オープン戦で好走塁を連発している大谷。打者専念の今季は40盗塁も狙えるかも
オープン戦で好走塁を連発している大谷。打者専念の今季は40盗塁も狙えるかも
日本のプロ野球よりもひと足早く、3月20日にシーズン開幕戦を迎えるMLB。大谷翔平、山本由伸の加入によって、テレビで目にする機会も増えるであろうドジャースの注目ポイントを一挙紹介!

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■大谷翔平の出塁後の盗塁&進塁

MLBにも精通する本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏がまず挙げる注目ポイントは、大谷翔平の走塁だ。

「キャンプでも相当な量を走り込んでいました。今季は打者に専念するため、投球に体力を残す必要もなく、全力疾走する場面も増えるはず。期待したいのは、まず過去5人しかいない40本塁打&40盗塁超えの"フォーティ・フォーティ"です。大谷は走塁判断も優れているので、出塁時は盗塁に限らず、積極的に次の塁を狙ってくれるでしょう」

実際、オープン戦では、平凡なレフトフライにもかかわらず、一塁にいた大谷が二塁へとタッチアップしたシーンもあった。この走塁について、犠飛を放った3番フレディ・フリーマンが「こういうプレーがシーズン中、勝利に貢献する。盗塁もどんどん狙ってほしい」と絶賛して話題になった。

「自分のことしか考えていない打者ほど、走者が動くことに対して、『集中できない』『カウントが進むから嫌だ』と文句を言いがち。でも、フリーマンは真剣にチームのことを考える選手だとよくわかる出来事です。彼が大谷の後ろを打ってくれれば、大谷も積極的に走りやすいはず」

■大谷翔平の打率が残るスイング

昨季、メジャーで初めてシーズン打率3割超え(.304)を記録した大谷。今季も開幕10日前の時点でオープン戦打率は5割超えと絶好調だ。バットを肩に寝かせて構える新フォームも注目されているが、その狙いは何か?

「"肩乗せ"は練習での打ち方で、実際の試合ではバットを肩に乗せてから斜めに立てています。今季はバッターボックス内での立ち方や、スイング時の体のひねり具合など、バランスがさらに良くなっています。下半身の状態も良く、感覚論ですが、打率3割3分は期待できる滑らかなスイングになっている。日本ハム最終年の自己ベスト.332(規定打席未到達)を更新してほしいですね」

トータルではどんな成績が期待できそうか?

「150試合近くに出て、打率.330、50本塁打、40盗塁を目指してほしい。三冠王を獲得した松中信彦さんの全盛期のようなスイングができているので、期待できると思います」

日本時間3月13日時点でオープン戦の打率.579、OPS1.705と絶好調の大谷
日本時間3月13日時点でオープン戦の打率.579、OPS1.705と絶好調の大谷
■大谷翔平のポジション

打者専念で挑む今季、大谷のポジションはどうなるのか? メジャーのDHには、ベテランや主力選手の休養的役割もあるため、常勝ドジャースではエンゼルスほどDH独占は無理との声もある。

「私も以前は、DH独占は難しいと思っていました。ただ、ドジャースでの立ち位置、ほかの選手との関係性を見ていると、大谷へのリスペクトが大きいことがわかります。大谷の状態も想像以上に良く、ほかの選手が我慢してでも大谷にDHを打ってもらったほうがいいよね、という雰囲気を感じます」

それでも、勝負どころのシーズン後半には、野手としての出場もあるかもしれない。

「外野やファーストの守備練習もしているようで、左投げのシャドーピッチングもしていました。利き腕ではない"左投げの外野守備"にも挑戦してほしい。大谷ならありえない話ではないと思います」

また、日本ハム時代の2016年日本シリーズでの"見せ代打"のような活用も期待したい、とお股ニキ氏は語る。

「ベンチの大谷がネクストバッターズサークルに出ただけでバッテリーが警戒し、中田翔(現中日)に押し出し四球を与えたシーンが印象深いです。休養日に"見せ代打"で出番という作戦も、大谷だからできる役割といえます」

■山本由伸のレインボーカーブ

開幕2戦目で先発予定の山本由伸。ここにきて注目度が増している球種が"レインボーカーブ"と呼ばれる大きく曲がり落ちるカーブだ。もっとも、お股ニキ氏は「カーブはあくまでも山本の真価を発揮する上でのスパイス」と語る。

