5万人を超える観客が詰めかけるなど、注目を集めた3月3日のホーム開幕戦で、浦和レッズは東京ヴェルディに苦戦を強いられた。

 ペア・マティアス・ヘグモ監督にとって埼玉スタジアムでの初采配となるが、前節はアウェーでサンフレッチェ広島に0−2で敗れていることもあり、2連敗は許されない状況だったことは疑いない。

 しかし、城福浩監督が率いるヴェルディは浦和の意図を逆手に取るように、広島とはまた違った守備戦術で4−3−3の浦和を苦しめた。

 ヴェルディの4−4−2は横浜F・マリノスとの開幕戦から変わらないが、3ラインを縦に狭めながら、2トップの染野唯月と木村勇大は縦関係と横関係を臨機応変に切り替えながら、CBのアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテン、アンカーのサミュエル・グスタフソンの3人をチェックする。

 中盤はボールサイドにコンパクトな距離感で縦を切る一方で、最終ラインは高めのポジションを維持しながら、“ヘグモ式4−3−3”の強みであるウイングに対し、左右のSBがマンツーマン気味に付いて前向きにボールを受けられないようにケアしてきた。

 広島ほどハイプレスに来ない分、浦和は後ろでボールを持てるが、一発でウイングに出しにくく、しかもビルドアップの要であるショルツがボールを持つと、徹底して縦切りをされて、なかなかボールを前に運べなかった。

 ヴェルディは浦和のミスを誘発してボールを奪えば、素早くスイッチを入れてカウンターで仕留めに行く。守備を固めた浦和に正攻法で挑んでも、昨シーズンのJ1ベストイレブンであるショルツ、ホイブラーテン、守護神の西川周作を擁する牙城を崩すことは難しい。
 
 しかし、基本的に浦和がボールを持つ展開で、ヴェルディがボールを奪った時に隙を突いていけば、流れからでも得点チャンスはあるし、CKや危険な位置でのFK獲得にも繋がる。そうしたところからも、広島とはまた違ったヴェルディのしたたかさが見えた。

 浦和は自陣で数的優位になる分、GKの西川はもちろん、2CBとアンカーの誰かは前向きに持てるし、ボールと反対側のSBはフリーであることが多かった。ただ、ウイングは相手のSBが常にチェックしているため、シンプルに使うことができない。

 もちろん何度か縦にウイングを走らせるロングボールや縦パスも見られたが、左SBの深澤大輝が関根貴大、右SBの山越康平が松尾佑介に粘り強く付いて、有利な状態で仕掛けさせなかった。

 ただ、試合後にヘグモ監督も指摘していた通り、相手のSBが左右のウイングに対応する分、ファー側のCBとの間隔が通常の4バックより開いており、しかもラインが高めであるため、インサイドハーフの小泉佳穂や伊藤敦樹がウイングの代わりに、2CBにロックされたFWチアゴ・サンタナを追い越す動きで、ヴェルディの守備のポケットを取っていく余地は十分にあった。

 しかし、チームの共有が明確にならないまま、前半の終わりにCKの流れから木村のゴールでリードを許し、状況を難しくしてしまった。

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 後半、浦和は関根を左インサイドハーフに、小泉を右ウイングに入れ替えた。51分にはその効果か、ホイブラーテンのパス出しから左SBの渡邊凌磨からの縦パスをウイングの松尾がスルーして、インから関根が抜ける形でチャンスになりかけた。さらに右側から伊藤が同じような動きで受けるなど、浦和の攻撃にも動きが出てきた。

 ただ、ヴェルディ側もボールを動かしながらロングボールを入れてくるので、浦和が攻撃の連続性をなかなか出せないまま時間が進んだところで、へグモ監督は61分に“3枚替え”に踏み切った。

 左SBに大畑歩夢、左のインサイドハーフに岩尾憲、FWに興梠慎三という選手たちで4−3−3を入れ替え、渡邊を左SBから右ウイングに移す。さらに4枚目のカードとして、ヘグモ監督は中島翔哉を左ウイングに送り出した。

 そして、中締めをして守備を固めるヴェルディを混乱に導いたのが、終盤の浦和のシステム変更だった。ヘグモ監督は82分にアンカーのグスタフソンを下げて、“カルロス”ことFW髙橋利樹を投入。興梠と2トップを組ませた。これにより水を得た魚のように躍動したのが、左サイドの中島と大畑だった。

 中島がボールを持ってどんどん中に入り、大畑が追い越していく。浦和は紅白戦でBチームが対戦相手をイメージしたシステムになるが、中島、大畑、岩尾、興梠、髙橋はBチーム側に入っており、ヘグモ監督はそのままリソースとして活かしたと考えられる。

 87分には興梠の見事な落としを受けた中島のミドルシュートがディフェンスに当たり、それを大畑がディフェンスの背後で受けてエリア内でシュートを放った。
 
 これは惜しくもヴェルディの守護神マテウスに阻まれたが、その直後に中島の右足クロスを興梠が競り合い、跳ね返ったボールに大畑が飛び込んで、PKを獲得。ショルツが冷静に決めて、土壇場で1−1の同点とした。

 浦和にとっては広島戦に続き、4−3−3を巡る様々な課題が出る形で、最後は即効性の高い“急造プランB”に救われた格好だ。

 開幕戦に続いて低調なパフォーマンスに終わってしまったが、ここで負けて2連敗になるのと、勝点1を取って次に進めるのとでは全く違う。

 また苦しい状況でヘグモ監督が4−3−3に固執せず、柔軟な選択もできることが分かったことは収穫と言えるかもしれない。

 開幕から2試合で異なる浦和対策を経験したことも、今後に向けたプラス材料と捉えたいが、リーグ優勝を目ざす以上は、勝点という授業料を払って学ぶのではなく、勝ちながらアップデートしていく必要がある。その転機がいつ訪れるのか。もちろん次節であれば最良だ。

取材・文●河治良幸

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