中村勘太郎と中村長三郎が、2024年2月2日(金)開幕の『猿若祭二月大歌舞伎』に向けた取材会に出席した。ふたりの祖父である十八世中村勘三郎の十三回忌追善興行だ。勘太郎と長三郎が、大きな役への意気込みを語った。取材会では、シネマ歌舞伎『唐茄子屋(とうなすや) 不思議国之若旦那(ふしぎのくにのわかだんな)』(作・演出:宮藤官九郎)の思い出も紹介された。

■勘太郎が猿若を勤める『猿若江戸の初櫓』

勘太郎は、2011年2月22日生まれ。2012年12月5日に、祖父である十八世勘三郎が逝去した。2013年5月22日に長三郎が生まれた。

十三回忌の追善興行で大きな役を勤めることが決まった時、ふたりは父の中村勘九郎から「十三回忌で踊るから、がんばりなさい。一所懸命やりなさい」と言われたのだそう。

勘太郎が出演するのは、『猿若江戸の初櫓(さるわかえどのはつやぐら)』。主役の猿若を勘太郎が、出雲の阿国を叔父の中村七之助が勤める。

『猿若江戸の初櫓』猿若=中村勘太郎     撮影:篠山紀信

『猿若江戸の初櫓』猿若=中村勘太郎     撮影:篠山紀信

勘太郎:猿若は今までに、じじちゃま(十八世勘三郎)や、おとうちゃま(父の中村勘九郎)が踊ってきたお芝居です。いつもの「やるぞ」という気持ちより、不安感の方が強かったです。でも自信をもって踊れるように努力しています。

江戸歌舞伎のはじまりを題材にした舞踊劇だ。1987年1月の歌舞伎座で、中村勘三郎によって初演された。二代目中村勘太郎(現・勘九郎)・二代目中村七之助の初舞台の月だった。それ以来、中村屋にとって節目、節目に上演されている。

勘太郎:稽古は大変です。おとうちゃまの映像を見てしまうと、プレッシャーも感じます。ここをもっとがんばらないと、とか。止まるときは止まり、動くときはきれいにピシッと動かなくてはいけません。そして台詞は心を込めて言わないといけません。紐で踊るところがあるので、そこは注目してほしいです。

勘太郎は、現在中学1年生。

勘太郎:成長期なので身長も伸びてきました。今161㎝くらいで、もうママを抜きました。

長三郎:足も爪先もハンパないよね。グーンて伸びてくじゃん?

勘太郎:爪先も!? そう?(笑) 

■長三郎が『連獅子』

小学4年生の長三郎は、『連獅子(れんじし)』で狂言師左近後に仔獅子の精を勤める。父の勘九郎が親獅子の精だ。

長三郎:うれしいよりは、ビックリと怖いです!

勘太郎:なんで怖いの?

長三郎:『連獅子』と聞くと、すごい圧がある。だからメチャクチャ怖い。『連獅子』は「大役!」って感じがするから。

勘太郎も2021年に仔獅子を勤めた。勘太郎から長三郎に、アドバイスをすることもあるようだ。

勘太郎:お稽古で大変だったり辛かったりしたところを伝えたり。(自宅で映像をみながら)ここが危ないよ、とか、下を見ないようにとか、三味線の音とか太鼓の音をよく聞いて踊らないといけない事とか。

長三郎は、勘太郎の稽古をそばで見ていた。

長三郎:おにいちゃまのお稽古をずっとみていたので、耳に残っているところもあります。おにいちゃまが言った通り、音に合わせないといけません。注意されているところも見ていたので、先にアドバイスしてくれるのが良いと思います!

記者から「ありがたいことですね」と言われると「いやー、ありがたいです! ありがとうございます!」と長三郎。「ありがとうって言われたの、初めてかもしれない!」と勘太郎。

『連獅子』といえば、後半に紅白の長い獅子の毛を振る場面がよく知られている。

長三郎:見てほしいところは、やっぱり毛を振るところ……と思いきや! 谷に落ちる、激しいところも注目してほしいです。ダブルで注目してください。とにかく良いところを見てほしいです!

『連獅子』狂言師右近後に親獅子の精=中村勘九郎、狂言師左近後に仔獅子の精=中村長三郎         撮影:篠山紀信

『連獅子』狂言師右近後に親獅子の精=中村勘九郎、狂言師左近後に仔獅子の精=中村長三郎         撮影:篠山紀信

■平成中村座で話題となった新作歌舞伎が映画館で

1月25日まで、全国の映画館で上映されるシネマ歌舞伎『唐茄子屋 不思議国之若旦那』。2022年に平成中村座で上演された新作歌舞伎で、宮藤官九郎が作・演出を手がけた。勘太郎と長三郎は、古典歌舞伎とは異なる、新作歌舞伎ならではの舞台づくりを経験。「面白かった」と口を揃える。

勘太郎:新作歌舞伎はゼロから作らなければいけないので、台詞もいっぱい変えたりします。稽古も毎日のようにやったので、そこは大変でした。

主人公は、勘九郎が演じた若旦那。傾城に入れあげて勘当されてしまう。

勘太郎:あざすッ(ありがとうございます)! みたいな台詞もありました。皆で若旦那のポーズとか考えたりもして。

長三郎:最初は、ちょっと違うポーズだったんだよね。宮藤さんとみんなで考えて。

勘太郎:若旦那の立廻りの時に、(中村)いてうさんが思いついたんです。

若旦那のポーズ

若旦那のポーズ

それぞれの見どころは?

