◇セ・リーグ DeNA7−2巨人(2024年4月26日 横浜)

 涙のグランドスラムだ。DeNAのドラフト1位・度会隆輝外野手(21)が26日の巨人戦でプロ初の満塁本塁打を放った。開幕から1番を務めてきたが、打撃不振で8番に降格。8回にダメ押しした3号は開幕2戦目以来20試合ぶりで、球団の新人では史上初の満塁弾となった。3安打4打点で今季3度目の猛打賞。持ってるルーキーがド派手な復活劇を演じた。

 右翼の守備に就きながら視界がぼやけた。ファンからの大声援を浴び、度会は充血した目からこぼれる涙を拭って、懸命にこらえた。

 「幸せなうれしすぎる時間。でも男たるもの泣いてはいけないなと。感情が込み上げてきたけど耐えたっす」

 三浦監督に呼ばれ、膝を突き合わせたのは24日の阪神戦後。期待の左打者は14打席連続無安打で打率・202に沈んだ。「誰もが通る道。研究、マークされて苦しんだらその上をいけ」。激励の言葉とともに、開幕から全21試合で務めていた1番から8番に変更する意図を伝えられた。草野球で野球が苦手な選手を指す「ライトで8番」、いわゆる「ライパチ」は人生初。出塁率にこだわるあまり本来の打撃が影を潜め、「楽なところで思い切りのいい打撃を」という思いで託された。

 球団史上初の新人満塁弾で応えた。1―2の8回に1点を勝ち越して、なお2死満塁で変則左腕の高梨をぶつけられた。試合前時点で対左腕には打率・088。これこそ指揮官が言う「成長するための壁」だった。初球から6球続いたスライダーを完璧に捉えた打球は右翼席へ一直線。球団新人では64年ぶりに開幕弾を放った男は、プロ初の満塁機で最高の結果を残した。「球界を代表する凄い左キラーでENEOSの先輩。打てたのは自分の財産」と喜んだ。

 初めてノートをベンチに持ち込んだ。石井チーフ打撃コーチの助言で「いろんな発見、見方ができるかもしれない」と打席ごとに書き込んだ。早出特打で打ち込みを敢行。体に巻き付けたゴムチューブを後ろから引っ張られながら走るメニューや、壁に両手をついた状態で両太腿を大きく上げる、陸上選手のようなトレーニングを行った。体を大きく使う感覚を養い、豪快な打撃を取り戻した。

 ヤクルトに在籍した父・博文氏も3ランまで。現役時代に新人満塁弾を放っている巨人ベンチの阿部監督、二岡ヘッドコーチの前で打った。2回と5回の単打も含めて10試合ぶりの3安打。三浦監督が「持ってんのかな…」と驚いた大型新人は言う。「悔しさがあった。死に物狂いで頑張るしかない。大事な場面での打席はえげつないほどあると思う」。チームはまだ借金1の4位。打順を下げた「ハマのライパチくん」がチームを押し上げる。(神田 佑)

 ≪新人が4月までに満塁弾打ったのはセでは74年ぶり≫度会(D)が8回にプロ初の満塁機で左腕・高梨(巨)から3号アーチ。新人の満塁本塁打は、昨年8月9日広島戦の北村恵(ヤ)以来プロ野球61人目、62本目。セでは22人目、23本目になるが、DeNAでは前身球団を通じ創設75年目で初となった。また、4月までに打ったのは、06年3月29日ソフトバンク戦の炭谷(西)以来で、セ・リーグでは50年3月24日巨人戦の土屋五郎(国鉄)以来74年ぶり2人目となった。

 ▼ENEOS・大久保秀昭監督(度会が昨年まで所属し、指導した恩師。都内の自宅でテレビ観戦)相手の高梨もENEOS出身だから複雑でしたけど…。最近の試合も見ていて、大苦戦していると感じました。それでも使ってもらえるのだからありがたいです。ただ、日々痩せていくように見えちゃって。ちゃんとご飯食べているのか心配になりましたけど、これで吹っ切れたはず。今後は打てない期間をどう短くするか。今日は佐野が同点打、牧が勝ち越し打でしょ。さすがは億を稼ぐ選手たち。度会はまだまだ子供ですけど、将来はああいう選手に育ってほしいと思います。