もう「アレ」とは言わない。そら連覇を目指すよ。38年ぶりの“アレのアレ”に導いた虎の名将・岡田彰布が、いまだから明かす「岡田の考え」を赤裸々にした新著『普通にやるだけやんか オリを破った虎』(Gkken)より岡田監督の巧みな選手との掌握術を一部抜粋、再構成してお届けする。

選手との会話は起用法で行う


おれの考え方は「選手との会話は言葉ではなく、選手に対する起用法で行う」というもの。ああだこうだと言葉で言うより、その選手に求めるものは使い方で伝わると思うとる。

2023年を例にとると分かりやすい。打順も守備位置も固定した。一番センターに固定した近本。①外野守備の要になれ、②安打数ではなく出塁率にこだわれ、③盗塁はジスボール(次の球)のサインで出す、④走者を置いた打席では好きに打て──などのメッセージが込められている。

近本は野球に対する理解が早い。足の速い左の一番打者なら、相手投手によっては、内野安打を狙うという方法がある。野球界でいうところの「走り打ち」だ。打席で体を開いて、スタートを切りながらバットに当てる。とてもクリーンヒットが打てそうにない出来の投手が相手のときに、ボテボテの左方向への内野ゴロで安打にする。

キャンプの早い段階で、近本を含む何人かでそんな練習をして、一塁までのタイムを計った。結果からいうと近本は速くなかった。振り切るタイプのスイングだから、スタートが切れない。

無理に「走り打ち」を求めるより、好きにスイングしたほうがいい結果につながる。そういう一番打者もいる。キャンプで確認することで、使う監督も、使われる選手も納得してチームとしての方向性を確認する。

それが監督と選手の会話やと、おれは思っている。


連覇についての思いを語る岡田監督 写真/共同通信


二番中野は遊撃から二塁にコンバートした。肩が強いほうではない。その結果2022年は遊撃の守備位置が前になっていた。グラウンドの中では分からない。ネット裏上段の記者席だからこそ俯瞰して見えた、評論家・岡田の目ということやな。もともと守備力はある。東北福祉大では二塁が本職やった。そんなん誰も知らんのやからなあ。

二塁やったら送球を気にせんですむから、守備範囲も広くなる。余裕を持てば一流の二塁手になれる。ゴールデン・グラブ賞の常連だった名手、広島・菊池を上回る日本一の二塁手が誕生した。
「思い切った中野の二塁コンバートが、優勝への大胆采配」とかいう声もあるけど、そんなんおれにしたら当たり前のことやん。中野を二塁で使うって普通の采配やんか。


ベテランとは直接会話する


とはいうても、おれもまた、何事も自分のペースで考えがちやったとは思うよ。「そんなんいちいち言わなあかんのか」といつも思うてた。今は違う。「いちいち言わなあかんのよ。特に若い子はなあ」と考え方を改めた。

「なぜそうするのか」を伝えないと、今の子は動かない。以前なら問答無用に、やれと言われたことをやれで通せたけどなあ。今はまず理論的に納得させて、そのための方法論、目的、目指す結果まで伝えてやらんと動かんわ。だからキャンプから、意識して選手と話したときもあるよ。

選手との会話を心掛けたというより、自然にそうなった感じよな。伝え方は選手によって変えたよ。投手陣では実績のある青柳や、ベテランの西勇とは直接会話することがあったなあ。


写真/shutterstock


このクラスの選手は自分の考え方をしっかり持っている。一方的に指示するんではなく、こんなやり方もあるぞと打者目線で示したほうが伝わりやすい。グラウンドで話し込んだり、ときには監督室に呼んだ。

選手側からも近寄って来た。開幕投手で起用したが、シーズン中調子の出なかった青柳には日本シリーズ第7戦、最後の大舞台で先発させた。「最初と最後はお前に任せる」と青柳には伝えた。「思い切った起用」といわれたけど、そら秘密兵器やん。オリックスには日本シリーズで初登板やん。変則のタイプやし、おれにはいけるという感触があった。

