「RIZAP」が手がけるコンビニジム「chocoZAP」が絶好調だ。“運動ノーガチ勢”に刺さりまくる斬新なジムには、RIZAPならではの自分磨きの哲学が隠されていた。RIZAP広報の小林拓輝(こばやし ひろき)氏に同社が考える新しいジムのあり方について聞いた。

日本のフィットネス人口は全人口の約3%…
潜在的な顧客層はまだまだ存在していた


気軽に、便利に運動でき、楽しく自分磨きができる場所として、運動初心者のニーズを汲み取り、急成長したchocoZAP。「5分でOK」、「着替えなくてOK」、「エステ利用だけでもOK」などなど、従来のフィットネスジムを根本から覆す経営のあり方が話題を呼んでいる。

常識破りのジム・chocoZAP誕生のきっかけは「日本のフィットネス人口の現状」、「コロナ禍」にあったと小林氏は語る。

「日本国内のフィットネス人口は、全体の3%ほどでして、これは米国の20%という数字と比べるとかなり低い割合。つまり、日本ではまだまだフィットネスへの理解と定着が不十分である一方、潜在的な顧客はまだまだ存在することがわかったのです。

加えてコロナ禍に入り、フィットネス業界全体が下火になるにつれて、弊社もその影響を受け、社内でも『何か新しい事業を始めねば』という機運が高まってきました。そこでデジタルを活用することによって、ブルーオーシャンだった運動初心者に向けたサービスを展開することに至ったのです」


現在は月100店舗ペースで出店、サービス開始1年で1160店舗まで増えた「chocoZAP」

初心に立ち返り、運動初心者が求めるジムを模索した


だがRIZAPといえば、パーソナルトレーナー指導の下、マンツーマンでトレーニングするサービスという印象が強い。もともと「人ありき」のサービスであるため、ITやシステムの構築を立ち上げる段階から無人ジム事業がスタートしたという。

「当初は社内のIT人材も少なく、すべてが手探りの状態で、さらに運動初心者のニーズも上手く掴めていなかった。RIZAPでは明確な目標のある方がターゲットですが、運動初心者向けとなるとまた違うメソッドが必要だと考えました。

そこで一度初心に返り、さまざまなパターンのジムを出店し、テストマーケティングを繰り返していくことで、一から運動初心者が求めるジムのあり方を模索することに。その際、もともとのパーソナルトレーニングジムというブランドに引っ張られすぎないようにRIZAPの屋号は極力隠した状態でテスト店舗を出店していたんです」

心機一転で臨んだ無人ジム事業。テストマーケティングを続けていくなかで、思わぬ発見があったと小林氏は語る。

「元来、RIZAPでは筋トレをメインに掲げたトレーニングメソッドを取り入れており、テストマーケティング時にも、1台でいろいろなトレーニングができるマルチマシンなどを設置していました。ですが、お客さまからは『使い方がわかりにくい』、『初心者にとってはハードルが高い』といった声が寄せられることも少なくなく、初心者の方は難しく、複雑なマシンを求めていなかったことがわかったのです。

そこで弊社は、『誰でも簡単に使える』環境を整えることが初心者の方には重要だと気づきました。このように、実際に試してみると、お客様から予想に反する答えが返ってくることも少なくなく、そこでの発見をサービス設計に活かすようにしました。具体的には有酸素マシンの人気が高い傾向にあることから、店舗でも台数を多めに設置するなどお客さまの意見を反映するようにしています」


有酸素マシンの「トレッドミル」。ウォーキングやランニングができるマシン


「No! 幽霊会員」を掲げる、RIZAPの健康に対する信念


RIZAPではITへの投資、人材の確保を進め、社内でデータやノウハウを内製化。chocoZAPスタート前の2022年6月にIT子会社「RIZAPテクノロジーズ」を発足し、同グループのさらなる事業展開に活かす方針である。