「メインとなるのは150キロ近いスプリット。真ん中や低めのストレートと同じ軌道で速いまま落ちるこのボールが生命線です。同じドジャースのレジェンド、クレイトン・カーショーもカーブが代名詞と語られがちですが、実際には投球割合の50%をスライダーが占めていて、カーブの割合は15%程度。でも、その15%が投球を組み立てる上でスパイスの役目を果たすんです」

思い出されるのは昨年の日本シリーズ初戦で阪神打線にノックアウトされた試合。カーブの調子が悪く、ストレートとスプリットだけの単調な投球で攻略されてしまった。

「山本のカーブは125キロ程度と、ストレートと比べて30キロほどの球速差があり、いったん浮き上がってから予想以上の落差で曲がっていく。高めのストレートと一瞬、見極めがつきにくい上、緩急が激しくて打ちにくいんです」

このレインボーカーブを投球にいかに組み入れるのか。その投球比率にも注目だ。

■山本由伸の"握り"の隠し方球種バレを防ぐため、セットポジション時のグラブ位置をお腹の前に変更した山本
球種バレを防ぐため、セットポジション時のグラブ位置をお腹の前に変更した山本

初のMLB挑戦でピッチクロックへの対応力も問われる山本だが、セットポジション時に球種がバレてしまう、という別の問題も発生している。オープン戦では、現地実況アナウンサーがグラブの中のボールの握りから球種をズバズバ的中させて物議を醸した。

「試合中の中継映像の確認は禁止されているとはいえ、これほどわかりやすいのならば、相手のコーチャーズボックスからも見えてしまう。そうでなくとも、MLBは癖盗みが当たり前の世界で、セット時のグラブ位置、握り方には相当な注意が必要です」

大谷も球種盗み対策として、セットポジション時のグラブ位置を胸元からお腹の前へと、2022年4月に変更している。

「ほかにもグラブを大きくしたり、目立たない色にしたりするなど、工夫は必須です。スプリットの癖がばれているなら、それを逆手に取ってストレートを投げるのも有効。鳴り物入りで入団したからこそ、相手も相当研究してくるはず。そのイタチごっこのダマし合いも、MLBならではの奥深い世界といえます」

お股ニキ氏の指摘どおり、山本も開幕直前にセット時のグラブ位置をお腹の前に変更。ダマし合いはもう始まっている。

■ベッツの驚異の運動神経31歳で遊撃手にコンバートされたベッツ。身体能力はMLBナンバーワンとの呼び声も高い
31歳で遊撃手にコンバートされたベッツ。身体能力はMLBナンバーワンとの呼び声も高い

ほかのチームメイトの特徴も見ていこう。まずはレッドソックス時代の2018年にMVPを受賞したムーキー・ベッツだ。昨季は主にライトを守ったベッツだが、今季はセカンド専任としてキャンプイン。さらに、オープン戦の途中で急遽(きゅうきょ)ショートに転向することが決まり、大きな話題になっている。

「MLB公式Xが『最も優れたアスリートは誰?』と選手にアンケート調査し、最も多くの支持を集めたのがベッツです。とにかく運動神経が抜群で、31歳からショートにコンバートされても問題なくこなしてしまうでしょう。天才すぎて普通ではまねできない話です」

実際、ベッツは運動神経の良さを示す逸話に事欠かない。

「身長175㎝でも、バスケをすればダンクができて、側転も無限にでき、ボウリングをすれば300点満点を何度も記録。日本でいえば、トリプルスリーを連続達成していた時期の山田哲人(ヤクルト)やかつての秋山幸二のような俊敏性とパワーの持ち主といえばわかりやすいでしょうか」

打率.346で首位打者に輝いた2018年は、30盗塁、32本塁打を記録。盗塁数はここ数年、10〜16個に落ち着いているが、その分、昨季は39本塁打を放つなど、パワーフォルムに移行しつつある。

「引っ張り中心の右打者なので、2番よりも1番打者向き。1番ベッツ、2番大谷の流れは相手にとって脅威です」

■フリーマンの自己犠牲&ファウルバットコントロールに定評のあるフリーマン。大谷との相乗効果に期待がかかる
バットコントロールに定評のあるフリーマン。大谷との相乗効果に期待がかかる

2番大谷の後の3番を打つことが増えそうなのは、"MVPトリオ"のもう一角、フリーマンだ。昨季は打率.331、29本塁打と、抜群の安定感を誇る好打者の特徴は、意外にもファウルが多いことだという。

