市川染五郎

市川染五郎

市川染五郎インタビュー
「まず自分が早く(展示作品を)鑑賞したい」

――今回の音声ガイドの収録で心がけたこと、難しかったことはありますか?

普段舞台や映像でお芝居するときも一緒ですけれど、どれだけ気持ちが入っていようが、台詞を理解していようが、それがお客様に言葉として伝わらないと意味がないと思うので、基本的なことですけど、とにかくお客様にきちっと一語一句伝わるようにということは意識して収録させていただきました。

――普段、美術館や博物館に行かれたときには、音声ガイドは使われるのですか。

展示によっては使用することもありますが、割と結構ポンポン見て行っちゃうタイプなので。

――どういったジャンルだと音声ガイドを使われるのでしょうか。

今回のような仏像が好きなので、仏像の展覧会にもよく行くのですが、そういうときは使用することもあります。そもそも仏像が好きな理由も、動きとかポーズの一個一個に意味がある部分にすごい魅力を感じて、そういうのもやっぱり解説聞かないとわからなかったりするので、仏像の展覧会のときは音声ガイドを借りて聞くことも多いです。

――今回も仏教美術の展覧会になっています。見てみたいなと思われた作品や、注目されている作品があるようでしたら教えてください。

今回の展示ではさぬきの寝釈迦が気になりますね。大きさが2メートルもあるそうなので。

――《仏涅槃群像》ですね。

これは気になりますし、《阿弥陀如来立像》も気になりますね。この阿弥陀如来様は、慶派(平安時代末期から江戸時代の仏師の一派)の仏師が作ったんじゃないかみたいなことが伝わっているみたいなんです。僕は割と運慶や快慶の作品が好きなので、そういう意味でも興味があります。運慶快慶の作品って本当に独特な空気を纏っていると思うので、その空気を生で体感したいな、という感じです。​

《仏涅槃群像》江戸時代・17世紀 香川・法然寺蔵 ※本展では、涅槃像と群像の一部を展示します

《仏涅槃群像》江戸時代・17世紀 香川・法然寺蔵 ※本展では、涅槃像と群像の一部を展示します

《阿弥陀如来立像》鎌倉時代・建暦2年(1212)浄土宗蔵  【展示期間】5月14日(火)〜6月9日(日)

《阿弥陀如来立像》鎌倉時代・建暦2年(1212)浄土宗蔵 【展示期間】5月14日(火)〜6月9日(日)

――歌舞伎の演目を通して、仏教文化や歴史に興味を持たれた経験というのはあるのでしょうか。

そうですね、作品(演目)に関係する人物が、実在の人物だったりすると掘り下げたりもします。今回の音声ガイドを担当してみて、仏師が主人公の歌舞伎を作ってみたいなという思いも込み上げてきました。

――それは新作歌舞伎の構想ということですね。

そうですね。澤瀉屋さんのスーパー歌舞伎で『空ヲ刻ム者―若き仏師の物語―』という作品がありまして、それも仏師が主人公なんですけど、自分なりに何か作ってみたいなという思いはあります。全然ストーリーとか内容は全く思いついていないんですけどね(笑)。


父・松本幸四郎について

――法然が立ち上げた浄土宗は、貴族から庶民まで万人から支持された日本仏教の一つです。歌舞伎もそもそも大衆娯楽であり、少し繋がりがあるような気がしています。沢山の人達に支持されるという部分で共通点、また、そこで今現在活躍しているということに対して、感じる部分などはありますでしょうか?

さきほど収録をして、原稿を読ませていただいていても、本当にいつの時代も普遍的な教えというか、現代を生きる人たちにも響くような教えだなと思ったんです。歌舞伎はどうしても、現代の方たちには敷居が高いとか、難しそうというふうに思われがちです。でも、僕自身は意外と柔軟性がある演劇だと思っているんです。(歌舞伎は)その時代の流行りだったり、価値観というものを柔軟に取り入れている演劇ですので、そういう所は近いものがあるのかなと思います。法然が伝えたのも「南無阿弥陀仏と唱えれば、誰でも極楽浄土に行ける」という教えですから。もっと柔軟に気軽に歌舞伎も楽しんでほしいと思っていますし、そういう部分が繋がるところかな、と思います。

――今回この展覧会に来場されるお客様へ、染五郎さん目線で見どころ、それから音声ガイドの聞きどころがございましたら、メッセージをお願いします。

見どころというか、まず自分が早く見たいですね(笑)。今もワクワクしています。音声ガイドを父とやるのは初めてなので、どういうふうにお客様に聞こえるのかなというのは気になる部分ですね。

――それは歌舞伎ファンのお客様も気になるところだと思います。

父とは歌舞伎の舞台で共演することが多いので、歌舞伎に関しては、もちろん父から台詞や芝居を教わってきました。普段は別に思わないのですが、台詞となると「似てるな」って思うこともあって。そういう意味では、二人がそれぞれ読ませていただいていますが、交互に読んでる部分も流れるように、自然に聞いていただける感じになってるんじゃないかなと思います。

――劇場版『鬼平犯科帳 決闘』(2024年5月公開予定)でも親子共演されます。やはりお二人で何か作品を作られるという部分では感じ入るものも多いのでしょうか?

そうですね。言葉で説明するのは難しいですが、映画や舞台なども含めて、ここ何ヶ月間は自宅でも父と芝居の話をして、お互いの思っていることを共有する時間が結構多かったんです。舞台では父といろんなことを共有して作り上げてきたので、言葉がなくても通じ合うようなものがあると思っています。親子だからこそ通じ合うものがあるので、それを今回(音声ガイド)は声だけでも感じていただけるんじゃないかなと思います。


特別展『法然と極楽浄土』は2024年4月16日(火) から6月9日(日)まで、東京都国立博物館 平成館 特別展示室にて開催。チケットはイープラスほかプレイガイドで販売中。親子であり、歌舞伎という同じ舞台で活躍する松本幸四郎、市川染五郎のナビゲートで、過去から今も続く「大衆に根付いた伝統」の足跡を感じてもらいたい。

文=SPICE編集部、写真=オフィシャル提供