットを打たれれば、同点あるいは逆転の危険性もあるなか桐敷は、四球やむなしの考えで最後まで厳しく攻めていた。二死満塁から赤羽を空振りの三振。ベンチの選択、そしてバッテリーの選択も正しかったのである。

 1点差に迫られた、その裏に岡田監督がまた意外な手を打つ。一死一塁から中野にバントで送らせたのである。この回の頭から左腕の山本がマウンドに立っていたが、岡田監督は「(送れば)代わるのがわかっていた。右(対)右なんで。なんとかセカンドに送っとけば、どっちか2人(森下か大山)が返してくれるかなという気はあった」という狙いで森下の前に得点圏に走者を進めた。
岡田監督の読み通りに高津監督は山本から右腕の丸山にスイッチ。森下は2球目の外角へ落ちるフォークを引っ張って三遊間を破った。レフトのサンタナが、その打球をジャックル。貴重な5点目がスコアボードに刻まれた。
実は、前日の敗戦後に岡田監督は野手ミーティングを開いていた。
「昨日は終わってすぐ裏にみんな野手集めて今日の対策を言っていた。それに応えてくれた」
非常に珍しい出来事だった。
38年ぶりの日本一に輝いた昨季、岡田監督が試合後に選手を集めてミーティングを開いたことは一度もなかった。もっと言えばコーチミーティングさえ行っていない。もちろん試合前にスコアラーが中心になって行われるミーティングには、岡田監督は参加して、ごくたまに意見も言うのだが試合後に野手を集めるのは異例中の異例だ。
そこで何が語られたのか。
この日の5得点がすべてを物語っていた。
前日のゲームで、阪神はヤクルトの小川、大西、木澤のリレーに6安打、2得点しか奪えなかった。ヤクルトバッテリーの配球傾向は明白だった。走者がいない場面では、ストレートでカウントを整え、変化球で勝負。それもボールゾーンを使う。逆に走者のいる場面では、変化球を軸にした配球に切り替えて、最後にストレート勝負。阪神打線は、その配球の餌食になってしまっていた。おそらくだが、岡田監督は、それを踏まえてシンプルな対策を授けたのだろう。
先制タイムリーを放った小幡は、変化球を頭に置いて粘り、そのボールに食らいついた。逆転本塁打を放った近本は、3球続いた変化球には見向きもせずストレートを仕留めた。
「高めのストレート。今日1日、1球来るかこないか(のボールを)しっかりと仕留めれるようにと粘り強く待ったた。違う球だったら三振でいいや、と思っていた。そこに来たら絶対仕留めるっていう気持ちで待っていました」と明かす。
「ピンチでは変化球を軸にカウントを整え、そこで勝負。あるいは追い込んでからストレート勝負」というヤクルトバッテリーの配球を読んだのである。7回の森下のタイムリーは、「ピンチでは変化球が軸」の変化球を狙い打った。そして何より岡田監督が与えたヒントをすぐに実行できるのが、連覇を狙う阪神打線の実力なのだろう。
先発の大竹は、まだ本調子とは言えなかった。打線についても「もう1点欲しかった」と岡田監督が振り返るように、まだエンジン全開までには至っていない。佐藤の不振も深刻だ。そのチーム状況の中で、貯金を「4」にして3&4月の勝ち越しを決めたのは、連覇への第一歩を踏み出したと評価していい。
今日28日の先発は「一番安定している」と岡田監督が評価している才木だ。現在連勝中。7日のヤクルト戦は、2失点で負け投手となった。
「今日勝ったんで才木もゆっくりね。連敗してると力んだりするかもわからないけど、今日の勝ちで初回から楽に投げられると思う」
岡田監督の読み通りにまた主導権を握りそうである。