ハリウッドが巨費を投じたドラマ『SHOGUN 将軍』が、ディズニープラスの「スター」で独占配信中だ。主演のみならず、プロデューサーとしても携わった真田広之に、その挑戦と作品にかけた思いを聞いた。

20年の学びをすべて注ぎこんだ集大成



──映画『ラスト サムライ』(2003)に出演して以降、米ロサンゼルスを拠点にしている真田さんにとって、『SHOGUN 将軍』(2024)は初プロデュース作品となります。北米圏で手がけられた戦国ドラマがこれほど本格的に日本を描けたことは、アメリカの批評家の間でも驚きと称賛の声が挙がりました。

真田広之(以下、同) 20数年前、「何かと誤解されがちな日本の描かれ方を自分たちの世代で終わりにしたい」という思いでロサンゼルスに移りました。でも1作や2作で変えられるものではなかった。これはもう続けるしかないという思いで、ここまでやってきました。

少しずつ門が開きつつあることを感じながら、いろいろな作品で難しさを知り、後悔ともどかしさに直面しながら、どうしたらそれが解決できるのかということも毎作品ごとに学びました。そうする中で、業界のスタッフの間で「(日本文化について)何かわからないことがあればヒロ(真田)に聞けばいいよ」といった評判みたいなものが伝わり始めたんですね。

それが何年、何作か続いて、ようやくその声が今回のスタジオ、ディズニー傘下の「FX」に届いたという感じです。20年近くやり続けた結果、ようやく製作を手がけるチャンスが巡ってきたので、これはもう「受けるしかない」という感じでした。『SHOGUN 将軍』は自分が学んできたことをすべて注ぎこんだ作品。この時点での集大成です。もちろん完璧ではないのですが、次への大きな布石になればと。



──ジェームズ・クラヴェルのベストセラー小説をドラマ化した本作は、徳川家康や石田三成などの戦国武将にインスパイアされた架空の登場人物が織りなすフィクション。「関ヶ原の戦い」前夜の権力争いを、英国航海士ジョン・ブラックソーン(後の按針)の目を通して壮大なスケールで描いていきます。真田さんは家康がモデルとされる吉井虎永を演じられましたが、役を引き受けた一番の理由は?

やはり僕が演じる虎永のモデルである家康が、戦乱の世を終わらせて平和な時代を築き上げたという事実が大きかったですね。特に今のような困難な時代に、まさに必要なヒーロー像なんじゃないのかと。それが一番のモチベーションでした。

脚本作りの段階で、按針の青い目を通して日本を紹介するだけではなく、今回は日本人の目を通した異国の人々を見せながら、日本の有様、精神性、美学を表現したいという思いで、日本人とハリウッドのチームが一丸となって作品に取り組んだ作品です。


プロデューサーとして喜びを感じた瞬間



──現場には朝一番に入り、監督が来る前に小道具からデコレーションまで全部チェックすることもやっていらしたとか。

そうですね。その上でキャスト、クルーを呼んでのリハーサルに立ち会い、動きの直しをし、アイディアを提供しながらシーンを作っていき、それから自分のトレーラーに戻ってメイクをするという日々でした。

特に日本人の俳優、スタッフは初めて海外の作品に参加する人が多かったんですね。勇気を持って飛び込んできてくれたからには、最高のパフォーマンスを引き出して「やってよかった」と思ってもらうことが自分の役割だと思っていました。システムの違いを説明したり、海外のスタッフとの間を取り持ったりしました。

あとは通訳はいるのですが、現場では監督が俳優に望むものを引き出すための、実際に話した言葉だけではない通訳をしていました。僕は役者でもあるので、俳優にとってわかりやすい言葉を使って説明することもできる。それでいいパフォーマンスが出て、プロデューサー陣全員が「これだね」となったときの喜びたるや、もう「(ガッツポーズを取りながら)よし!」っていう。自分の芝居を褒められるよりうれしくて楽しくて、プロデューサーとして心から喜びを感じる瞬間でした。