勘太郎:冒頭のお祭りの場面です。平成中村座だったので、舞台の後ろの扉を開けて、外が見えるようにする演出を最初から使います。そこが面白いと思います。

長三郎:僕は好きなシーンは2つあります。ひとつは、そのお祭りの橋の所です。僕はおじじ(叔父の中村七之助)と一緒にいるのですが、よく見ていただくと、僕とおじじは(劇中の役の設定上)避けている人がいるんです。最初から、その人を避けてお芝居をしているのを見てほしいです。

勘太郎:もうひとつは?

長三郎:パラレルワールドの吉原! 多分あんな感じではなかったと思うんですけれど、面白いです!

勘太郎や長三郎の同世代にも伝わる、分かりやすさと面白さ。

勘太郎:歌舞伎というと、どうしても古典とか、かたい感じだと思われるかもしれませんが、すごい笑えるところがあって面白いので、同世代の方にも見てほしいなと思います。

■中村屋に生まれたこと、これからやりたいこと

偉大な曾祖父、祖父をもち、人気と実力を兼ね備えた父と叔父をもつ。しかし歌舞伎の家に生まれ育ったことへの受け止め方はごく自然体だ。

長三郎:びっくりしてますし、お芝居をやっていると大変だなって思うこともあります。でも歌舞伎の子に生まれたから偉いってわけでもないし、偉くないってわけでもないし、そんなに気にしていないです。

勘太郎:責任は……感じます。でもあまり、そういうことは。

長三郎:気にしてないよね、ふたりとも!

勘太郎:意識していないです。

昨年12月、勘九郎・七之助兄弟が『爪王』を上演し好評を博した。勘太郎・長三郎が兄弟で共演したい作品はあるのだろうか。

長三郎:『爪王』なら、僕は吹雪(鷹の名前)をやりたい。

勘太郎:なんでですか?

長三郎:狐をボコボコにできるから。

勘太郎:ただ勝ちたいだけ!?(笑)

長三郎:そう!(笑) あと金(きん)!

勘太郎:吹雪は黄金になるんだよね。

長三郎:あとは『夏祭浪花鑑』とか。ダブルキャストで……大変すぎて無理か。 

無理かどうかは気にせずに、と促されると、長三郎は続けて演目を挙げた。勘太郎は、長三郎の答えをフォローしつつ、落ち着いて答える。

長三郎:じゃあ『夏祭』! 1回は団七をやりたいよね、ふたりとも。やりたくない?

勘太郎:やりたいですね。ふたりなら『弁天(青砥稿花紅彩画 )』とか? 弁天と南郷でダブルキャスト。

長三郎:やりたいです!

さらに「勘九郎さんも加えて3人でやるなら、たとえば3人での『連獅子』は」と提案されると、「やりたいです!」と声を弾ませる長三郎。

長三郎:3人なら『三人吉三』も! あ、これはやっぱり無理か。

勘太郎:年齢差がね(笑)。

長三郎:大! 中! ミニ!(勘九郎! 勘太郎! 長三郎!)

勘太郎:そうなるね(笑)。

長三郎:そうなるね(笑)。

長三郎:3人ではないけれど僕はあれを1回してみたいんですよ。上に上がって、グルンてやって落ちる。

勘太郎:(『義経千本桜』の)『四の切』?

長三郎:やりたい。

勘太郎:体力がないとできないよ?

長三郎:できる。やればできる!

最後に、この先どんな歌舞伎俳優になりたいかを聞いた。

長三郎は「お兄ちゃまの子どもとかに憧れられたり、いろんな人に憧れるって言ってもらえる役者になりたいです!」と即答。勘太郎は「僕の子どもなんだ」と笑ってから、少し考え「『義経千本桜』をやれるような役者に」と答えた。『四の切』もやりたいです」と答えていた。

2月の歌舞伎座では、勘太郎、長三郎だけでなく、勘九郎、七之助や、中村鶴松も大役に挑み、勘三郎にゆかりの深い俳優が揃うひと月となる。『猿若祭二月大歌舞伎』は2月2日から26日まで。

取材・文・撮影=塚田史香