『世界不思議発見』のミステリーハンターも務める仏像大好き芸人みほとけさんの仏像愛が爆発した書籍『みほとけの推しほとけ』。一度は燃やされかけたという伊豆地方の仏像たちの奇跡の再発見ストーリーを一部抜粋して紹介する。

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お尻がかわいい仏像

南禅寺は伊豆の河津にあるお寺で、温泉や河津桜が有名な土地です。「伊豆」と聞いて仏像を思い浮かべる人は少ないかもしれませんが、実はびっくりするほど仏像の多いところなのです。

中央(奈良や京都)から離れた地方の仏像というのは、都の真似の真似でだんだん下手っぴになっていくことがよくあります。しかし、奈良や京都の仏師が来て彫ったような、中央との交流が感じられるものもとても多いのが、伊豆のすごいところ。

平安、鎌倉、室町、江戸時代といろんな時代の大変立派な仏像が多いんです。そんな素晴らしい伊豆の仏像の代表ともいえるのが、南禅寺の仏像群です。

南禅寺のご本尊薬師如来坐像は平安時代前期に造られた仏像です。めちゃくちゃ重厚感があって品もある。京都の大寺院のご本尊にいらしてもおかしくないような見事さです。

正面から見るとお腹がポコッと出ていて、下半身はどっしりと太っていて、なんだかかわいらしい。伸びやか〜なお顔にはとてつもなく癒されます。そして後ろに回ってぜひ見てほしいのがお尻です。お尻もまあるくてかわいい。

それから、カヤの木を使った一木造りの太い二天像が特にめちゃくちゃかっこいいのです……。ヨーロッパの巡回展でも絶賛されたという功績もある二天像は、両腕が亡失してはいますが、ポージングだけでものすごく躍動感とかっこよさが伝わってくるんです。

いかついお顔で腰つきはグイッとねじれていて。両腕が欠けているからこそ際立つ体幹部の魅力。気高い騎士のような、一人称が「私」のタイプの紳士のかっこよさです。うっとり。

その他、菩薩像や天部の像なども数多く残っています。朽ちかけてボロボロになってしまっている仏像や、体幹部分や腕など体の一部しか残っていないものもありますが、わずかな部分からでも伝わってくる存在感があります。体の朽ち具合で時間経過を感じながら、遺された仏像の多さに、かつては大寺院だったのだろうな〜と想像が膨らみます。

奇跡の再発見ストーリー

展示館ができるまで、南禅寺には小さなお堂があるだけでした。中にたくさんの仏像がひしめき合うように安置されていたそうです。段ボール箱に仏像の破片がたくさん詰め込まれていて、地元の人々にとっては「いつもあるやつ」程度で重要視されていなかったんだとか。

ある時、おじいちゃんたちの焚き火用の木材として燃やされそうにもなっていました。平安時代の仏像の一部だと知らなかったのですから、仕方ないですよね。伊豆の仏像を研究する先生が調査に訪れた時、平安時代の立派な仏像の破片だということが判明し、慌てて引き止めたのだそうです。

あっぶないところでしたね。この奇跡のような再発見ストーリーはびっくりですよ。河津平安の仏像展示館でお話しした職員のおじいちゃんが「まさかこんなすごいもんと知らなかったからさ〜」と、当時の思い出を語ってくれたのは、今度は私の思い出になりました。

南禅寺はJR河津駅から歩いて約25分。急な坂の上にあるので登る時は気合が必要です。坂の下に置いてある杖を借りて一生懸命登ってください。今は小さな土地ですが、調査によれば、平安時代には大寺院があったといいます。急な坂を踏み締めながらかつての大寺院の姿を妄想すれば、楽しく登れること間違いなし。

南禅寺の仏像が、研究者によってその価値が再発見されたように、地元の人たちにとって身近すぎるあまり、その貴重さに気づかない、というのはよくあることです。「うちの地元、何もないんだよね」と嘆く人は多いですが、そんな場所でも、実はすごい「地域国宝」が眠っているかもしれませんよ!

イラスト/書籍『みほとけの推しほとけ』より
写真/shutterstock

#1 みほとけさんインタビュー
#2 宇宙を統括する東大寺の大仏

みほとけの推しほとけ(笠間書院)

みほとけ
お尻がまあるくてかわいく、とてつもなく癒される静岡県内最古の仏像…一度は訪れてみたい伊豆、南禅寺の仏像群_3
3月13日発売
1980円
240ページ
ISBN:978-4305710086
読んだら、絶対会いに行きたくなる!

年間1000体以上、これまで10000体以上拝み倒した、「お寺・仏像研究家」の芸人みほとけが、独自の目線で、仏像の魅力を語ります!

日本各地で出会った仏像から、悩みに悩んで選び抜いたオススメの仏像48尊を、本人作のイラストとともに紹介。

仏像の特徴や造立の経緯から、お寺の歴史、仏師などゆかりの深い人物のエピソード、周辺地域の様子まで、率直すぎるリアクションを織り交ぜながらわかりやすく解説。それぞれの仏像の個性と楽しみ方がよくわかります。さらに知識が深まる「おまけメモ」付き。仏像のことを、きっと誰かに話したくなるはずです。

●どこをどう見たらいいか、わからない!
●何がすごいの?
●全部同じに見える……
●どんなご利益があるの?
●そもそも仏像って何?

「仏像を見るってちょっと難しい……」「仏教や仏像のことをよく知らない……」という人でも、知識ゼロから仏像がわかる・楽しめる、仏像超入門本です。

【目 次】
第1章 やっぱり最高!有名すぎるほとけ 誰もが認める国民的アイドル、仏像界のセンター 興福寺 阿修羅像など
第2章 癒しと色気の美ほとけ 僧侶人気ナンバーワン! 密教美の集大成 観心寺 如意輪観音など
第3章 ハートを射抜くイケメンほとけ 鋭さと切なさと心強さと 室生寺 釈迦如来坐像など
第4章 ビジュアルが強いほとけ でかい! こわい! でもやさしい 観世音寺 馬頭観音菩薩立像など
第5章 かわいい愛されほとけ まんまるまるく まるくまんまる 山梨県身延町 木喰仏など
第6章 アクロバティックなほとけ 阿弥陀様を讃えるエンターテイナー集団 平等院 雲中供養菩薩像など
第7章 大地が生んだほとけ 東北の大横綱 勝常寺 薬師如来坐像など
第8章 歴史ロマンあふれるほとけ 風が運ぶ慈悲 涙をためたうるうるアイズ 建長寺 地蔵菩薩坐像など
第9章 ご当地スターほとけ 東北の山に潜む〝完全体〟の奇跡 大徳寺 横山不動尊など
第10章 ほとけになった素敵な人 初恋にして最愛の「推し」 六波羅蜜寺 空也上人像など