3月3日、WEリーグで2位の三菱重工浦和レッズレディースのウインターブレイク明け初戦は、首位のINAC神戸レオネッサをホームの駒場スタジアムに迎えての一戦だった。

 ひと月前の皇后杯全日本女子サッカー選手権決勝戦で、浦和Lは九分九厘、手中にあったタイトルを逃し、I神戸にPK戦で勝利をさらわれていた。WEリーグでも勝点差でひとつ上に位置するI神戸は、現状、浦和Lの最大のライバルだ。

 清家貴子も、この一戦には強い思いとともに臨んでいた。「本当に負けたくなかった。球際の部分、そういう戦う部分は大事にしていました。『自分が点を決めて勝つ、チームを引っ張っていく』っていう部分は、これからずっと、全うしなきゃいけない部分だと思うので、今日もそこは意識して試合に入りました」。

 清家らなでしこジャパンの選手たちは、この試合の前週から当該週にかけて、パリ五輪・アジア最終予選で北朝鮮と連戦を戦った。サウジアラビアに行って第1戦、戻って第2戦。水曜日に行なわれた国立競技場での第2戦から、今節のI神戸戦までは中3日のスケジュールだった。しかし、清家本人としては、自分の体調よりも、しばらくチームを離れていたことのほうが心配だったという。
 
「代表戦はフルで出たわけではないですし、中3日は普通に戦える日数なので、コンディション的には全く問題はなかったんですけれど、中断期間中、チームで練習することがほとんどできなかったので、そのコンビネーションの部分の心配はありました。けれど、本当に、前半を見て分かるように、すごく良い距離感で、良いタイミングでできたので、そこは心配いらなかったなっていう感じです」

 WEリーグが始まって以来、両者のリーグ戦の対戦では「アウェーチームの成績が良い」というジンクスがあった(4試合、すべてアウェーチームが勝利)。実際、この日も、試合開始直後の5分、I神戸に先制点を奪われた。田中美南のカウンターからのシュートでもたらされたコーナーキックを、北川ひかるが蹴り、最後は竹重杏歌理に押し込まれた。

 駒場スタジアムに、一瞬、嫌な空気が漂ったが、これを払しょくしたのが清家だった。12分、左サイドからの崩しを見ながら、ゴール正面へ入って待ち受ける。塩越柚歩の蹴ったボールが、島田芽依とディフェンダーの間からこぼれてくる。

 転がってきたボールを清家は反時計回りのターンで呼び込み、そのまま右足でシュートへ持っていく。I神戸が誇るゴールキーパー、山下杏也加も手を伸ばしたが、防ぐことはできない。ボールはきれいに、ゴール左隅へと吸い込まれた。

【動画】浦和L×I神戸ハイライト
「やっぱり普通にシュートを打っても、なかなかゴールを割れないと思っていたので、タイミングを外していこうって考えていました。本当に良いところに転がってきた。振り向きざまにダイレクトっていうのはイメージにありましたし、それがうまく良いコースに飛んでくれて良かった」

 このゴールで浦和Lは息を吹き返し、その後、戦いのペースを握った。清家は、15分にも遠藤優のクロスに合わせて飛び込み、マーカーの手前で合わせる。ここは山下に抑えられたが「タイミングはドンピシャでしたし、あとはコースだけというか。ああいう形をもっともっと増やしていけたらなと思います」。

 この日の清家は、試合の終盤でも、持ち前のスプリントで局面を打開し、チャンスを作るなど、タイムアップまで戦い続けた。試合は1−1の引き分けに終わったが、強行日程のなかでも、結果を残した。
 
 先日のパリ五輪出場を決めたゲームでは途中出場からすぐに試合へ溶け込み、チームを助ける活躍を見せた。18名のメンバー入りに向けて、地歩を固めている。

「それでも、途中交代で出た時に、フレッシュな自分がもっともっと個で剥がして、個でシュートを打てる力が、まだ足りないなって、この前の試合でも感じたので。そこは、これからの試合を含めてチャレンジしていきたいところです」

 WEリーグ連覇とパリ五輪でのメダル獲得。清家がひた走る一本道には、ふたつの目標が連なっている。

取材・文●西森彰(フリーライター)

【記事】ヤングなでしこは大丈夫!? U-20女子アジア杯開幕戦は豪雪でピッチ中央だけ真っ白→選手たちが四苦八苦!韓中メディアは「大雪の血みどろ決戦」「サイドしか使えないぞ」
 
【PHOTO】重要な一戦に勝利しパリ五輪行きの切符を掴む!笑顔溢れるなでしこジャパンを厳選してお届け!

【記事】「3分の2はゴールの内側に入っていた」“山下の1ミリ”を本人が解説「振り返った時に...」