マイルに近い2000m

春の中山開催が開幕した当初に吹いていた北風はこの日、南風に変わっていた。冬の終わりから春へ。少しじれったい春のおかげで、向正面の桜は皐月賞も見守ってくれた。思えば、レース当日、雨に見舞われ平日の雨が残るなど馬場の読みにくい開催だった。当日朝の芝が土日とも良馬場だったのは、3月16、17日、23、24日の2週と当週しかなく、はたして皐月賞はどんな馬場になってしまうのか心配になるほどだった。

8R・野島崎特別(2勝クラス)は皐月賞と同じ芝2000mで行われ、1:58.2で決着した。前後半1000m1:00.1-58.1で上がり600m34.8。絶好の馬場状態といえた。皐月賞は相当速い時計になる。そんな予感があった。かつて、良馬場の皐月賞は速い時計が出ることがあった。それも後半が速いというより、マイラータイプがスピード任せにレースを演出し、前半も後半も速いという決着が多かった。2016年ディーマジェスティ1:57.9、17年アルアイン1:57.8。57秒台の皐月賞といえば、この二つを思い出す。適性としてはマイルに近い2000m戦。今年はまさにそんなスピードの持続力勝負になった。

内枠メイショウタバルが先手をとる。逃げにはこだわらないというコメントもあったが、やはり枠順を考えると折り合いをつけ、自然な形で流れに乗れば、いつの間にかハナに。そんな競馬だった。鞍上も折り合いのつけどころを探すうちに、後ろが離れてしまったという感じだったのではないか。序盤600m34.2、前半1000m通過57.5は速い。ムキになったわけではなく、最高の馬場のアシストもあり、気がつけばハイペースになった。

向正面に入ってもペースダウンせず、ずっと11秒台を維持したまま、1200mは1.09.3。前が大逃げの形になったとはいえ、中距離志向で調整されてきた馬たちのなかで、対応できるか否かがくっきり分かれた。勝ったジャスティンミラノと3着ジャンタルマンタルは前走1800m出走馬。この共同通信杯1、2着馬はワンターンの東京芝1800mで後半の高速決着を経験していた。先行してラスト400m10.9-10.8を経験できたことが好走に導いた。同時にそんな速い時計をクリアできる適性が前後半1000m57.5-59.6、1:57.1のレコード決着に合致した。


配合で変わるキズナ産駒

今回、共同通信杯組2頭の位置関係は逆だった。前に出たのはジャンタルマンタル。前走は次に控える2000mを意識し、折り合い重視でリズムをつくることに専念した印象があった。その課題をある程度クリアできたからこそ、今回は前走の結果も踏まえ前へつけた。作戦は間違えなく一旦は抜け出した。坂で止まった印象なので、急坂の2000mは若干長いということだろう。対してジャスティンミラノは枠も外目だったこともあり、今度はひと溜めできる位置をとった。目の前にはジャンタルマンタルもいる、いわゆる絶好位といっていい。最高の運びと速い流れが見事に結果にむすびついた。

ジャスティンミラノの父はキズナ。牡馬だと少しスピード不足の産駒が多くパワー型とみられていたが、ジャスティンミラノはキズナの父ディープインパクトに似たスラっとした体型をしている。500キロを超えながら、腹目がすっきりしており軽さを感じる。母の父エクシードアンドエクセルはオーストラリアのチャンピオンスプリンター。香港の短距離王ミスタースタニングや8ハロンのGⅠ3勝のエクセレブレーションなどスピードタイプを多く輩出した。そんなスプリント志向の血がキズナと結びつくことで、キズナの奥にあるディープインパクトを引っ張り出す。ノーザンファームが配合でキズナの良さを引き出した。それがジャスティンミラノだ。これからはキズナ産駒の傾向も変わってくるのではないか。


高速決着の皐月賞とダービー

2着コスモキュランダは2017年皐月賞馬アルアインの産駒。高速決着の皐月賞で父の血が騒いだ印象だ。ゴール前の脚色は先に動いたジャスティンミラノを上回っており、ダービーでの可能性も感じた。だが、アルアインはダービー5着。2年後、同じような内回り芝2000mの大阪杯を勝った。ついでに似た皐月賞を勝ったディーマジェスティもダービーは3着。マイルっぽい皐月賞で好走した馬はダービーで違う適性を乗り越えないといけない。

アルアインの年はダービーを皐月賞5着レイデオロが、ディーマジェスティのときも皐月賞2着マカヒキが逆転に成功した。スピードの持続力勝負で好走するも適性の差で敗れた馬となると、5着シンエンペラーではないか。凱旋門賞馬ソットサスの全兄弟で、まだまだ気性の若さも抱えており高速決着は明らかに不向き。それでも5着確保は能力の高さを示す。

レガレイラは最後、伸びるも6着に敗れた。末脚は繰り出せたが、いかんせんペースが速すぎた。マイルではなく2000mに適性を感じたからこその参戦だけに、マイルに近い中距離戦では厳しい。外を通った分もあるが、そもそも前半のペースがレガレイラの能力全開を阻んだ印象だ。

それだけに、スローに近い2000mの直後に高速レースを経験して好走したコスモキュランダとシンエンペラーに逆転を託したくなった。皐月賞の高速決着は、実はダービーの着順に直結しない。歴史が示す事実でもある。時計のインパクトが大きいジャスティンミラノの能力を称えつつも勝負づけはまだまだ済んでいない。いずれにせよ、ダービーは皐月賞の向こうにある。当日までしっかりおさらいしよう。


2024年皐月賞、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
・【マイラーズC】高速馬場への対応力がカギ 実績上位のセリフォス、ソウルラッシュが中心
・【フローラS】5番人気以内は差のないデータ 中心はエルフストラックらフラワーC組
・【マイラーズC】過去10年のレース結果一覧