23年間、地球人になりすまして過ごしてきた宇宙人を中村倫也が演じたコメディ映画『宇宙人のあいつ』。バナナマンの日村勇紀など魅力的なキャストとの撮影エピソードや、映画や自身の結婚を通して改めて考えた “家族”について聞いた。

宇宙人の役作り……何もしていません(笑)



──『宇宙人のあいつ』は、地球に来た土星人が、高知県で焼肉屋を営む真田家の次男・日出男になりすます……という奇想天外なコメディ映画です。日出男を演じるにあたって心がけたこと、役作りについて教えてください。

日出男は人間の生態を調べる目的で真田家にやって来ているので、キャラを前面に押し出すというより、真田家全体を俯瞰で見ることを意識しました。あとは真田家の兄弟(日村勇紀・伊藤沙莉・柄本時生)との会話のグルーヴ感。

とにかく賑やかな兄弟なのでノリを大切にしました。まあ、役作りといっても宇宙人なので(笑)。特別なことは何もしなかったです。


©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会


──飯塚健監督からのアドバイスはありましたか?

飯塚さんはご自身で脚本も書かれているので、俳優たちがどんな芝居を繰り出してくるのか楽しみにしているし、自分のイメージを「超えてきてくれよ!」という期待もあると思います。だから監督から芝居について細かく指示されることはなかったですね。


©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会


──中村さんから見た日出男の魅力はどこでしょう?

人間の生態を見て、いろいろなことを吸収しようとしている子どもみたいなところがあります。子どもの頃、大人の会話を耳にして「何の話をしているのかな」と、好奇心を持って見たり聞いたりしていたじゃないですか。

日出男ってそういうところがあるんですよ。子どもが「なになに?」って興味津々で近づいていく感じ。そんな可愛らしさが彼の魅力だし、僕の好きなところです。

──この役は、飯塚監督が中村さんを想定してあて書きをしたそうですね?

役者冥利に尽きますね。本当にうれしいし、自分のイメージで書かれたキャラクターなので合わせにいく必要がなく、楽をさせてもらいました(笑)。だからこそ、あまり余計なことをやらない方がいいと思ったんです。

──それにしても宇宙人の日出男はつかみどころのないキャラクター。あて書きということは、中村さんにもそういう部分があるのでしょうか?

「何考えているのはわからない」と見られているのかな(笑)。僕はいつも正直なんですけどね。

でも思い返してみると、10代の頃から「若手らしくない若手」と認識されていたみたいです。「やる気も見えないし、悩んでいるところを見たことがない」という印象を周りの方たちは持っていたようで。当時はそれについて悩むこともありました。

でも、今では受け入れていますし、逆にそれをうまく使って芝居に生かすのもプロの役者だと思っています。


朝ごはんシーンに映画の魅力がつまっている!



──『宇宙人のあいつ』は朝ごはんが家族にとって重要な時間ですよね。食べながら芝居をするのは大変ではないかと思うのですが、食事シーンの撮影はいかがでしたか?

俳優は、2つのタイプに分かれると思うんです。ひとつはマナーを大切にしていて見ている人が不快にならないように気をつける人。もうひとつは、口にご飯が入ったまましゃべっても気にしない人。

真田家の4人を演じた俳優たちはみんな後者だったので、「怒られたら直せばいいかな」くらいの気持ちで演じていました。「熱っ!」となって口からこぼれても、拭いたりするリアクションが取れれば成立するので。僕は食事シーンに対してそれほど苦手意識はないです。


©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会


──真田家の朝ごはんで行われる真田サミット(家族会議)も魅力的でした。家族が全員揃って食事の時間に話し合うことは、大人になると意外とできないことだと思います。

僕は最初に脚本を読んだとき、飯塚さんがこの映画で描きたかったことがあのシーンにつまっていると思いました。

僕が子どもの頃、家族で食事をするのは普通の光景でしたが、今は家族でテーブルを囲んでもスマホをいじったりして別々の方向を見ている……ということもあるのかなと。実家を出てからだいぶ経つので本当のところはわからないけど、そんな気がしたんです。

でも真田家は、朝ごはんは必ず家族一緒に食べて、大事なことは食事の時間に共有する。「それっていいよね!」と飯塚さんは考えていたんじゃないかな。僕もそれは素敵なことだと思います。

──ちなみに中村さんの理想の朝ごはんは?

