アングラ演劇の旗手として活躍した劇作家の唐十郎(から・じゅうろう、本名大鶴義英=おおつる・よしひで)さんが4日、東京都中野区の病院で死去した。唐さんが主宰する「劇団唐組」が5日、発表した。84歳だった。訃報を受け、劇団の座長代行・久保井研氏が5日午前、都内で会見を行い、最近の様子を語った。

 久保井氏が最後に会ったのは4月13日だといい、「我々は花園神社の前に神戸・岡山と2週公演してまして、出発前の4月13日の朝に座長にあいさつしに行ったところ、車のあるところまで10メートルくらい1人で歩いてきて、行ってらっしゃいと声かけてもらった」と回顧。「岡山、神戸公演で2週間やってきた芝居を見てもらえる日を楽しみにしていた」と残念がり、「なんとか舞台の幕を開けて、元気になった唐さんに見てもらおうと思っていたが、かないませんでした。唐さんはテントと共にいると思うので、何より芝居が好きな人だったので客席の後ろで見守ってくれていると思う」と天国の座長に思いをはせた。

 4月13日の様子については「思いのほか、足取りがしっかりしていた。いつもは脇を抱えて歩かれるという感じだったが、当日は手を添えるくらいで歩かれたので“しっかりしてますね”と声かけたら“そうなんだよ”と唐さんらしかった」と久保井氏。「サービス精神旺盛で私たちにも手を振ってくれた」と振り返った。

 劇団は「5月4日21時01分に(右)急性硬膜下血腫で永眠致しました」と発表。1日午前中に自宅で転倒し、中野区内の病院に緊急搬送されたという。

 唐さんは、1940年(昭15)2月11日生まれ、東京・下谷万年町出身。明大文学部演劇学科卒。63年に「シチュエーションの会」(64年に劇団「状況劇場」に改名)を結成し、67年、新宿花園神社で“紅テント”公演を行う一方、根津甚八、小林薫、佐野史郎ら多くの俳優を輩出した。

 86年の公演を最後に状況劇場を解散。88年に唐座をつくり、3月東京・浅草に巨大テントでつくった“下町唐座”を完成させた。

 劇作家として70年に「少女仮面」で岸田戯曲賞を受賞。小説家としても78年に「海星・河童」で泉鏡花文学賞、83年に「佐川君からの手紙」で芥川賞を受賞した。横浜国立大や母校・明治大で教壇にも立った。

 2021年に文化功労者。67年に李礼仙(李麗仙)さんと結婚するが、86年4月離婚。俳優の大鶴義丹は長男。