U−23UAE代表とU−23日本代表の間には1レベルぐらいの差があると思っていたが、実際は2レベルほど下だった。パスコースが出し手と受け手の関係しかない、三角形を描きにくいサッカー。パッと見て、これこそUAEが日本に大きく劣る点だった。簡単には追いつけない差という意味での2レベルの差なのだが、5−0で勝ってもおかしくない試合を2−0で終えたことぐらいが、この試合の唯一の不満だった。

 もっとも、そこには主審およびVARの微妙な判定や、相手GKの超美技など、日本にとってアンラッキーな要素も多分に含まれていたので、ほぼ完璧な一戦と言い表わすこともできる。


U−23UAE代表戦の前半27分、先制ゴールを決めた木村誠二 photo by Kyodo news

 年代別を含めた日本代表の試合でこうした試合を見たのはいつ以来だろうか。個人的な印象として完璧な試合として刻まれているのは、2015年アジアカップのイラク戦となる。スコアこそ1−0だったが、1−0の試合のなかでは最上級にあたる試合だった。その言い方をこのUAE戦にも用いるなら、2−0のなかでも最上級にあたる試合となる。

 ただし、アギーレジャパンが戦った9年前のアジアカップのイラク戦は、試合を単品として見れば最高だったが、監督采配的にはけっして褒められたものではなかった。

 パレスチナに4−0で勝利した1戦目と、同じ先発メンバーで戦ったからである。さらにハビエル・アギーレ監督は、グループリーグの3戦目(ヨルダン戦)、4戦目の準々決勝(UAE戦)も同じ先発で戦っている。中3日、中3日、中2日という過密日程であったにもかかわらず、4戦連続同じスタメンで戦い、1ランク落ちるUAEに延長PK戦負けした。早々と力尽きてしまった。

 当時も日本は優勝を狙うレベルにあったが、監督の起用法はそれに相応しくなかった。一戦必勝。目の前の試合に勝つことしか眼中にない、弱者のやりくりそのものだった。この発想では短期集中トーナメントの優勝は目指せない。

 2018年ロシアW杯を戦った西野朗監督は、1戦目(コロンビア戦)と2戦目(セネガル戦)を同じスタメンで戦い、3戦目(ポーランド戦)で一気に6人を変えた。「3試合連続同じスタメンではもたない」と踏んだのだろう。だが、4戦目(ベルギー戦)は、再び1、2戦のメンバーに戻している。もしベルギーに勝っていたら、中3日で行なわれた5戦目はどうしていたのだろうか。先発メンバーは想像できない状態にあった。

 この場合、3戦目は半分サブで戦ったという位置づけになる。結果的に、チーム内をスタメンとサブとに大きく色分けしたことになる。なぜ2戦目、3戦目と漸次的にグラデーションをかけるように選手を使わなかったのか。

【チームが一丸になりやすい采配】

「今の日本では先を見通した戦い方をすることはできない」と述べたのは森保一監督だ。東京五輪後の会見で、選手の起用法を尋ねられた際の答えである。2019年アジアカップ、2021年東京五輪、2022年カタールW杯、2024年アジアカップと、森保監督はロシアW杯当時の西野式と同じスタイルで戦っている。次回のW杯本大会ではベスト8以上を目指すと述べているが、弱者の発想で5試合以上を戦おうとしているなら、それは単なる精神論と言わざるを得ない。

 UAEは日本に対し、第1戦(韓国戦)とほぼ同じメンバーで臨んできた。この時点で3位以内(五輪出場権獲得)は難しそうなチームだと推測できた。それとは真逆のスタンスで臨んできた日本のスタメンを見て、ホッと胸をなで下ろしたものである。アギーレ、西野、森保式では先が思いやられる。そう思っていただけに、大岩剛監督の決断に拍手を送りたくなった。

 日本は内野貴史、高井幸大、西尾隆矢、藤田譲瑠チマ、松木玖生、平河悠、細谷真大に代わり、大畑歩夢、木村誠二、鈴木海音、川崎颯太、荒木遼太郎、佐藤恵允、藤尾翔太がスタメンを飾った。

 それで2−0の勝利を収めた。理想的な勝利以外の何ものでもない。この大会は中2日の戦いなので、当然といえば当然なのだが、この当然のことが日本サッカーはこれまでうまくできていなかった。

 2戦を終えて、出場していない選手はフィールドプレーヤーの中では半田陸、田中聡のわずかふたり。チーム内に大きな境界がないことが、先を目指すうえで何よりの収穫だ。チームが一丸になりやすい采配だ。

 大岩監督は第1戦の中国戦でも理想を貫いている。退場者を出し10人になりながら、後ろで守ろうとしなかった。4−4−1の体制を堅持した。これもチームが一丸になりやすい采配である。苦しくなると5バックで守る作戦より、監督のカリスマ性は高まる。チームに勢いが生じる。

 もっとも、中国戦では気になる要素もあった。

【細谷の居心地がよくなった】

 1トップの細谷が4−4−1という布陣のなかで孤立していた点だ。4−3−3の1トップは、4−2−3−1の1トップより、それ以外の選手との距離が遠のく。そのため1トップにはボールを収める力が求められる。ところが細谷はポストプレーをさほど得意としない。4−3−3に落とし込んだとき、しっくりくる選手ではない。その傾向が、4−4−1になってより鮮明になっていた。

 優勝、あるいは3位以内を目指そうとすれば、実力者である細谷が布陣のなかにきれいに収まる必要がある。

 このUAE戦では、細谷は後半29分、藤尾に代わって4−3−3の1トップに座った。すると次の交替機で、中盤の川崎に代わり内野航太郎が入ってきた。布陣もそれに伴い4−4−2に変化した。細谷と内野の2トップ体制になった。後者はボールを収める能力が高い選手だ。細谷の居心地はこれグッとよくなった。最適解を見た気がした。

 問われているのは、決勝までの全6戦をコンスタントに戦うチームとしての総合力だ。一定の水準を誰がピッチに立っても保てるか、である。中国、UAEに連勝すると同時に、そちらの課題も克服できそうな見通しが立ってきた。

 右肩上がりが続く選手の質に監督采配がようやく追いついた。筆者にはそう見えた。多くの選手を使いながら中国、UAEに連勝する姿が、筆者には喜ばしい光景に見える。

著者:杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki