ツツジの花を訪れたキムネクマバチ 撮影・加藤俊英

 日本では数種のクマバチの仲間が知られているが、北海道から九州にかけては本種が唯一の在来種であり、いわゆる「クマバチ」といえば本種のことを指す。和名の「キムネ」は、胸の部分に黄色い毛が生えていることに由来する。

 春先には、メスを待つオスが空中で静止(ホバリング)している姿がよく見られる。また、クマバチはフジの主要な花粉媒介者であり、この時期には藤棚にやってきて盛んに飛び回っている。

 フジの花見に行かれた際、ブーン、という低音の羽音に怖い思いをされた方も多いことだろう。実際には、おとなしい性質の昆虫であり、そっと見守っている限りは刺される心配はまずない。

 本種はフジ以外にもさまざまな花を訪れ、蜜や花粉を集めて回る。そして、花を訪れた際、翅(はね)を閉じたまま飛翔筋を動かして体を振動させ、多くの花粉を集める「振動授粉」という行動をしばしばとる。いわば、私たちが塩やコショウの容器を振って出す要領で、葯(やく)から多くの花粉を得ているようだ。そして、この行動は、植物にとっても効率の良い受粉につながっていると考えられる。

 一方、細長い形状の花では、正面からもぐっても蜜まで届かないため、側面から花びらに穴を開けて、蜜を奪い取る場合がある。このような行動は、「盗蜜」と呼ばれる。

 盗蜜というと、いかにも「悪事」を働いているようであるが、倫理や善悪といった価値観は、ヒトが安定した社会を維持するための主観にすぎない。クマバチは植物のために「善意」で花粉を運んでいるわけではなく、自身の子を育てるために花粉や蜜を懸命に集めているだけである。それが結果的に、振動授粉となったり、盗蜜となったりしているのである。(佐賀大農学部教授)=毎週日曜掲載