脅迫事件で有罪判決を受けた「ガーシー」こと東谷義和被告や、高級腕時計のシェアリングサービス「トケマッチ」運営会社の元社長だった福原敬済容疑者などが逃げ込んだアラブ首長国連邦(UAE)の世界的大都市・ドバイ。なぜ犯罪者や容疑者は逃亡先にドバイを選ぶのか。国際ジャーナリスト・山田敏弘氏に聞いた。

海外の犯罪者たちから人気の理由は“ビザ取得のしやすさ”

先日、X(旧Twitter)で「犯罪者はなぜドバイに集まるのか」について話題となっていた。

《なんで犯罪者はみんなドバイに逃げるんだろうかとググったところ、ドバイの警察が過去2年で432人の国際指名手配犯を逮捕したという記事が出てきて笑ってしまった。全世界30カ国から集まってきているらしい。甲子園かよ。》

上記のポストは6.3万“いいね”を獲得しており、ネット民の関心度の高さがうかがえる。だが一方で、どうしてドバイに逃げ込む犯罪者や容疑者が多いのか、理由がいまいちわからないというコメントも多く見られた。

はたしてドバイが海外の犯罪者や容疑者から逃亡先と選ばれる理由は何なのか? 国際ジャーナリストとして活躍する山田敏弘氏に解説していただいた。

「ズバリ、ドバイはビザ取得が容易だからというのが最大の要因です。ビザ取得に関しては、ドバイが外国人をメインにして成り立っている地域だということが関係しています。

アラブ首長国連邦(UAE)の政府は、外国人からドバイへの移住などを積極的に推進していて、就労ビザや居住ビザが比較的取得しやすいことで有名。そのためドバイでは自国民の割合が10%程度で、残りの90%程度が外国人になっているのです。

ビザ取得に関してもう少し掘り下げると、ドバイでは犯罪者・容疑者であるかどうかの照会が甘く、たとえばガーシー被告は『ゴールデンビザ』という、UAEで10年間有効の居住ビザを取得していたと報道されていました。こうしたことがドバイでは珍しくないのでしょう。

いきなりゴールデンビザは取得できなかったとしても、最初は就労ビザなどを取得して入国し、滞在し続けることでビザの内容を段階的にアップグレードさせていく犯罪者もいるようです」(山田氏、以下同)

また山田氏によると犯罪者たちにとって、ドバイにはもうひとつの魅力があるという。

「ドバイの住みやすさも犯罪者たちを惹きつけている要因でしょう。五つ星ホテルや高級レストランが揃っていますし、お金さえ出せば条件のいい裕福な生活が送れます。

逃亡生活といえば、常に人目を忍んで日陰で生きるようなイメージがあるかもしれませんが、ドバイでは外国人に対する規制がゆるいので、堂々と悠々自適な暮らしを送りながら現地で普通に仕事をする犯罪者もいるのです」

なぜドバイ警察は詐欺や金融犯罪などの知能犯は見逃すのか

ドバイは犯罪者たちにとって過ごしやすい環境が整っているということだが、ドバイに逃げ込む犯罪者の特徴についても聞いてみた。

「多くは詐欺や資金洗浄など金銭の絡む犯罪に手を染めた犯罪者・容疑者が逃げ込みます。いわゆる金持ちの知能犯です。

そしてドバイ政府としても、外国人が現地でお金を使ってくれることで国が潤うので、こうした犯罪者が国際指名手配されても捜査にあまり精を出さないのが実情です。金銭の履歴などを調べることは非常に手間がかかることもあるため、容疑の段階ではなかなか本腰を入れて捜査に踏み切らないのでしょう」

それでも国際指名手配されている者がなかなか捕まらないというのは、やはり解せない。いったいどういった事情があるのか。

「例えば日本で犯罪を起こしてドバイに逃げ込んだ犯罪者や容疑者を確保するとなった場合、まずフランスにあるインターポール(ICPO=国際刑事警察機構)を介して、UAEの警察当局に捜査を依頼します。

それからドバイ警察当局へと捜査依頼が伝達されるわけですが、このUAEからドバイへの引継ぎがうまくいかないことが多いのです。

UAEは首長国連邦の在り方、いわば大枠のルールを決めているのですが、ドバイの捜査当局には独自の外国人に対するルールや規制があります。そのルールの違いから突然捜査の協力が及ばなくなることがしばしばあるようです」

だが、冒頭で紹介したXのポストでは、ドバイ警察が過去2年間で400人以上の国際指名手配犯を逮捕したという記事が出ていたと語られていた。確かに海外メディアではそのように報道されており、記事には「殺人」「武装強盗」「過失致死」「宝石窃盗」「窃盗未遂」などの罪に問われていた容疑者を国外へ送還し、また指名手配者の関係当局に引き渡したと記されている。

「つまりは、ドバイ警察が捜査に精力的に取り組む事件とそうではない事件がある、ということです。その線引きは、“自国民を脅かす影響を及ぼしかねない存在であるかどうか”が重要なポイントになっています。

ドバイ警察はすべての犯罪者や容疑者にやさしいということではなく、殺人、窃盗など重罪を犯した犯罪者や容疑者は国民に脅威を及ぼし、治安を乱す可能性があると考えています。そうした危険因子は排除すべきという思考を持って活動しているのでしょう。

ほかにも最近ドバイ警察が積極的に摘発している犯罪が、麻薬関連です。麻薬関連の犯罪は世界規模で問題になっていますので、国際的批判を避け、犯罪の撲滅に貢献していることをアピールするため、現地の警察も積極的に捜査に取り組んでいます」

ドバイ以外で犯罪者から熱い視線を集めるのはカナダだった

山田氏によるとドバイ以外にも犯罪者から密かに人気を集めている国があるという。

「いま注目されているのはカナダでしょう。カナダは移民が多いため、さまざまなビザが取りやすく、外国人に対する規制がゆるめ。犯罪者たちにとっては、目立たずに普通の暮らしをしながら潜伏しやすい国だということで人気になりつつあります。

一部にはカナダでビザを取得したのち、パスポートを取得することで国籍ロンダリングのようなことをしてカナダ人を装い、さらに違う国を飛び回って逃げる犯罪者もいるようです。このように最近ではドバイからカナダへ逃げる犯罪者や容疑者が多くなってきていると言われています。

なるべくいい暮らしをしながら逃亡生活を送りたいと考える犯罪者たちにとっては、ドバイやカナダは天国に思えるのではないでしょうか」

では逆に、国際指名手配犯が捕まりやすい国は?

「捕まりやすいのは先進国、特にヨーロッパ各国でしょう。『ヨーロッパ犯罪人引渡し条約』というものが締結されており、ヨーロッパ各国は犯罪者の引き渡しについて協力し合うことが取り決められています。

犯罪人引き渡しについての取り決めがなされている国同士では、国際指名手配犯は捕まりやすいと言えますね」

取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio 写真/shutterstock