[J1第15節]札幌1−2名古屋/5月27日/札幌ドーム

 第14節の京都戦を2−1のスコアで勝利し、2019年以来4季ぶりとなる3連勝を果たした札幌。第15節の名古屋戦では、4季ぶりの4連勝を目ざして戦ったものの、開始直後の失点が響き敗戦し叶わなかったが、堅守の名古屋に対して最後まで攻め続け、最終的に1点をもぎ取り相手の長谷川健太監督に「札幌の攻撃力はさすがだ」と言わしめた。

 15節終了時点で順位は8位。得点32は首位の神戸と並び、リーグトップタイの数字である。連勝こそ3で止まったものの、上位進出の兆しをしっかりと見せている。

 背景には、もちろんミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制6季目を迎えたチームとしての継続性や選手個々のレベルアップ、そして近年の札幌に最も不足していた“決定力”を持ち込んだ新加入MF浅野雄也の活躍がある。だが、加えて注視したいのは、戦術のバリエーション増だ。

 守備では2020年から採用しているフルピッチでのマンツーマンディフェンスが継続されているが、攻撃はミシャサッカーの基本スタンスであるポゼッションをベースとしつつも、前述のマンツーマンの成熟が攻撃にもリンクし、ボール奪取からのショートカウンターで素早く攻めきる場面を大きく増やしている。

 とりわけ今季に関しては前線に俊足の小柏剛と浅野が配置され、そこに駒井善成や両翼の金子拓郎、菅大輝ら機動力のある選手が絡み、彼らが発動する崩しは威力十分である。
 
 そしてさらに注目したいのが、シンプルに縦に速く攻めるプレーの増加だ。横幅を広く使って後方からの攻め上がりを促したり、ダブルボランチが最終ラインに下がってCBを前方に押し出しながらパスを回して相手を揺さぶるのが札幌の主な攻撃である。

 だが、今季はそこに加え、さながらザルツブルク(オーストリア)やライプツィヒ(ドイツ)といったレッドブル系クラブが見せるような、ボール奪取後にシンプルに前へボールを動かし、トップスピードで一気に相手の背後を狙うプレーが増えている。

 ここについてミシャは開幕前に「パスをつなぐ我々に対し、厳しいプレスを仕掛けてくるチームが増えている。それを素早く通過するようなプレーも身につければ、攻撃バリエーションは増える」としていた。

 攻守のキーマンである田中駿汰も「縦に速く仕掛けることでマイボールの時間が短くなるかもしれないし、回数が増えればエネルギーも消耗する。でも、前線にスピードのある選手が並んでいるので、上手くやれればビッグチャンスになる」としている。

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 攻撃に転じた際につなぎのパスをミスし、各選手が一時的にマンマークを手放したタイミングで、逆にカウンターを受けるのが札幌の弱点となる局面なのだが、シンプルに縦に蹴ることでそのリスクを軽減できていることもまた、チームの安定化につながっているように見える。

 今季加入の浅野が2シャドーの一角で早々にフィットし得点を重ねられているのも、縦に速いテイストが戦術に加わったことが一因だろう。

 昨季までの札幌では、シャドーの選手には後方に下りてビルドアップに加わる、あるいはフリックでスピードアップを図るといった多くの緻密なプレーが要求され、新加入の選手が馴染むまでには一定の時間を要した。現在でも基本要求は同じだが、前述してきたように縦に速いプレーが増えるなかで、絶対的な最優先事項ではなくなっている。
 
 縦に飛び出して攻めきれる浅野の技量は、昨季、一昨季であれば分からないが、現在の札幌の戦い方には丁度よくフィットしていると感じる。そしてどんな戦術であれ、得点を取った選手のプレー選択というのは、常に正解となる世界だ。

 ミシャが就任して今季で6年目。それだけの時間が経てばサッカーのトレンドは変わるし、チームの立ち位置やリーグの構図も変わる。現在のJ1ではほとんどのチームがGKからのショートパスで攻撃を開始し、多くのチームがそれを高い位置から封じにいく。

 そしてその一手先を行こうしているのが今季の札幌なのだろう。「トレンドを先読みできた者が優位に立てる」とミシャは発し続ける。ポゼッションをベースとし、相手のそれを封じるマンツーマンの戦術も持ち、場合によっては縦に速く攻めきれるハイブリッドさが今季の札幌の原動力となっており、今後さらに上位へと押し上げる可能性もある。

取材・文●斉藤宏則(フリーランス)

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