今の理想は、米と味噌汁と卵焼きと焼き鮭、それからソーセージなどのお肉を少々とミニサラダとたくあん……いわゆる和定食ですね。

子どもの頃はパンが好きだったんです。親の目を盗んで、焼いたパンにどれだけピーナッツクリームを塗れるか挑戦していました。あとコーンフレークも好きでしたね。


©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会


──中村さんの家は、家族みんなで朝ごはんの食卓を囲んでいたのですか?

確か親父は先に食べて仕事に出かけていったのかな。オカンも先に食べていたような気がします。僕には2つ年上の兄がいるのですが、学校の時間が被っているので、兄とは一緒に朝ごはんを食べることが多かったのではないかと。起きた順番で食べていくのが中村家の朝ごはんでした。

──中村さんにとって朝ごはんは重要な食事ですか?

休みの日は大体、「朝ごはん、何を作ろうかな」から始まりますが、こだわりがあるわけではなく、仕事の都合で変化していくことはあります。朝ごはんを食べない日もありますから。

でも役作りで体を絞ったり、鍛えたりしないといけないときは、食事には気を使いますね。『仮面ライダーBLACK SUN』(2022)の撮影のときは、身体を絞って撮影に臨んでいたので、1日の食事量など考えて、体をいい状態に持っていけるように意識していました。


©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会


──映画では、日村さんが演じる夢二兄さんと兄弟みんなが毎日楽しそうに会話していますが、中村さんと実のお兄さんの兄弟関係は?

普通の兄弟だと思いますよ。用事があれば連絡するけど、特に用事がないときは1年くらい連絡取らないこともありますから。仲の良し悪しではなく、男同士ってそんな感じなんじゃないかな。真田家の兄弟関係がとても密なのは、長男が親代わりだから。うちの兄弟とはちょっと違いますね。

──確かに真田家の仲のよさは突出していると思います。夢二お兄ちゃんと「リンダ リンダ」を歌うシーン、よかったです。

50代の日村さんが学生服を着ているという(笑)。面白いので、写真をたくさん撮りました。

──撮影合間は、映画の真田家のように賑やかだったんですか?

基本的に僕と日村さんがボケ続けて、沙莉がいちいちツッコんできて、ワンテンポ遅れて時生が入ってくる感じでした(笑)。時生はボケツッコミの輪に入りたいけど、もともと主導権を握るタイプじゃないので、自分から仕掛けられずにワンテンポ遅れてしまうという。でも彼のそんなところが真田家の弟としていい雰囲気を作ってくれました。


「家族の絆」よりもっと大きい「人」とのつながりを大切に



──『宇宙人のあいつ』は、家族を描いた物語ですが、この映画に出演し、中村さんの中で家族に対する思いに変化は?

この映画は「家族の絆」がキーワードになっていますが、僕はもっと拡大解釈していて、「人」を感じたんです。それは脚本を読んだときから感じていたことなのですが、家族といっても、それぞれひとりの人間じゃないですか。

親が結婚した年齢とか、母親が自分を産んだ年齢に自分がなってみると、子どもの頃は絶対的に大きな存在だった親の普通さを知るというか。すごい人たちだと思っていたけど、今の自分と変わらないんだなと。家族は大切な存在だけれど、それぞれの人生を歩んでいるひとりの人間なんですよね。

日出男は宇宙人という一歩引いた立ち位置で真田家を見ていたから、余計そう思ったのかもしれませんが、ひとりひとりのつながりが大切だと感じました。

──人とのつながりは人生において欠かせませんからね。

ここ数年コロナ禍で、会いたい人に会えなかったり、寂しい思いをしたりという人がたくさんいたのではないかと。だからこそ、家族に限らず人と人とのつながりが大切だし、この映画を見てくださる方はそこに共感してくれるのではないかと思います。



──中村さんは最近ご結婚されましたが、それによって俳優活動に対する思いや見据える未来に変化はありますか?

