97球完封で「マダックス」達成

セ・リーグ首位を走るDeNAは強力打線に目が行きがちだが、投手陣の踏ん張りも見逃してはならない。先発ローテーションの一角を担う東克樹投手(27)は、ここまで4試合登板で3勝0敗、防御率0.64と秀逸な成績を残している。

今季初登板の4月6日巨人戦では7回4安打無失点で初勝利。同12日のヤクルト戦でも6回5安打1失点で2勝目を挙げると、同23日の広島戦は6回3安打1失点(勝ち負けつかず)、同30日の中日戦では9回4安打完封で3勝目を挙げた。

しかも球数わずか97。メジャー通算355勝を挙げたグレッグ・マダックスが13度も記録したことにちなんで命名された100球未満の完封「マダックス」を達成した。

どちらかと言えば地味な記録のため、あまり取り上げられないが、「マダックス」はそう簡単には達成できない離れ業だ。本家もそうだったようにコントロールが良く、テンポよく打たせて取る必要がある。

東の制球力を示す何よりの証拠が与四球数。なんと28イニングを投げて0四球なのだ。

抜群のコントロールで知られる日本ハムの開幕投手・加藤貴之でも与四球2。5月8日時点で規定投球回に達している投手の中で与四球がないのは12球団唯一で、防御率0.64と合わせて東が12球団トップだ。

トミー・ジョン手術から復活

愛工大名電高から立命館大を経て2017年ドラフト1位で入団。ルーキーイヤーの2018年は11勝5敗、防御率2.45で新人王に輝いた。

しかし、左肘を痛めて2年目から低迷。2020年にトミー・ジョン手術を受けた。2021年に実戦復帰したものの1勝どまり、2022年も開幕投手を務めながら1勝6敗に終わった。

今季も当初は先発ローテーションの当落線上だったが、オープン戦でアピールに成功。シーズン開幕後は抜群の安定感を発揮している。

身長170センチとプロ野球選手にしては小柄。左腕から投げ込むストレートも平均145.1キロと飛び抜けて速いわけではない。チェンジアップ、ツーシーム、スライダー、カットボール、カーブなどの変化球も駆使しながら丁寧に、時には大胆にコーナーを突く。

28イニングで19奪三振と三振は決して多くない。だからこそマダックスを達成できたとも言えるだろう。

対左打者の被打率が大幅に良化

本家マダックスもスピードではなく「動くボール」でバットの芯を外すなど、抜群のコントロールを誇った。メジャー通算5008.1イニングで999四球を与えており、与四球率(9イニング当たりの与四球数)は1.79。ブレーブス時代の1997年には与四球率0.77(19勝4敗)をマークしたこともある。

日本でも2022年の日本ハム加藤貴之は147.2イニングでわずか11四球、与四球率0.67と驚異的な数字を残している。東はどこまで無四球を継続できるだろうか。

東が目に見えて良くなった点のひとつは、対左打者だ。2022年は被打率.374だったが、今季はここまで.132。対右打者の被打率.190を上回っている。

2020年に結婚して長女も誕生。自身のSNSには愛娘の写真を投稿している。2019年に推定5550万円だった年俸は2610万円まで下がった。ようやく復活した東はまだまだ腕を振り続ける。チームのために、愛する家族のために。

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