公益社団法人「

アニマル・ドネーション
」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。

 アニドネが支援をしている名古屋の保護団体は、殺処分ゼロを目指して老猫シェルターを運営しています。つい先日、スタッフみんなに愛された真っ白猫のクリスティーナちゃんが旅立ちました。老猫シェルターで過ごした1年間がどんな様子だったかを聞いてみました。

(末尾に写真特集があります)

どこにも行き場のない老猫のためにシェルターを運営

 アニドネの認定団体である「特定非営利活動法人 ファミーユ」は、「名古屋市の殺処分ゼロ」を達成するために活動をしています。昨年度の殺処分数は24匹(猫)。代表の熊崎純子さんにお話しを聞きました。

「24匹の猫たちはいわゆる事故や病気よる疾病などにより手の施しようがなく、愛護センターで安楽死の判断となった猫たちです。センターには、安楽死を決める前に連絡を欲しいとお願いしています。可能な限り、最期のときは暖かい腕の中で旅立たせてあげたいからです。若くて元気な猫ちゃんたちは他の団体でも保護譲渡ができます。ですが、かなりの高齢で病気もひとつやふたつでない、そういった老猫たちを積極的に迎え、殺処分ゼロを達成することが私たちの目標です」

 愛護センターで引き取られるペットは、飼い主自身が高齢であり病気や入院などで手放さざるを得ないケースが多い。人間側にも致し方ない事情はあるものの、最後の砦である愛護センターですら扱いに困るシニアの犬猫たちがいるのです。

名古屋市では地域猫の避妊・去勢手術は無料

「行政も努力を続けています。令和4年の名古屋市では、地域猫の去勢・避妊手術は1,588匹。TNR活動の手術(市民がTNRを行う場合は一律の金額で手術が実施できるよう支援している)数は2,913匹。つまり、年間で合計4,501匹もの手術をして、バースコントロールをしようとしています。ただ、それでも、路上で死亡した猫の数は3,939匹もいます。まだまだ過酷な環境で生きている猫たちが多いということなんです」(熊崎さん) 

出典:名古屋市「のら猫に対する取り組みについて」

ブヒブヒと鼻を鳴らしながら犬部屋に遊びにいくクリスティーナ

 老猫シェルター、と聞くと、どうしてもスタッフたちの看病疲れや死に対するネガティブな想像をしてしまいます。熊崎さんに、正直に「シニアたちのお世話ばかりだと疲弊しませんか?」と聞いてみました。

「そんなことはないですよ。スタッフの中でも老描部屋は実は大人気で。常に10匹くらいのお世話をしているのですが、本当に穏やかな空気が流れています。日差しがさんさんと降り注ぐ部屋なのですが、気持ちよさそうに日向ぼっこしている姿を見ているとこっちも心地よくなるんです。お世話をしていますが、人間側が癒やされているように感じます」

 印象に残っている猫ちゃんについても聞いてみました。つい先日天国に旅立った白猫のクリスティーナちゃんは、本当にかわいいおばあちゃん猫だったそう。誰にでも愛想がよく、穏やか。猫部屋から出て廊下をゆっくり歩き、人間のいるダイニングキッチンを通り過ぎ、老犬達のいる老犬シェルター部屋へ行くのが日課でした。

「保護したときから鼻水がひどい状態でした。だから常に鼻をブヒブヒと鳴らすんです。白猫にふさわしい高尚なクリスティーナという名前があるにもかかわらず、みんなからはブヒちゃんと呼ばれてました(笑)」

「あれ?ブヒちゃんがいない」。スタッフが探すと同じく真っ白な毛並みの犬のちよちゃんの隣にちょこんと

日本では約5匹に1匹の猫が飼い主を求めている

 先日、フードメーカーのマースの調査によると、

日本にいる猫の総数は推定約1,117万匹。そのうち222万匹が飼い主のいない猫という統計が発表されました。
222万匹の猫たちは、愛護センターや民間のシェルターにいたり、地域猫として外で暮らしている、もしくは野良猫として生きていることになります。この数字に私は、「そんなにも多いのか」と頭を抱えてしまいました。ずいぶんと殺処分は減ってはきているものの、まだまだ日本の猫が暮らす環境は過酷だなと。クリスティーナちゃんのように幸せな最期を迎えられるケースはまれなのかもしれません。

日本で大人気のスコティッシュ、オランダでは繁殖禁止

 今年も2月22日の猫の日はメディアで猫ちゃんたちがかわいらしく取り上げられていました。何気なく見ていたTV番組では、不動の人気No.1はスコティッシュフォールド、と。これに関しては、動物福祉を掲げるアニドネとしては、一言お伝えしたいと思います。たれ耳は確かにかわいい、けれどもたれ耳のスコティッシュフォールドはすでにオランダでは繁殖禁止となっています。理由は、折れ耳型のスコティッシュフォールドのほとんどが、遺伝性の病気である軟骨の成長障害「骨軟骨異形成症」を発症しているから。骨軟骨異形成症は耳の軟骨だけではなく、体のさまざまな関節に発生し、炎症、跛行(はこう)、痛みを引き起こします。これは日本のペット業界、そしてこういった事実を知らずに伝えてしまうメディア、かわいいからとブームに乗りがちな人間側の責任ではないでしょうか。

 徒然と猫ちゃんのことを書きました。日本がもっと犬猫に優しい国になるよう、クリスティーナちゃんに天国で「よくやっているわね」と言われるよう、がんばっていかないと、ですね。

(次回は4月5日公開予定です)

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能登半島地震の現場から被災犬をレスキュー 飼い主の決断と2匹のミライ