いや、ないですね。結婚をしたら親戚が増えて、お付き合いも広がることはあるでしょうし、責任感も増しますが、それと仕事は別です。結婚をしていても、していなくても、面白い作品を作って皆さんに楽しんでもらいたい気持ちは同じですし、全ての物事に対して誠意を持って取り組むことに変わりはありません。

──俳優としての10年後、20年後の自分というのは考えていますか?

なんとなくはあります。これまでもいろいろと考えながら、さまざまなことに挑戦して技術を身につけようとしてきたので、経験値が上がった今はすごく身軽です。何がどうなるのかわからない、アクシデントさえ楽しむターンに入っています。

そのせいか、最近は撮影に行くときは手ぶら。あれこれ準備せず、髭剃りとアイスコーヒーしか持っていきません(笑)。何かが必要になったとき「さて、どうするか」と考えるのが楽しい。

だから将来的なことも、自分が考えている未来に辿り着くことが大切なのではなくて、その都度、プロセスを充実させたいという感じですね。

──さまざまな経験を経て至った考えなのでしょうか?

人生は螺旋階段みたいなものだと考えているんです。俳優に限らず、どの仕事でもそうですが、「こういう悩みは前もあったな」とか、同じことを経験することは誰にでもあると思うんです。

でもそれは100%以前と同じではなく、ちょっとずつ進んでいて、螺旋階段から同じ景色を見ながら、階段を一段ずつ上がっているような感じかなと。そういう意味で、今の自分は、少し上の段に来たんだと思います。

今後、年を重ねると立場も変わっていくし、経験したことのない何かに出会うこともあると思います。その都度、向き合って、対処しながら階段を昇っていく。そんな感じで俳優人生を楽しみたいですね。


©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会


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©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会


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取材・文/斎藤香 撮影/石田壮一 ヘア&メイク/Emiy(エミー) スタイリスト/戸倉祥仁様(holy.)

プリントジャケット ¥48,000 シャツ ¥53,000 パンツ ¥48,000 全て yoshiokubo
衣装問い合わせ:yoshiokubo(ヨシオクボ)
〒153-0061東京都目黒区中目黒1-8-1 VORT中目黒I 2F tel:03-3794-4037


中村倫也 なかむら・ともや
1986年12月24日生まれ。東京都出身。2005年に俳優デビュー。映画、ドラマ、舞台と多方面で活躍。近作は『ハケンアニメ!』(2022)『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』(2022/TBS)『仮面ライダー BLACK SUN』(2022/PrimeVideo)『ケンジトシ』(2023)など。月刊誌「ダ・ヴィンチ」にて連載中のほか、「ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪」(NHK Eテレ/ナレーション)が放送中。ドラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日)が2023年7月から放映予定。


『宇宙人のあいつ』(2023)上映時間:1時間47分 日本

©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会

土星から、人間の生態を調査しに地球にやってきた宇宙人は、真田家の次男・日出男(中村倫也)として23年過ごして来た。女っ気はないけど面倒見のいい長男の夢二(日村勇紀)、DV彼氏が悩みの種の想乃(伊藤沙莉)、高校時代の同級生からしつこく復讐される三男の詩文(柄本時生)と、喧嘩しながらも賑やかに楽しく過ごす日々も残り少なくなった。日出男はあと3日で土星に帰らなければならないのだ。そして日出男は人間としてやり残したことに奮闘することに……。

5月19日(金)全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/uchujin/#
©️映画「宇宙人のあいつ」製作委員会