恵比寿駅東口から徒歩5分のところにある『ふ定食屋』。店に入るとカウンターの上やガラスケースの中にたくさんの小鉢が並んでいる。ご飯や味噌汁、小鉢ごとに値段がつけられ、自分のおなかの減り具合と嗜好やその日の気分で好きなように選んで、自分なりの定食が食べられる。

地域に朝食を食べる文化を広めたい

恵比寿駅東口から徒歩5分、のれんがはためく『ふ定食屋』が目に留まり店の中に入ってみた。店内はスタッフの掛け声や食器の鳴る音がして活気がある。入り口のすぐそばにある焼き場から漂う魚が焼けるニオイが鼻の奥を刺激し、それに反応するようにおなかがぐぅと鳴った。

赤富士ののれんと、信楽焼のたぬきがお出迎え。
赤富士ののれんと、信楽焼のたぬきがお出迎え。

まずはどんなお店なのか、店長の原田隼太郎さん、料理人の遠藤あすかさんに話を聞いてみた。「地域に根付いた朝食文化を広めたいと、2022年10月にオープンしました。無添加や有機など安心安全な食材を使って、家庭の食卓に並ぶようなごくふつうのご飯。そういうものが食べられるところが恵比寿には大切なんじゃないかと思ったんです」と原田さん。

写真右から店長の原田隼太郎さん、料理人の遠藤あすかさん。
写真右から店長の原田隼太郎さん、料理人の遠藤あすかさん。

スタッフの平均年齢は20代前半と若く、それぞれ違う経歴を持ったメンバーが集まっている。店に入って感じた活気はもちろん、提供する料理もひと味違う楽しさがある。

遠藤さんは、「店長の原田さんはフレンチ出身、料理長の荒竹さんは日本料理出身。私はテイクアウトに徹した店のノウハウを持っています。提供するメニューの基本は和食ですけど、みんなの持ち味がメニューに生かされていると思います」と話す。

それは楽しみだ。いよいよ空腹に耐えきれなくなってきたのでオーダーしてみよう。

壁にはその日のおすすめが張り出されている。メニューの追加は席からオーダーが可能だ。
壁にはその日のおすすめが張り出されている。メニューの追加は席からオーダーが可能だ。

その日の気分で組み立てる「ふ定食」

この店には「◯◯定食」というメニューはない。一般的にはご飯、味噌汁、小鉢が固定でメインを選ぶだけの“定食”が多いが、こちらはひとつずつ自分で選んでいく。

「定食だけど定まってない。だから『ふ(不)定食屋』って店名なんですよ。好きなものを好きなだけ組み合わせられるので、焼き鮭とご飯だけでもいいし、小鉢3つと味噌汁とかでもいいんです」と原田さん。

小鉢以外のメニューはチップを選びスタッフに渡す。焼き鮭がいいな。でも寒鯖の味噌煮にも惹かれる〜。
小鉢以外のメニューはチップを選びスタッフに渡す。焼き鮭がいいな。でも寒鯖の味噌煮にも惹かれる〜。

へえ〜、面白い。トレイを取ってまずは焼き鮭、銀シャリと味噌汁をオーダー。

生鮭に店で塩を振って仕込んだものをオーダーが入ってから焼く。「一度も冷凍されていない鮭だからうまいですよ」。
生鮭に店で塩を振って仕込んだものをオーダーが入ってから焼く。「一度も冷凍されていない鮭だからうまいですよ」。

その用意をしてもらっている間に好きな小鉢を取っていく。使用する食材は基本的に無添加や有機栽培、野菜は国産を選んでいる。小鉢は朝、昼、晩で変わり、ショーケースと合わせて30種くらいある。

カウンターの上のお総菜は煮浸し、きんぴら、胡麻和えなど小鉢の定番が並び、オール200円。
カウンターの上のお総菜は煮浸し、きんぴら、胡麻和えなど小鉢の定番が並び、オール200円。
梅干しや納豆などは180円。
梅干しや納豆などは180円。

「朝はご飯が進むもの、夜はお酒を飲みながらとか、時間帯によって食べたいものが違ってくるじゃないですか。たとえば、今日の朝は焼き鮭とかハムエッグがあったけど、お昼は生姜焼き、唐揚げ、アジフライ、煮魚を出しますし、夜は寒ぶりの照り焼きとか。また季節でいろいろ変わります」と原田さん。これだけメニューが充実しているのに、来店する時間帯によってメニューが変わるなんて楽しすぎるでしょう。

