「サクマ式ドロップス」を生産していた佐久間製菓廃業のニュースは記憶に新しいが、ルーツが同じで名前が酷似する「サクマドロップス」は今も健在。今回は長く愛されている「アメ」についてレポートする。

私は実家が駄菓子屋だったせいか、50歳近いおじさんになった今でも「菓子」と名が付くものが好きで、ここでも菓子の思い出をよく書いている。しかし、最近気づいたことがある。あなたは普段、アメを買うだろうか。

小さな子どもでもいない限り、積極的に買う大人は少ないのではないか。かくいう私もそうだ。健康志向やコロナ禍という変化を受け、長年日本人に親しまれてきた菓子には、売れ行きが厳しくなっているものがあるらしい。アメも例外ではない。

気づけば自分自身、スポーツしながら塩分摂取、のどがイガイガする時ののど飴などという、機能的な付加価値のあるアメ以外、口にしなくなっている。

しかし、子どもの頃は喜んで食べたアメを、今一度見直したい気持ちになった。今でもスーパーや町の菓子屋で売られ、長く長く愛されているアメをあらためて買って食べ、懐かしい思い出と共に振り返ってみたい。




アメの記憶の原始にある、添加物皆無のあまじょっぱさ


カンロ飴(カンロ株式会社/180円/10分)


パッケージも含め、なにもかもシンプル


私のアメの記憶の原始といえばこれ。
もちろん実家の駄菓子屋の店頭にも並んでいて、最も頻繁に食べさせてもらえた菓子だった。
原材料を見て納得。添加物皆無のシンプルさ。
とりあえず子どもに与えて間違いない。そんな安心感だ。


中央の帯のように見える筋は、成形型の隙間によってできるらしい


幼い私は与えられた包みの両端のしぼりを引っ張り、転がり出た茶色いガラス玉のようなアメを口に入れたものだ。
アメの包装の解き方を最初に教えてくれたのは間違いなくこのアメだった。
40年以上の時を超えても同じ甘しょっぱさが、それを思い出させてくれた。


本物の代わりに食べていたドーナツ型、舶来イメージの強いアメたち


パインアメ(パイン株式会社/149円/10分)


ひと目でパインとわかる色と意匠のパッケージ


これも、物心ついた時には身近にあったアメ。
当時なかなか食べられなかったパイナップルの味を楽しむ手段でもあった。
輪切りの果実を模したドーナツのような形状が特徴で、なめているとだんだんと穴が広がり、細い輪っかとなっていく。

私はこのアメを見ると、幼い頃家族と一緒に行った、近所のラーメン屋を思い出す。そこのラーメン屋では、食事を終えて親が会計を済ませると、子どもに一つずつ、このアメをくれたのだ。


真ん中の穴と放射状の溝が輪切りのパインを模している


家族との外食のささやかなデザートになってくれたパインアメは、私の記憶の中で鮮やかなイエローを主張している。


チェルシー(株式会社明治/213円/11分)


シックな黒字に鮮やかな色で三種の味を主張するブランドデザイン


アメというよりキャンディーと呼ぶのが相応しいかもしれない。バター、ヨーグルト、コーヒーという3つのフレーバーで、子どもだった私達にはダントツでヨーグルトが人気だった。ミルク感を含む甘酸っぱさは、当時他のアメにはなかったからだと思う。


乳白色と洋菓子のようなフォルムは、今でもオシャレだと思う。


舶来イメージの強いCMは今でも憶えている。
たどたどしい口調で「あなたにも、チェルシー、あげたい」とつぶやく白人の少女。
「ほうら、チェルシー、もうひとつ、チェルシー」というテーマソングはまだ口ずさめる。
まるで異国からの転校生。そんな憧れすら感じるアメだった。


子供の頃は“ハッカ”味が苦手だった


サクマドロップス(サクマ製菓株式会社/139円/10分)


多くの味が詰まっていることがひと目でわかり、ワクワクする


言わずとしれた、長い歴史のあるアメの代表格である。
初の国産ドロップ「サクマ式ドロップス」を生み出した佐久間製菓は、コロナ禍の需要減少や原材料費の高騰で、2023年1月に廃業。
商品名が酷似しているため、混同している人もいるかもしれないが、ルーツが同じでも別商品のこちらの「サクマドロップス」は、今も健在だ。

