株価上昇に関するお祭りムード的な報道が連日あり、“新NISA”が今年1月から始まったことも相まって、今後はますます「株式投資」の話題は増えていきそうだ。とはいえ、約30年前に日本はバブル崩壊を経験しており、いずれ株価の大暴落は起きるかもしれない。『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)の著者で、京都大学人間・環境学研究科准教授の柴山桂太氏に、現在の株価の動向についての見方を聞いた。

巨大テック企業が牽引

日経平均株価は3月上旬、史上最高値となる4万円台を記録した。その後、一時は3万8000円台はまで下がったものの、週明けには3万9000円台に上昇して、再び4万円台まで届こうかという雰囲気を見せている。こうした現在の株価上昇は、アメリカの巨大テック企業が好調であることが背景にあると柴山氏は分析する。

「“マグニティセント7”(アップル、アルファベット、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの巨大テック企業7社の総称)が株価を伸ばしており、とりわけ半導体メーカー・エヌビディアの躍進は顕著。

数年前から世界的に“生成AIブーム”が巻き起こり、生成AIの開発に不可欠な半導体の需要が高まりました。その結果、エヌビディアの株価は飛躍的に上がり、今もなお世界全体の株価を大きく押し上げています」

世界屈指の巨大テック企業により、日経平均株価が引き上げられている部分は大きいという。ただ、グローバル展開している日本の“グローバル企業”もまた、日経平均株価を牽引している存在だと話す。

「有名自動車メーカーや総合商社など、グローバル企業は安定的かつ着実に業績を伸ばしており、日経平均株価上昇に大きく関与しています。また、グローバル企業は当然グローバル市場で戦っており、ハゲタカファンドに狙われないため、企業としての信用を獲得するため、自社株買いなどをして株価を上げなければいけません」

こうした経緯もグローバル企業の株価上昇の要因のひとつに柴山氏は挙げる。

「いずれにしても、グローバル企業の利益は国内だけではなく国外に落ちてしまう。利益は伸ばしていますが、日本経済全体を盛り上げることに直結していません。もちろん、そうした会社に勤務している人の給与や賞与には反映されていますが、あくまで一部の人に限られています。下請け企業や従業員には還元されているとは言い難く、好景気を感じられている人が国内に多くないことは、ある意味当然です」

新NISAを思いとどまれる理由

国内外問わず一部の巨大企業が好調なだけで、多くの人には関係ないという現状が見えてきた。とはいえ、株価好調の企業が少なくないことも事実。「せっかく新NISAがスタートしたのだから」と投資で利益を上げようと考える人もいるだろう。ただ、柴山氏はこれから株式投資に興味を持つことの危険性を指摘する。

「現在のアメリカの株価を見ると、企業本来の評価以上の高値がついており、“マグニティセント7 が好調”というよりは“ITバブル”といっていい。アメリカ政府もバブル抑制のために金利引き上げに動いているため、アメリカの景気後退はおそらく時間の問題です。日本経済はグローバル経済と完全に接続されており、アメリカの景気悪化はすなわち日本の景気悪化を招くことになりかねません。

ここ最近、メディアに出演しているエコノミストには『NISAを始めよう!』と勧めるケースが目立っています。ですが、老後資金を確保するために長期運用でコツコツ始めたい人は別として、『株で儲けてやろう』という思惑から新NISAに登録して投資を始めることは危険です」

また、柴山氏は新NISAそれ自体の問題点についても言及している。

「新NISAは国内企業だけではなく海外企業の株も購入できます。国内企業のみであれば、日本国内の経済でお金が回る好循環を作ることも期待できたのですが。海外企業に投資するために円が売られてしまうと、円安がさらに加速してしまう。円安の影響によって個人も企業も苦しい状況が続くなかで、そのあたりは今一度見直されてほしいです」

深刻なバブル崩壊は起きない?

現在の株価の好況を“ITバブル”という言葉で説明したが、平成初期に起きたバブル崩壊のような事態が起きる可能性は低いと柴山氏は予測する。

「30年前は借金をしてでも国内の株式や土地を購入する人が少なくなく、どんどんバブルが膨れ上がって崩壊に至りました。そのため、バブル崩壊によってかなりの経済的打撃を受ける人や企業が少なくなかったんです。ですが、現在の株価上昇はアメリカの巨大テック企業やグローバル企業によってもたらされているという違いがあります」

また、30年前のバブル崩壊当時では、金融市場が底割れしてしまったときの対応策を政府は持っていなかった。しかし、量的緩和政策やマイナス金利政策といった金融市場をコントロールするための技術を政府は現在持っており、大幅な株価急落は起きにくいと考えられる。そのため、仮にバブルが崩壊しても“大恐慌”と呼ばれる事態は起きないという。

人材獲得もグローバル化

ここまで柴山氏の話を聞くと、いかに日本がグローバル化の波の中にいるのかがわかった。グローバル化の影響は株式市場だけではなく、あらゆるケースに存在するが、とりわけ柴山氏は“人材獲得”における影響を危惧する。

「私が勤務する京都大学の学生を見ていると、新興企業やテック企業など外資系企業に就職したがる傾向が見られます。その理由は、国内企業と比較して賃金が俄然高いから。外資系コンサルも人気が高く、入社数年で年収1000万円を稼げるケースも珍しくありません。現在、外資系企業と優秀な人材の争奪戦が繰り広げられており、外資系企業に対抗できる待遇を設定したりなどしているグローバル企業は増えてます」

グローバル企業の待遇が大幅に見直されると、国内の格差拡大は避けられないと語る。そして、「いい大学に入っていい会社に就職する」というかつてのロールモデルが再評価され、学歴重視の社会に再び突入するかもしれないことを示唆した。

最後に柴山氏はグローバル化に影響されない、強い国内経済を作る必要性を主張して、そのための政策を提案する。

「やはり消費が最も活発な現役世代がお金を使いにくい税制になっているため、消費税減税や社会保険料減額は必須だと考えています。国内経済が活性化すれば、グローバル企業も日本市場を意識するようになるでしょう。そこで国内投資をした企業に向けた補助金を出せば、お金が海外に流れることなく、しっかり国内に落ちつくのではないでしょうか。

私としては震災大国の日本において、東京一極集中が進行している現状は不適切と考えています。もし東京都に地震が起きた場合、日本経済は崩壊しかねません。大都市に集まった人口や資本を分散させるため、国内、特に地方に拠点を構える企業を後押しする制度は必要だと思います。そういった生産拠点を国内回帰させる流れを作れば、海外の経済状況に影響されない安定感のある国になっていくでしょう」

現在の株価好調は、日本がいかにグローバル経済に影響されやすい現状にあるかということに警鐘が鳴らされているのかもしれない。株価上昇に浮かれるのではなく、むしろ危機感を持つ必要があるのではないか。

取材・文/望月悠木 写真/shutterstock