──真田さんのそうした作品に臨む姿勢が、結果として優れたリーダーシップにつながったのだろうと想像できます。

そうですね、僕自身はもうとにかく日々、ゼロからモノづくりに参加できることが楽しくて仕方がなかった。これまでと大きく違うのは、プロデューサーとしての発言権があるので、みんなが話を聞いてくれるということ。プロデューサーというタイトルのあるなしで、これほど違うのかと痛感しました。

そういう意味では、僕が演じた虎永もまた、将軍というタイトルがなければ平和な時代を築けなかったかもしれない。どこかでオーバーラップするところがありましたね。自分にプロデューサーのタイトルがなければ、この作品をまっとうできなかっただろうと思います。


プロデュースをして俳優としての原点に戻れた



──確かに虎永は将軍という権力の座を心から手にしたかったわけではないですよね。むしろやりたくないけれど平和の世をもたらすための手段として、それが必要だったという。

僕にとっては、いい作品にすることがすべて。その辺も含めてオーバーラップしていたので、現場で一俳優としてカメラの前に立つときは、もう無の境地といいますか。ただそこに役としていて、呼吸をして、リアクト(反応)していく。自分が配置したプロたちが全部チェックしてくれる安心感のもとに、自由を感じながら役に集中できたことは、この上ない喜びでした。ご褒美みたいな感じでしたね。

プロデューサーとしての活動よりも演じる時間のほうが圧倒的に短いのですが、だからこそ演じるときの貴重さをいつも以上に感じました。プロデューサーをやったからこそ、俳優としての本来あるべき原点に戻れたのかもしれないなという気がしています。



──この作品は日本文化を正しく伝えることに徹底して取り組むことによって、ドラマの内容はもちろん、『SHOGUN 将軍』というプロジェクトそのものもまた、ほかの文化をリスペクトすることの精神を伝えていると思います。そのことには本当に感動を覚えます。

メイキング・オブ・『SHOGUN 将軍』そのものが、ひとつのドラマなんですね。洋の東西の壁を乗り越えて、文化も言葉も宗教も違う者同士が集まり、協力して学び合い、尊敬し合い、尊重し合い、ひとつのものを作り上げる。そして、このような作品ができるのだということ自体が、大きなメッセージになっていると思います。

力を合わせれば奇跡が起こるんだというポジティブなメッセージを、見てくださった方がすくい取ってくれたらいいなと心から思いますね。

世界各地で戦争や紛争があって、異なる他者との対立が深まっているこの時代に、作品を見終わった視聴者のみなさんが希望を抱いていただけたなら。そして、虎永のような不屈の精神で困難を乗り切っていくためのエネルギーになってくれることを願っています。手塩にかけたこの子(『SHOGUN 将軍』)を、よろしくお願いします。











取材・文/今祥枝 撮影/小田原リエ ヘアメイク/高村義彦(SOLO.FULLAHEAD.INC)

真田広之/さなだひろゆき
1960年10月12日、東京都出身。子役から活動し、映画『柳生一族の陰謀』(1978)で本格的に俳優業をスタート。映画『里見八犬伝』(1983)、『麻雀放浪記』(1984)、『たそがれ清兵衛』(2002)、ドラマ『高校教師』(1993)などに出演。『ラスト サムライ』(2003)に出演以降、拠点を米ロサンゼルスに移し、『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013)、『47 RONIN』(2013)、『MINAMATA-ミナマタ』(2021)、『ブレット・トレイン』(2022)、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)など話題作に多数出演している。


『SHOGUN 将軍』(2024)Shogun/アメリカ



舞台は1600年代、「関ヶ原の戦い」前夜。敵の包囲網が迫る中、窮地に立たされた戦国一の武将・吉井虎永(真田広之)は、家臣となった英国人航海士・按針(コズモ・ジャーヴィス)とともに、世を制することができるのか。徳川家康や石田三成ら歴史上の人物にインスパイアされた、戦国スペクタクル・ドラマシリーズ。アンナ・サワイ、浅野忠信、平岳大、西岡徳馬、二階堂ふみ、阿部進之介ら豪華キャストが集結。製作はディズニー傘下の「FX」。

公式サイト:https://disneyplus.disney.co.jp/program/shogun
ディズニープラス「スター」で独占配信中 全10話