「chocoZAPのアプリでは、トレーニングした内容や摂った食事を記録する機能を搭載しており、健康管理を数値化できるようにしています。そして、いずれは取得したデータを基に、お客さま一人一人に合ったフィードバックをアプリが自動でできるように開発を進めております。『今日はカロリーを取りすぎたからこれぐらい運動しよう』といった具合にお客さまを支える仕組みを作りたい。

RIZAPではパーソナルトレーナーが、トレーニングや食事メニューを逐一フィードバックするメソッドを取り入れていますが、chocoZAPでもやり方は違えど、お客さまの健康づくりをお手伝いするという姿勢は崩していません」


アプリでは食事の管理や歩数での消費カロリーをわかりやすく見られる

変革のきっかけとなり、経営の第2の柱となったchocoZAPだが、その根幹にはRIZAPのときから変わらない健康づくりに対する考え方が根づいている。

「我々はRIZAPの事業を始めた当時より『運動の続かない人が続けられるようにどのようにお手伝いできるか』をミッションにしてきた企業です。そうした信念の下で活動してきたので、弊社では幽霊会員を生ませない努力を続けています。

フィットネスジムを運営する企業の中には、幽霊会員は施設を利用せずにお金だけを落としてくれるありがたい存在と捉えている企業もあるかもしれません。しかし弊社としては、せっかく入会してもらったからには長く続けてもらいたいという考え方を大切にしているので、幽霊会員の発生はむしろ我々の目指す理想とはほど遠い現象なんです。

chocoZAPではデジタルならではの力を活用した幽霊会員対策を施しています。来店記録がすべてアプリを通して記録されるため、来店頻度が減るとアプリ側から『ジムに来てください!』という旨の動画を送ることもあります。爽やかなトレーナーが土下座して頼み込んだり、熱血トレーナーが激励のメッセージを送って気合を入れたり、とクスっと笑ってしまうような動画を送ることもあるので、『何やっているんだ』と思いながら、少しでもジムに来てもらえるとありがたいですね(笑)」


chocoZAPを通して“幸福度の向上を”


おもしろく、楽しく続けてほしい、健康な身体づくりをしてほしいというRIZAPの思いは、chocoZAPのサービスの細かい部分にまで行き届いている。

RIZAPでは人、chocoZAPではデジタル、とお客さまをサポートするパートナーは変わるものの、どちらも「人々の健康に寄与する」という基本的な姿勢は変わっていないだろう。

「chocoZAPでは、会社帰りや買い物帰りなど日常に発生した隙間時間でトレーニングする、という新しいライフスタイルを提供していきたい。ふとしたときに来店してもらって、そのついでに運動してもらって、ゆくゆくは習慣化していただければうれしいですね。


空き状況などが一目瞭然、隙間時間で近場での店舗をすぐ探せる


なので最初は、エステや脱毛目的で来店してもらっても全く問題ありません。『今日は疲れたからエステマシンを使ってきれいになって帰ろう』それだけでもいいと思っています。通っていくうちに、『今日は運動してもいいな』と思ってもらえることが大事なので、chocoZAPを通してそのお手伝いをしていきたいですね。

少しスケールの大きい話になりますが、日本は主要先進国の中で、幸福度が低いと言われています。運動をすることは体を変えるだけでなく、脳等にも良い影響があることがわかっています。運動習慣を身につけて心身ともに健康になっていけば、幸福度も高まるかもしれません。chocoZAPを通して、少しでも日本全体の幸福度の向上に貢献できればうれしいです!」



2026年3月には2000店舗まで増える⁉︎ chocoZAP大躍進に隠れた「圧倒的なこだわり」とは?
はこちらから↓
『月100店舗ペースで出店の「chocoZAP」の秘策とは? 男性の4人に1人が利用するセルフ美容…「コンビニ&エンタメ」を追求する新しいフィットネスの形』


取材・文/文月/A4studio