昨年9月公開の映画『沈黙の艦隊』、今年1月公開の映画『ゴールデンカムイ』のように、大ヒット映画の続編を連続ドラマとして配信する流れがトレンドになりつつある。これまではドラマから映画化という流れがお決まりだったように思うが、なぜ今は逆転しているのか。ジャーナリストの長谷川朋子氏に話を聞いた。

テレビに頼らない新しいビジネスモデル

昨年9月に公開された映画『沈黙の艦隊』の続編となる連続ドラマが、今年2月「Amazonプライム・ビデオ」で配信され、早くもシーズン2の制作も発表されている。そして現在公開中の『ゴールデンカムイ』も「WOWOW」で今年の秋に連続ドラマでの続編配信が決定済み。このように単発映画の続きを、配信を含めた有料展開のドラマで制作するというケースが続いているのである。

そもそも従来はパターンが逆で、連続ドラマが地上波テレビ放送され、人気を博すと続編を映画化するという流れがスタンダードだった。

近年でもそのパターンは少なくなく、テレビドラマだった『イチケイのカラス』(2021年/フジテレビ系)や『ミステリと言う勿れ』(2022年/フジテレビ系)が、昨年映画化されてヒットしている。

「これまでの、テレビドラマから映画化という流れは、まずドラマでファンを作り、そこからお金を支払ってでもコンテンツを追いたい視聴者を、続編の映画で集客するといったビジネスモデルとなっていました」(長谷川氏、以下同)

一昔前までは現在よりもテレビの影響力が絶大だったため、コンテンツへの入り口としてテレビドラマは最適だったという側面もあるだろう。だが近年はテレビ離れが進んでおり、テレビ発のコンテンツの訴求力が低下していることは否めない。

そのため、映画から配信ドラマという逆転の流れは、テレビに頼らない新しいビジネスモデルとして歓迎されているのだろう。

 新ビジネスモデルの原動力は「漫画原作」

ここでもうひとつ注目したいのが、『沈黙の艦隊』も『ゴールデンカムイ』も漫画原作の作品であることだ。長谷川氏いわく、この2作品が映画から有料展開のドラマとして制作することができたのは、原作の力があったからだという。

「どちらも原作に多くのコアなファンがいる人気作品で、大規模な集客が見込めるコンテンツです。映画化ともなれば、コアファン以外の原作を読んではないけれど興味を持っている人も集客できますし、キャストにひかれて足を運ぶ人も出てくるため、より間口を広げることができる。

映画はドラマと違い、約2時間の上映で気軽に作品のおもしろさや世界観を味わえるメディアといえます。今回のケースは映画公開で話題性を作ることで、多くのファンを取り込めると判断したのでしょう」

こうして映画で取り込んだファンを有料配信サービスに誘導し、次なるコンテンツ拡大を図るというワケか。うまく成功すれば、映画の興行収入と配信ドラマの会員費、ダブルで稼げるビジネスモデルになりそうだ。

「ファンにとっては、続編を視聴するために有料サービスに加入しなければいけないというのは、ハードルが高いように思えます。しかし、お金をかけてコンテンツを観るという点では映画と同じ。それに有料サービスのドラマだけでコンテンツ展開するよりも映画と組み合わせたほうが、“あの映像化された作品”と知ってもらうきっかけになりやすく、メリットが大きい。

もちろん、映画の続編が有料のサブスクで配信されるのは露骨な誘導だ、といった批判的な意見もあるでしょうが、そうした声も想定済みで、課金の延長として有料サービスにファンを取り込むことが可能だと判断しているのでしょう」

なおAmazonプライム・ビデオで配信されているドラマ『沈黙の艦隊』シーズン1では、映画の内容を含みつつ、映画で描ききれなかった部分を深く掘り下げている。気軽に観たいという人には映画、さらにじっくり観たいという人にはドラマという具合に、鑑賞スタイルによってコンテンツを選択できるようになっているのも新しい試みである。

 エンタメ業界はトライアンドエラーの過渡期

エンタメ業界のマーケティングを行うGEM Partners株式会社が発表した、「動画配信(VOD)市場5年間予測(2024-2028年)レポート」によると、2023年の定額制動画配信(SOVD)サービスの国内市場規模は、前年比12.1%増の推計5054億円とされている。

サービス別の国内市場シェアの推移を見てみると、シェア率1位は「Netflix」で21.7%(前年比−0.6pt)。続いて2位は「U-NEXT」で15.0%(前年比+2.4pt)。3位は「Amazonプライム・ビデオ」で12.9%(前年比+1.1pt)。今後も市場規模の拡大と、動画配信サービスの熾烈な市場の競争が予想されている。

映画から配信ドラマ化という流れは、動画配信サービスの厳しい競争のなかで考え出されたビジネスという一面もあるのだろうか。

「動画配信サービスのコンテンツを知ってもらう宣伝として映画の効果は大きいですし、コンテンツをヒットさせるためにも映画は有効な手段です。海外では日本よりももっと自由に多様なメディア化がされていて、有料コンテンツと無料コンテンツが同時に公開されることもあり、視聴者側に選択を任せる仕組みが出来上がっています。

現在、日本のエンタメ業界は、さまざまな動画配信サービスがひしめくなかで各社がコンテンツをどのようにヒットさせるか、試行錯誤している過渡期だと言えるでしょう」

昨夏公開された鳥山明原作のアニメ映画『SANDLAND』も、3月20日から「ディズニープラス」で映画版からさらに続く新たなシリーズとして、『SAND LAND: THE SERIES』が独占配信されている。

いずれにしても映画から続編はドラマへという流れは、原作人気があってこそ成立するビジネスモデルということなのかもしれない。

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/Shutterstock