このアソートには8種類の味が含まれていて、味は色で分けられている。
ただ、ハッカとスモモ、リンゴとイチゴは見分けにくく、形状で判断しなければならない。


各味ごとの色と形が見た目にも楽しい


思い出すのは、子ども達にはハッカが最も不人気だったことだ。ミントのガムに味が似ていて、食べられない子もいた。だから白い粒はみんな避けていた。

しかし今はむしろ爽快で好きな味だ。まさかこんな日が来るとはな、と、口の中で転がした。


いちごみるく(サクマ製菓株式会社/139円/12分)


こんなに可愛いのに実は50歳を超えている、美魔女のようなアメ


サクマ製菓のもう一つの大ヒット商品。
見た目の可愛らしさと、子どもが好きなイチゴミルクというモチーフで、幼い私達の心を鷲掴みにした。

中がミルフィーユ状の層になっているのが特徴で、噛んでも心地よい歯ざわりを楽しめる。
現代においてもなかなか凝った作りだ。


形状、色使い、なにもかもが愛らしい


しかし、おっさんになった私にとっては、あまりに可愛らしいパッケージを手にレジに行くのが、少々気恥ずかしかった。


チュッパチャップス30分舐められるのか検証してみた結果…


チュッパチャップス(クラシエフーズ株式会社/1本39円/?分)


今でも棒付きキャンディといえばこれ。あちこちで見かける


さて、ここまでアメを紹介してきたが、それぞれのキャプションに"○分"と書いていたことにお気づきだろうか。実はこれ、アメを舐め終えるまでの所要時間。このチュッパチャップスと比較するために必要なデータなのだ。

チュッパチャップスが登場した際のキャッチコピーは『30分おまかせキャンディ』だった。サイズが大きく「30分舐め続けられる」というPRだったのだと思う。

ただ「30分間、飴を舐め続ける」という行為そのものが、子どもには厳しかった。私も途中でギブアップした記憶があるし、今回周囲の知人達にヒアリングしたところ、同意見が多かった。

というわけで今回は、大人力(笑)で本当に30分間舐め続けられるのか、試してみた。

数十年ぶりにお目にかかったアメ本体は、昔よりも小さい気がした。
とはいえ、他と比べれば大玉であることには間違いない。


包みを開いたばかりの0分の状態。記憶よりも小さく感じる


口の中で転がしていようと舐め始めたのだが、即座に「舐めにくい」と感じた。考えてみれば当然だが、このアメ、棒を手に持って舐めることが前提なのだ。口の中で転がそうとすると、唇に緩衝して思ったように動かせない。

これは困った。仕事をしながら時間を測るつもりだったからだ。子どもにとって30分は長く退屈な時間だが、大人にとっての30分は短くも貴重な時間。
結局、口の中に入れっ放しでPC作業をしたが、これが結構大変で、転がるアメにつられて棒が動き回り、口周りがものすごく疲れた。

10分後にはかなり小さくなっていたが、そこから先がなかなか減っていかない。20分以降は触れられるアメの面積が小さくなり、棒を舐めている感覚になっていった。


20分後。噛んでしまいたい欲求をじっと抑えてこの後7分舐めきった


果たして、舐め終えたのは27分後。
ほぼ「30分おまかせ」は間違いなかったが、子どもならもっと長時間を要するはずだ。
そもそもこのアメ、子ども向けではなかったのかもしれない。


環境や手間に依存せず楽しめる、菓子の原点が“アメ”


アメはその甘さを唾液で溶かして味わい飲み込む、非常にシンプルで、逆に言えば食感に面白みがあるわけでもない「地味な菓子」だ。

しかし、だからこそ、歯の未成熟な子どもでも親しめ、他の菓子に比べて安価で圧倒的に長時間の口福を与えてくれた。

今回、この原稿を書くために大量のアメを購入し、絶対に食べきれないだろうな、と思っていたのだが、仕事をしながら長時間口を退屈させないことで、意外にもひょいひょい食べてしまっている。

シンプルであるがゆえ、環境や手間に依存せず楽しめる菓子の原点。それがアメだったのだ。

近年、圧倒的人気で若者の話題をさらっている菓子といえば、グミがある。
コロナ禍の生活様式の変化で、2022年にはガムを200億円以上上回る市場規模となったグミは、健康志向にも合致している。

キシリッシュガムが2023年、グミに生まれ変わったが、アメもこれからグミのような新しい触感を楽しめる進化を辿るのかもしれない。

社会の変化という荒波に揉まれ、昨今忘れられがちな懐かしいアメ達だが、私にとっては変わらず愛すべき菓子であることに違いない。

ずっと身近にあったからこそ目立たないが、みなさんも懐かしいアメ達を時々は思い出し、手にとって楽しんでもらいたいと思う。



文・イラスト・撮影/柴山ヒデアキ