不動産バブルの崩壊など、ここにきて経済の減速が著しい中国にあって、特に深刻な国内問題となっているのが若者の就職難だ。昨年の6月には16歳〜24歳の若者世代の失業率が20%超えという過去最悪のスコアを記録し、日本の氷河期世代以上に過酷な状況だといわれている。だが、その実態は少し違うと語るのは、YouTubeチャンネル『趣味で中国人★Pooちゃんアルヨ』で中国事情を配信する中国人YouTuberのPooちゃんだ。

中国で「専業子供」(ニート)が増えている理由

今年、3月に開催された中国の国会にあたる全人代こと、全国人民代表大会。ここでも若者の就職難が議題となり、中国政府は「就業困難層を強くサポートしていく」と発表したが実態は少し違うと、中国人YouTuberのPooちゃんは言う。

「就職難って言うけど、これ、中国人のメンツの問題なんだよな。それも若者世代のメンツじゃなくって、40〜50代の親世代のメンツ問題。そもそも中国の都会なら仕事はあるし、月給だって日本円で20〜30万円はもらえる。

日本でも、実家に住んでてこれぐらい給料もらっていれば本人的には満足でしょ。けど、それじゃ納得しないのが中国の親世代なんだ。

親世代は友達や親戚同士で『子供の就職先マウント』があるから、月給20万円の会社にはなかなか就職させない。“就職難”の背景には、中国ならではのこうした特殊事情がある」

近年の中国は、日本や欧米以上の学歴社会となっている。それこそ幼稚園から膨大な教育費をかけて英会話やプログラミングなどをマスターさせるのは当たり前で、そうやって国内外の名門大学を目指すのが既定路線なのだという。

「中国で“最強の学歴”といえば、アメリカやイギリスへの留学組。でも留学させるには相応の教育費がかかるわけで、親のメンツからしても、そうした子どもの就職先は給料の高い外資企業一択。

つまり子どもがマイクロソフトやBMWみたいな外資に就職して月給50万円以上をもらってこないと、メンツが立たないってわけ。

だから外資に入れないんだったら就職をさせない。とりあえず実家にいさせて、お小遣いをあげて家事手伝いみたいなことをやらせる。中国だと『専業子供』とかって表現するんだけど、要は完全にニートなんだよ。

ただ、こういう子どもたちは、みんなそこそこの金持ちでお小遣いももらってるから、日本の氷河期世代みたいな悲壮感はまったくないんだよね。だから中国の若者の失業率については、学歴があってお金持ちのやつがどんどんニートになっているというのが実状だね」

公務員になるには「軍隊入隊」が近道?

昨年、中国都市部での軍隊への入隊希望者は、その8割が大卒者だと報道された。中には名門の精華大学や北京大学の卒業者も軍へ入隊するという。この背景にも若者の就職難があるのだろうか。

「軍に入隊するのは、留学はしてないけど、そこそこいい大学を出た中流家庭の子どもが多いんだよ。そうした連中は公務員を目指すことが多いんだけど、中国は公務員の採用はコネとカネが物を言う世界だから、学歴だけではどうにもならない。そこで、一時的に軍隊に入るんだ。

中国は水害が多いし、災害派遣される軍人もけっこう大怪我したり、死んだりする。だから軍人はすっごい感謝される。例えば、2年間軍隊にいて『3回、災害派遣行きました!』というのは、公務員試験的にはかなりのプラス材料になる。つまり軍隊に入れば、コネとカネがなくても評価されるんだ。

そして『うちの息子は軍隊で災害派遣に行ってます!』というのは親的にも、かなりメンツが立つんだよ」

ちなみに、中国の田舎だと日本で言うヤンキーみたいな連中が、親から強制的に軍隊に入れられることが多い。軍隊は厳しいからみんな更正するし、『グレてた息子が軍隊に入って、こんなに更正しました!』というエピソードトークも親的にもメンツが立つんだ」

昨今、日本で報道されるのは、おもに中国都市部での就職難だが、中国の田舎の就職事情はどうなっているのだろうか。

「オレの実家は中国の南、広東省の田舎なんだけど、実家も友達もみんな工場経営をやってる。だから、高校や大学を出たら家業の工場を継ぐのが基本。で、その工場で働くのがさらに田舎から出稼ぎにきた若者なんだ。彼らは学歴もお金もない人だけど、チャンスは都会よりもこっちのほうが大きい。

給料は都会の半分ぐらいだけど、住む場所も朝昼の食事もタダ。で、仕事のできるやつはどんどん出世して、最終的には新しい工場を任される。そしてその後は工場の社長の養子になるんだ。

中国では家族が増えるのは賑やかで楽しいと歓迎されるし、増えた家族が村の有力者と結婚すればカネとコネが生まれて、ビジネスも大きくなるからメリットしかないんだよね。だから、オレの田舎だと『こいつ新しい家族だから、よろしくな!』っていうのは“お正月あるある”だよ」

「中国不動産バブル崩壊」のウソ

ちなみに中国の不動産バブルも都市部と田舎では事情が全然違うという。

「都心部では不動産不況に歯止めがかからないとか報道されてるけど、オレの田舎は今も不動産バブルだよ。でも、北京や上海に住む都会の金持ちは、広東の田舎のマンションには興味がない。だって、これを買ってそこそこ儲かっても田舎のマンションじゃメンツが立たないからね。

中国は都会と田舎で生活スタイルや金銭感覚がまったく違うんだけど、とりあえずメンツさえ捨てとけばどこでも快適に暮らせるんだよ。仕事はあるし、まだまだ不動産だって儲かる。みんな、メンツ重視で選り好みしすぎるから、ネガティブな報道が多くなっちゃうんだよな」

ところで、現役中国人であるPooちゃんにはメンツはあるのだろうか。

「ないです(笑)。オレの親目線だと、メンツ的には最底辺の息子なんだよ。オレは中国の高校を出て日本のデザイン専門学校に留学したんだけど、“日本に留学”って部分だけは親のメンツをクリアしてる。

でも、その後は親からお小遣いもらいながら、日本で芸人やったりYouTuberやってるから、親のメンツ的には完全にアウト!だから、オレの親は親戚や友人に『息子は日本でデザイナーをやってる』とウソをついてるよ(笑)。

ただ、日本は中国ほどメンツを意識しない社会だから、オレみたいに親のお小遣いでフィギュアを買ったり風俗に通ってても、誰からも文句を言われることなく快適に暮らせる。これが中国だと、オレは即軍隊送りだよ。だから、やっぱ日本は住みやすい国なんだよな」

取材/直井雄太