4月1日にトラックドライバーの働き方改革関連法案が施行となる。本来はトラックドライバーを守るために労働時間の限度を定めた法案だが、労働時間が制限されることで逆にドライバーが働きづらくなることが懸念されており、「物流の2024年問題」として報じられてきた。施行直前、実際に働く現場ではなにか変化があるのか。現在23歳、2000年生まれの大型トラックドライバー女性の長谷川春菜さんに話を聞いた。

#後編

4月1日以降、時間外労働の上限が年960時間に制限されることで、日本の物流に混乱が起きることが懸念されている「物流の2024年問題」。4月1日を前にして、現場ではなにかしらの対策が講じられているのだろうか。

DXが進めばいいという話ではない

――トラックドライバーの働き方改革関連法案の発動(4月1日)が、迫ってきましたが、現場で働くドライバーの皆さんに動揺はありますか。

長谷川さん(以下同) ドライバー仲間とは「こうなったらいいよね」という話しかしません。実際に始まってみないとわからないところが多くて。

――具体的な対策が進んでいる部分はあるのでしょうか?

荷積み、荷下ろしの効率化をはかるとか、対策を講じている荷主さんもいますが、全体でみるとまだごくわずかです。

高速料金を負担してくれるのか。運賃アップに応じてくれるのか。現状だらだら待たされる荷待ち時間の解消は本当にできるのか。すべて荷主さん側の裁量なので、そこがわからないと、「ドライバーにどんな影響が出ますか?」と聞かれても答えられないんです。

いまあげた点が改善されないと働きにくくなることは確かですね。

――テレビなどではグラフを示して荷積み・荷下ろしの時間短縮が進んでいると伝えているニュースもみかけますが、実際には?

誰に何をどうやって聞いたらあのグラフになるのか、不思議な気持ちになります(笑)。いまでもドライバーが荷物の手積み・手下ろしをしなきゃいけない現場がたくさんありますから。

――物流業界全体でDX化が進んで手積み・手下ろしがなくなると効率化は図れるのでしょうか?

フォークリフトでパレットを積むほうが時間は短縮できますが、手積みのほうがきれいに多くの荷物を積めるので、1回の輸送で運べる荷物の量は違ってきますね。

ドライバーの中には手積みの美しさ、芸術的な積み方をすることに命をかけているという人もいたりして、一概に機械化が進めばいいとはいえないんですよ。トラックドライバーが働き方改革の恩恵を受けることができるのは、まだ先だと感じています。

なぜか改善されない荷待ち

――実際に走っている時間よりも、荷下ろし・荷積みの際の荷待ちの列がドライバーの労働時間を浪費させていると報じられています。問題に対応するため、あらかじめ到着時間を予約する「トラック予約受付システム」(バース予約システム)を導入する荷主さんもいるとか。

いまはまだ、そういう荷主さんもいらっしゃる…という程度ですね。全体の数パーセントだと思います。

そんなシステムを導入しなくても、「何時に積み込んで、何時に下ろす」という荷主さんからの指示時刻を、トラックごとに少しずつずらすだけで、違ってくるはずなんですけどね。なぜかそれが出来ない。

――列に並んで、自分の順番が来るのをだらだらと待つことになる現状は変わっていないと。

そうですね。その間は仮眠も取れないですし、ドライバーにとっていいことはひとつもないんです。なのになぜか一向に改善されず、そのやり方が昔からずっと続いています。

――1台ずつ時間を決めたとき、その時間に遅れるドライバーさんがいると、結局長い列を作ることになるんじゃないかという危惧が荷主さん側にあるのでは?

ドライバーが約束の時間に遅れることは、基本的にはありません。ドライバーにとってはそこが矜持、みたいなところがありますから。

もちろん天災や事故による渋滞、ドライバーのミスで納品時間に遅れてしまうこともありますが…。でももう少しドライバーが働きやすくなるように、業界全体が変わっていってほしいですね。労働時間に制限をかければいいという話ではないと思っています。

女性ドライバーの覚悟

――ある求人サイトがトラックドライバーの方に、「『物流の2024年問題』で給料が下がったらどうしますか」というアンケートを取ったところ、半数近くが転職を考えると答えています。もしもこの先、給料が減ったら長谷川さんはどうされますか。

イヤです(笑)。

トラックドライバーを守るための改革なのに、仕事は何も変わらない。でも給料は減るというのは納得できないです。

――そうなった場合、長谷川さんも転職を考える?

トラックのドライバーになるのが夢だったので、私は何があってもやめないです。

――トラックドライバーの中には会社に属さずフリーで仕事を請け負っている人もいます。

もらえるお金は多くなるんでしょうけど、その分負担も増すわけで。手元に残すお金を増やすために高速を使わず下を走ろうかなとか、自分を追い詰める働き方をしてしまいそうですし、経験の少ないいまの段階では考えていません。

――万が一事故でも起こしたらということですよね? 今回の働き方改革の施行ではもうひとつ、ドライバー不足…とりわけ、女性ドライバーの不足にも焦点が当てられています。

法律がどう改悪されても事故はドライバーの責任ですからね。

女性ドライバーは全体としてではまだ少ないですけど、増えてはいるしそもそも女性は入ってくるときの覚悟が違うんですよ。

――覚悟とは?

ドライバーは「自分の腕で稼きたい」と思っている人が多いんです。基本的にひとりきりの肉体労働ですからね。そんな業界に入ってこようとする女性はまず肝が据わっていますよね。

シングルマザーの方も多いですが、「この手でこの子を食べさせていくんだ!」という強い覚悟がありますから。簡単にはめげないし、やめないです。

――女性だから…という目でみられることはありませんか?

ありますよ。この時代でもたまに荷先で「女かよ」といわれたりしますから。そういうときは、「はい女です!」と答えるんですけど(笑)。

でも私はまだいいほうで先輩の女性ドライバーたちは、もっと酷いことをいわれたり、差別されてきたんだと思います。そういう先輩たちの苦労があって、いまの私たちがいるんです。そのことは絶対に忘れちゃいけないし、たとえ4月から働き辛くなっても、バトンを次の世代に繋げていきたいと思います。

取材・文/工藤晋
写真/松木宏祐
取材協力/じぇっトラTV
 

後編 中学生のときに大型トラックドライバーを志して