寒鰤大根は400円、すき焼き豆腐は350円、だし巻き玉子は180円だ。
寒鰤大根は400円、すき焼き豆腐は350円、だし巻き玉子は180円だ。

原田さんが「ちょうど銀シャリが炊けましたよ!」と声をかけてくれたので、急いで駆けつけた。土鍋の蓋を開けると、真っ白な湯気がブワッと立ち、お米から「ムチムチ、ムチムチ」と聞こえた。一粒ずつキラッキラに輝いていて宝石みたいだ。

高級な料亭などで使われる雲井釜・中川一辺陶の土鍋で炊いた銀シャリ。
高級な料亭などで使われる雲井釜・中川一辺陶の土鍋で炊いた銀シャリ。
炊き立てのツヤッツヤ銀シャリをよそってくれた。これはうまいに決まってる!
炊き立てのツヤッツヤ銀シャリをよそってくれた。これはうまいに決まってる!

この日はお米マイスターにセレクトしてもらった特別栽培のツキアカリ。時期によってそのときにおいしいお米の品種に変わるのだそう。

生鮭だから超ジューシー。銀シャリと最高のマッチング

トレイにオーダーしたものがすべて揃い、いよいよ実食だ。筆者にとってはふだんの朝食よりかなり量が多めだけど、労働したからヨシとしよう。

銀シャリ、味噌汁、焼き鮭、菜の花のおひたし、ひじきの紫蘇煮、漬けサーモンと納豆で合計1600円也。
銀シャリ、味噌汁、焼き鮭、菜の花のおひたし、ひじきの紫蘇煮、漬けサーモンと納豆で合計1600円也。

まずは味噌汁に口をつけ、鮭を食べてみる。皮がパリッとしていて、中からほとばしるほどの脂がある。うーん、これだけで銀シャリが無くなっちゃいそう。

壁際の棚にマヨネーズ、醤油、ソースなどたくさんの調味料が置いてあり、自由に使うことができるが、今日のメニューには必要なさそうだ。

鮭に箸を入れた途端、じゅわ〜っと脂が浮いてきた。これだけ食べるとしょっぱく感じたが、銀シャリとの相性はバツグン。
鮭に箸を入れた途端、じゅわ〜っと脂が浮いてきた。これだけ食べるとしょっぱく感じたが、銀シャリとの相性はバツグン。

皿に添えられていた大根おろしと一緒に銀シャリの上に乗せて食べてみた。パリッと焼いてある皮は香ばしく身はふっくらとジューシーな鮭は、ツヤがよく甘みもある銀シャリ・ツキアカリとよく合う。

大根おろしをのせてあっさりと食べてみる。
大根おろしをのせてあっさりと食べてみる。

鮭でご飯がパクパク進んでしまいそうだから、小鉢も食べてみよう。生鮭と納豆の組み合わせ、初めて食べたけどご飯にすごく合う。焼き鮭を食べたときにも感じたけど、生鮭も臭みがなくて本当においしい。ほろ苦い菜の花のおひたしでは春を感じた。

大粒の納豆に漬けにした生鮭、薬味のネギや昆布をよーく混ぜてご飯にON。
大粒の納豆に漬けにした生鮭、薬味のネギや昆布をよーく混ぜてご飯にON。
枕崎産の鰹節、五年熟成真昆布でとった出汁の味噌汁。
枕崎産の鰹節、五年熟成真昆布でとった出汁の味噌汁。

量が多くなっちゃったかもしれないと思っていたが、ペロリと完食。最後に無料のほうじ茶をポットから汲んで飲んだ。ふぅ〜、食べた食べた。

つめたい水やあったかいほうじ茶はセルフサービス。
つめたい水やあったかいほうじ茶はセルフサービス。

食後の余韻を楽しんでいたら、先に食事を終えて食器を配膳口に戻していた男性が、「よしっ!」と気合を入れて店を出た。筆者もおいしい朝ごはんをしっかり食べたから元気100倍。あの男性と同じように1日がんばろうっと。

ふ定食屋(ふていしょくや)
住所:東京都渋谷区恵比寿4-5-23 ルイシャトレ恵比寿101/営業時間:7:30〜15:00・17:30〜22:30(土・日・祝は7:30〜21:30LO)/定休日:水/アクセス:JR・地下鉄恵比寿駅から徒歩5分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢

アート・サプライ
編集プロダクション
1971年創業の編プロ。「旅&食&散策」ジャンルに強く、情報誌では子供向けから鉄道やドライブでの大人旅まで。さらにグルメ系ではラーメンや唐揚げ専門情報誌をはじめ、日本全国うまいもの紹介なども手掛けている。