6戦目青柳、7戦目村上でもよかったんやけど。ブレイクして1年目の村上にそこまでプレッシャーはかけられない。プレッシャーかけるんやったら青柳に、もうお前が責任取れ、とそういう覚悟よな。開幕投手の青柳には、エースとしてのプライドがあるし、信頼に応えてマウンドで答えを出したわなあ。それが普通のことよ。


おぼっちゃまルーキーにはマスコミを活用


ルーキーの森下には、マスコミを通してメッセージを出した。「きついことを直接言うと泣き出すからなあ」とマスコミの前では言うといた。「監督にきつく言われたら打つ」とか言うとる選手もいたなあ。まだシーズンを通しては打順も固定できないし、ファームにも行かせた。そら新人として学ぶべきことは多いよ。そのことを直接の会話ではなく「打撃の波が大きすぎる」などと、やるべき課題をマスコミの取材で答えたんよ。

「今の子」やからなあ。恐れを知らんというか、物怖じしないわなあ。マイペースで大胆。何事もこだわらずあっさり切り替える。練習熱心で真面目ないい子や。向上心もあるし、いろいろと考えてはいるんやろ。

おれの1年目とはえらい違いよな。おれは毎試合、甲子園の試合が終わると、親父(故・勇郎さん)に連れられて新地へ繰り出した。

一方で森下のようなタイプは打たれ弱い。甘えん坊のおぼっちゃまやからなあ。だから直接対話ではなく、ワンクッションを入れるようにした。


やんちゃな子にはコーチから


同じ「今の子」でも、佐藤輝はちょっと違うんよな。やんちゃでマイペースというかなあ。その割に単純な「野球バカ」にはなれない。理屈や理論にこだわりすぎずに、ストレートに野球に取り組む。それが必要な場面もあるんよなあ。「野球バカ」になれないから言い訳ばかりしているように聞こえるんよ。

佐藤輝には平田ヘッドコーチに伝えさせた。アマ時代に厳しい規律で鍛えられた経験がない。仁川学院、近大とお山の大将でやってきた。それでもトッププレーヤーでいられる身体能力があったのは確かやろ。だからプロでの練習も、自分のペースでやろうとする。

早稲田やったら4年間続いてないんと違うか。いい意味で早稲田の野球は「野球バカ」でないとついていけない。佐藤やったら夏合宿の途中で、軽井沢から逃げ出してたかもしれんわ。

佐藤に厳しく接した指導者は、おれが初めてと違うかなあ。それも野球の技術以外のことやからなあ。夏前にスタメンを外したとき、拗ねたような態度で守備練習に出てこなかったんよ。試合中もベンチの奥に引っ込んだまま。もともと練習の姿勢も、とことん追い込むようなことはしない。適当にこなそうとする傾向がある。

どこかで、言わなあかんとは思っていた。直接は言わんよ。これは自分で気が付くしかないんよ。野球の技術じゃなくて、野球に取り組む姿勢の問題やからな。佐藤の態度は他の選手が見ている。佐藤を特別扱いできない。だから平田ヘッドコーチに「二軍に行ってもらう」と言わせた。


『普通にやるだけやんか オリを破った虎』(Gkken)

岡田彰布

2024/3/14

1,540円

224ページ

ISBN: 978-4054069817

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もう「アレ」とは言わない。そら連覇を目指すよ。
38年ぶりの“アレのアレ”に導いた虎の名将が、
いまだから明かす「岡田の考え」。
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★おれのほんまの気持ち、書くわ
「優勝して出たのは涙より感謝の言葉」
「出来ることを普通にやる、出来ないことをしようとするな」
「作戦はブランコに乗って考えた」
「短所を直すよりも長所を伸ばしてやる」
「采配とは失敗したときに慌てず対応すること」
「言葉よりも行動で信頼を伝える」
「大切なのは“引き出し”をたくさん持つこと」