東京・上野を中心に飲食店十数店を展開する「サンエイ商事」社長の宝島龍太郎さん(55)=本籍・東京都台東区=ら2人の遺体が栃木県那須町の河川敷で燃えた状態で見つかった事件。客引きなどのトラブルでサンエイ商事との間で訴訟を4件抱えている飲食店運営会社の社長が集英社オンラインの取材に応じた。

サンエイ商事と妻・A子さんを被告として損害賠償を求める訴え

宝島さんらの遺体は4月16日朝に見つかった。もう一体の遺体は女性とみられ、宝島さんと仲が良く、常に一緒に行動していたという妻・A子さんと連絡が取れなくなっていることから、栃木県警はA子さんの可能性を念頭に身元確認を進めている。

死因は2人とも首を絞められたことによる窒息死。遺体はいずれも両手を結束バンドで縛られ、顔に粘着テープが巻かれていた。

「栃木県警は17日に『自分がかかわってしまったかもしれない』と言って東京都内で出頭した男から事情を聴きました。しかし強制捜査に踏み切る決め手がなく帰宅させています。県警は複数の人物が車を使い犯行に及んだとみて捜査員を上野周辺に投入しています」(社会部記者)

事件につながった可能性があると栃木県警がみているのが、サンエイ商事の系列店が近隣の店と起こしていたトラブルだ。焼き肉屋や居酒屋、バーなど少なくとも14あるサンエイ商事の系列店はJR上野駅から御徒町駅の間に集中し、一帯は「宝島ロード」と揶揄されるほど系列店の存在感は大きかった。

だが「サンエイ系列店の周辺はしょっちゅうトラブルになっていた。客の呼び込みで揉めていて、宝島さんの奥さんがそこに加わると、ものすごい剣幕だった」と近所の商店主は話す。

なかでも、都内で別の場所にも店を出すB店との間では「激しい軋轢が起きていた」と、周辺の飲食店の多くの人が口をそろえる。

関係者の証言から、B店の運営会社が昨年秋にサンエイ商事とA子さんを被告として損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こし、サンエイ側も対抗してB店関係者から暴行を受けたなどとして3件の損賠請求訴訟を提起していたことがわかった。このB店の社長Cさんが取材に応じた。

「裁判は、うちが先にかけました。営業妨害が理由です。毎日うちの店の前で、向こうの従業員らが幽霊みたいにまとわりついて、われわれがお客さんを案内するのを邪魔して、『この店はおいしくないよ』などと言ってきたりしてたんです。100パーセント営業妨害ですよ。画像も証拠として弁護士に渡してます。

うちの店員に喧嘩をふっかけてきたこともありました。(サンエイ商事経営の)D店があの周辺では一番古いんですが、うちが(近所に)オープンした後では、以前あった売り上げの『半分になった』といわれました」(Cさん) 

妻のA子さんもCさんに3件の損害賠償請求訴訟を起こしていた

昨年10月に提訴したCさん側はその後、2021年8月から提訴後の2023年11月までにサンエイ側が行った営業妨害行為だとする54の行動を羅列した記録も東京地裁に提出している。

A子さんが看板を勝手に移動・破損したり、客の呼び込みを妨害したりしたなどと主張。Cさんが暴言を吐かれ、頭突きを食らったり、勝手に店に入られた、とも主張している。2021年9月10日には警察が出動していたとの記録もある。

これらはCさん側の言い分であり、サンエイ側はこれらに真っ向から反論している。

準備書面では「万一、被告(A子さん)が悪評を発言していたとしても、これは、従前よりB焼き肉店の従業員が被告(サンエイ商事)運営会社店舗に入店しようとした客に『その店で出しているのはゴミですよ』『皿洗ってないですよ』などの悪評を発言することが多々あり、それに対抗すべく行なったものにすぎない」と、先にやったのはB店だと主張。

「原告代表者(Cさん)は被告会社(サンエイ商事)従業員に対して繰り返し暴力行為を行なっており、その被害者は複数名に及ぶ。暴行を受けた従業員は、全員、またいつ暴行を受けるかわからないという不安から、被告会社を退職した」とも訴えている。

また、B店の隣でサンエイ商事が同じ業種の飲食店を新たに開いた際、B店もこれに対抗して“オープン”とうたって宣伝するなど最初から敵対視しており、その後、過度な嫌がらせを行なうようになったので「これに耐えかねた被告(A子さん)は、対抗すべく、苦渋の決断により、されている行為と同様の行為を行うようになった」とも申し立て、その過程でB店側から暴行被害を受けたとして3件の損害賠償請求訴訟を起こしている。

暴行の訴えにはCさん側は訴訟の中で「被告(サンエイ)側から原因を作出したものやCを刑事訴追するため、わざと暴行を受けたように装うものなどで、損害賠償義務はない」と再反論。どちらに問題があるのかは裁判所の判断にかかっている。

「最近も近所の店舗と揉め事があったんだ」

一方、Cさんは提訴した時期に近い昨年10月、店を他の経営者に譲り、現在は都内の他の場所で焼き肉店を運営している。

「うちは諦めて上野の店を出た。(サンエイ側は)上野界隈でいろんな店と揉めてるでしょ。僕は店を売って、それでここ(現在店を営業している場所)にきた。こっちのほうがとんでもなく気が楽だ」

栃木県警も、A子さんとのトラブルの現場にいたことがある元従業員らから当時の状況を詳しく聞く必要があると思っている模様だ。そうなるとCさん自身にも目が向きそうだが、これを尋ねると以下のように返ってきた。

「(殺人事件を)やっちゃったらここ、いないよ。海外に飛んじゃってるよ。人殺してまだここに居座ってたら問題あるでしょ。それにそこまでやる意識があれば、上野の店を閉めずにそのまま営業しているから。
でも、ほんと上野を出てよかったよ。まだ(上野で店を)やってたら『100パーセント僕が犯人だ』って疑われる。いろいろ恨みをかっていたほうだし、事件前も近所の店舗と救急車が出動する揉め事があったんだ。元従業員の子からもお金にかかわる相談を受けている」(Cさん)

宝島さんの親族は、17日の集英社オンラインの取材で「敵は多かった」と話している。事実、取材班もCさん以外の近隣店舗の経営者とも同様のトラブルがあったことを聞いている。

“仕事一筋”で繁華街でのし上がるにあたり、複数のトラブルを抱えていたとすれば捜査範囲が広がるのもしかたないが、その残虐さで社会に衝撃を与えた事件だけに、明確な解明も待たれている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班