「コンパクトなスイングが身上なので、必然的にボールの下をこするファウルが多くなります。ファウルで粘って最後にとらえることが多かったイチローと似たイメージです。この粘りがあるからこそ、大谷が走る機会も生まれるし、追い込まれてからでも打てるのがフリーマンの魅力です」

この1〜3番をサッカーでたとえるなら、レアル・マドリードで隆盛を誇ったガレス・ベイル、カリム・ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウドの"BBCトリオ"だとお股ニキ氏は語る。

「スピードのあるベッツはベイル、テクニックがあって献身的で勝負強いフリーマンはベンゼマ、スーパースターの大谷はロナウド。一番ゴールを決め、筋骨隆々な主人公キャラという点も一緒です」

■山本由伸ともバッテリーを組む"女房役"正捕手のスミス。強打も持ち味で、3番フリーマンの後ろ、4番を打つことが多い
正捕手のスミス。強打も持ち味で、3番フリーマンの後ろ、4番を打つことが多い

"MVPトリオ"の後、4番を任されそうなのが正捕手のウィル・スミス。ハリウッド俳優と同姓同名、と紹介されがちだが、WBCアメリカ代表にも選ばれた実力は折り紙つきだ。

「打率.270、20本塁打を期待できる打撃、そして、フレーミング(ストライク率を高めるキャッチング技術)が魅力です。ただ、配球はデータに依拠してシステマティックな印象で、日本のファンからすると、滑らかな臨機応変さを感じられるタイプではないかもしれません。山本はしっかりと意思疎通しておくことが必要です」

34歳のベテラン捕手、バーンズ。フレーミング技術は世界一ともいわれるほどハイレベルだ
34歳のベテラン捕手、バーンズ。フレーミング技術は世界一ともいわれるほどハイレベルだ
捕手でもうひとり覚えておきたいのが34歳のベテラン、オースティン・バーンズだ。

「フレーミング技術は世界一ともいわれている選手です。頭も良くて配球も明らかにいい。ドジャース時代にバッテリーを組んだダルビッシュ有(パドレス)も『バーンズは投げやすい』と言っていました。MLB版の坂本誠志郎(阪神)のような選手といえるでしょう」

捕手はテレビ中継で画面に映る機会が多いポジション。だからこそ、その特徴まで把握して日々の中継に臨みたい。

■"なおド"にならない? ロバーツ監督の継投

最後に采配の注目点も整理しておこう。デーブ・ロバーツ監督はどんな人物か?

「データに依拠した采配を徹底し、日本人からすると、びっくりするような継投が多く感じるかも。山本がノーノーを継続していても躊躇(ちゅうちょ)なく交代させるなど、日本で物議を醸す可能性もあります」

そのロバーツ継投をSNSでたびたび批判してきたのがドナルド・トランプ前アメリカ大統領だ。

「実はトランプさんは無類の野球好き。2018年ワールドシリーズで、7回1死まで1安打だった先発投手を91球で交代させたロバーツ監督の継投が裏目に出て、ドジャースが逆転負けすると、『7回まで圧倒していた投手を代えるのは驚きだ』とSNSで猛批判しました。裏を返せば、昔ながらの野球ファンほど批判したくなる継投や采配が多いということです」

山本の勝ち星の数は、ロバーツ監督の継投・采配に大きく左右されるかもしれない
山本の勝ち星の数は、ロバーツ監督の継投・采配に大きく左右されるかもしれない
ただ、今季のドジャースは投手の質も数も充実していて、大谷がエンゼルスにいた頃の"なおエ"ならぬ、"なおド"にはならないはず、とお股ニキ氏は続ける。

「救援陣が人材難で、お決まりのような逆転負けばかりだったエンゼルスのような心配はいらないと思います。ただ、シーズンで100勝するのに、プレーオフで3連敗してしまうのがこれまでのドジャース。そこで白羽の矢が立ったのが大谷と山本です。ロバーツ監督も、せっかく日本人選手を迎え入れたのだから、日本的な采配も取り入れて、最後に勝ち切れるチームを目指してほしいですね」

いよいよ始まるMLB。大谷&山本がドジャースで躍動すれば、例年以上の盛り上がりは間違いない!

写真/USA TODAY Sports, Sipa USA, 時事通信フォト アフロ