大手消費財メーカーの花王、ユニ・チャーム、ライオン3社の最新の決算が出そろった。花王とライオンは増収、構造改革に取り組む花王はわずかな減収だった。そして、3社の中で唯一の増益となったのが、ユニ・チャームだ。圧倒的な収益力で他社と差をつけている。しかし、競合他社も回復に向けた取り組みを開始した。花王は今期に600億円もの構造改革費用を盛り込んだ。ライオンも変革に向けて動き出している。

ユニ・チャーム業績好調の2つの要因


日用品など生活に身近な商材を提供するメーカーゆえに、消費者もその動向から目が離せない。

2023年1〜9月の各社の売上高は、花王が前年同期間比0.2%減の1兆1258億円、ユニ・チャームが同5.0%増の6874億円、ライオンが同3.5%増の2960億円だった。

営業利益は花王が同34.1%減の507億円、ユニ・チャームが同1.2%増の927億円、ライオンが44.1%減の125億円だ。ユニ・チャームの営業利益率は13.5%、花王が4.5%、ライオンが4.2%だった。

ユニ・チャームが通期の業績を予想通り通過すると、営業利益率は14.6%まで高まる。


大手消費財メーカー3社の2023年1〜9月の営業利益率比較(※各社決算短信より 筆者作成)


花王は2015年12月期から7期連続で営業利益率2桁台をキープしていたが、急激な原材料高に見舞われて利益率が低下。昨年12月期は7.1%まで下がった。一方、ライオンはコロナ禍の衛生用品需要の高まりで、2020年12月期に営業利益率は、前の年の8.6%から12.4%まで上昇していた。しかし、その後は反動減で7〜8%台まで下がった。今期は通期で6.1%を予想している。

ユニ・チャームの業績がこれほど好調な要因は2つある。
1つは海外の売上比率が高く、円安の好影響を受けていること。
もう1つは価格転嫁が奏功していることだ。


為替変動による押し上げ効果が働いた


ユニ・チャームの売上に占める海外比率は、実に7割に達する。花王、ライオンは、ともに4割ほどだ。

ユニ・チャームは2023年1〜9月において、売上高が175億円、営業利益は22億円の為替変動による押し上げ効果が働いている。この期間の営業利益は前年同期間比で10億円のプラスだった。為替の影響がいかに大きく作用しているかがわかる。

同社は1980年代に幼児教育事業や結婚情報サービス事業など手広いサービスを展開していたが、2000年代に組織再編を行って、生理用品や紙おむつ、ペット用品などへ事業の選択と集中を行った。


マレーシア・クアラルンプールのスーパーマーケットで販売されるユニ・チャームの紙おむつ


展開する事業の集中を進めた1990年代から2000年代前半にかけてはアジア圏に本格進出。中国やタイ、インドネシアなどの国々で現地調査を行い、その土地の気候や風土、文化に最適化した商品を開発した。ユニ・チャームの売上比率はアジア圏が日本国内を上回っている。ローカライズを徹底したことが、今の好業績を支えているのだ。


巧みな価格転嫁と販売数量のコントロール


価格改定効果も大きく奏功した。2023年1〜9月は原材料高で130億円の営業利益下押し要因となったが、それを上回る194億円を値上げで跳ね返した。なお、昨年の同期間はコスト高が300億円近い減益要因となった。しかし、販売数量増でそれをカバーしていた。

商品ラインアップを絞り込んでいるユニ・チャームは、数量と価格を絶妙にコントロールしている印象を受ける。

同社は今年2月から価格改定を実施するとアナウンスしたが、年末から1月にかけて駆け込み需要があり、2月と3月は納品が停滞。4月以降は巡航速度に戻ったと説明している。そうした中で、国内の生理用品、紙おむつは増収増益となり、ペット用品も業績をけん引している。


ユニ・チャームの2023年1〜9月のエリア別営業利益率 (※決算説明資料より 筆者作成)


ユニ・チャームでは、国内事業の利益率は、コスト高で2022年3月期に20%台から19%以下まで落ち込んだが、今期は再び20%に近い水準まで戻している。ただし、アジア圏は軟調だ。現状では、特に中国で苦戦をしていて、その原因としては在庫の増加が重荷になっていることがある。ここから、価格見直しによる反転攻勢に出られるかが注目される。

300億円の改善効果を見込む花王


花王が大幅な減益となっているのは、構造改革費用を計上しているためだ。2023年1〜9月においては、201億円の営業利益下押し要因となっている。

同社は今年8月3日に業績予想の下方修正を発表した。1200億円としていた営業利益を、半分の600億円に改めたのだ。600億円を構図改革費用として計上すると明らかにした。

花王は家庭用洗剤や生理用品、ヘアケア商品は好調だが、消毒剤市場の縮小を受けた業務用衛生製品、中国市場が低迷している化粧品で苦戦している。


海外で販売されている花王の家庭用洗剤


同社が取り組む構造改革においては、化粧品ブランドの再編や整理を行うほか、生産体制の最適化などを進めている。花王は2024年からその効果が出始め、2025年には300億円の改善効果が継続すると発表している。

ライオンはハンドソープ、ボディソープなどのビューティケア事業が今ひとつ伸びていない。2023年1〜9月の売上高は前年同期間比1割減少している。そうした中で、同社が注力しようとしている事業が、海外展開だ。アジアでの競争優位性を創出するグローカリゼーション戦略を掲げ、最重要市場と位置付ける中国への展開を強化している。さらに2024年までに2か国以上の新規国・エリアへの参入を図るとしている。

もはや日用品や消費財の分野は海外展開なしでは成長が語れなくなってきた。金利差を背景とした円安は進行する一方で、国が企業の海外進出を後押ししているようにさえ見える。コロナ禍を乗り越えた、消費財メーカーの新たな勢力図争いが始まっている。

取材・文/不破聡