今中慎二が語る今季の中日 前編

 好調な滑り出しから一転、阪神に3タテを許すなど5連敗もあった中日。かつて中日のエースとして活躍し、今年の春季キャンプでは11年ぶりに古巣を指導した今中慎二氏に、中日ピッチャー陣の課題を聞いた。


4月20日の阪神戦で、2回途中6失点でKOされた大野雄大 photo by Sankei Visual

【フォアボールが失点につながっている】

――ピッチャー陣が奮闘して好スタートを切った中日でしたが、4月18日のヤクルト戦で柳裕也投手が6失点と打ち込まれて大敗。続く阪神戦では3連敗を喫するなど状況が一変してしまいました。

今中慎二(以下:今中) 好調な時はピッチャーを含めて守りがよかったんです。取れるアウトをしっかり取っていましたし、打つほうでは中田翔が犠牲フライなどで毎試合のように打点を挙げたりしていました。昨季と比べてそこまで得点力が上がったわけではありませんが、数少ないチャンスで点が取れていて、投打がかみ合っていましたよね。

――ヤクルト戦と阪神との3連戦では、4戦合計36失点を喫してしまいました。

今中 4月21日の阪神戦で先発した松葉貴大に関しては、佐藤輝明にスリーランを打たれましたが、それまでは粘り強く投げていてよかったと思います。ただ、柳や(ウンベルト・)メヒア、大野雄大ら、ほかの投手がよくなかったですね。5イニング以上投げられず、それが3試合も続くと厳しいです。

――ヤクルト戦での柳投手のピッチングはどう見ていましたか?

今中 フォアボールが多かったですね。コースを狙ってフォアボールになることもあり、押し出しもありました。今季は、そういうことがなかったんですが......。あの試合に限ってはピッチングが急変しました。中5日が影響した部分もあるのかもしれません。

 2番手以降のピッチャーもそれに引きずられてしまったのか、同じようなことをやってしまった。結局、フォアボールが全部失点につながっていました。バッティングが不調だった阪神打線に、中日のピッチャー陣が火をつけちゃいましたね。

【メヒア、大野の課題】

――4月19日の試合に先発したメヒア投手はどうでしたか?

今中 バッターから見て球が見やすいですし、ボールが抜けてしまってフォアボールも出していました。ただ、そんなにビシビシ制球できるピッチャーではないので、悪い時はあんな感じでしょう。

――今中さんが中日のキャンプで臨時コーチを務めた際、メヒア投手の体の開きが早いことを指摘されていましたが、その部分ですか?

今中 そうです。相変わらず体が早く開いてしまう。そうなるとボールが抜けたり、バッターから見やすくなったりといった問題が出てきます。不調だった大山悠輔をはじめ、阪神の各バッターに気持ちよくスイングされていました。翌日の試合(4月20日)では阪神に15点取られましたけど、「なんでこんなに急に打ち出すの?」というぐらい本当に気持ちよくスイングされていましたね。

――その4月20日の試合で先発し、2回途中6失点でマウンドを降りた大野投手のピッチングはいかがでしたか?

今中 まったくダメでしたね。吹っきれていない感じがしました。というのも、彼は昨年に左肘遊離軟骨(ねずみ)の除去手術をしていて、トミー・ジョン手術に比べるとそこまでデリケートになるようなものではないのですが、やけに気にしている印象です。今年のキャンプでもそうでしたが、ヒジへの負担を考慮してなのか、ブルペンであまり球数を投げたがらないんです。

 オープン戦でも大して投げていませんし、今季の初登板では5イニングを投げて「ヒジがパンパンになった」と話していた。それではダメでしょって話なんです。ヒジが張ることを軽減させるために、シーズン前にある程度負荷をかけてどれだけ回復力があるのかを検証しておくべきだったのですが、それをやらずにシーズンに入ったので。

 だから、今季は登板間隔が大きく空いているんじゃないかとも思います(今季の初登板は4月3日、次の登板が4月20日)。ヒジに不安があり、登板間隔もこれだけ空いて......というのが立ち上がりに出ましたよね。思うようにストライクが入りませんでしたし、ほぼ自滅ですよ。

【フォアボールを出した時に「踏ん張れない」】

―― 一方、トミー・ジョン手術を経て今季の飛躍が期待される梅津晃大投手には、今中さんもシーズン前から注目されていました。0勝2敗と勝ちはついていませんが、防御率は2.57と、内容や投げている球は及第点ですか?

今中 そうですね。投打の兼ね合いで勝ててはいませんが、この先に力を発揮すると思います。春先の屋外球場のナイターゲームは寒いですし、トミー・ジョン手術明けというのも考慮して登板間隔を空けているんだと思いますが、気温が上がってきたらそういう心配もなくなります。

 ピッチングはかなりパワーアップしていますね。大谷翔平みたいに体がゴツくなって、球に力がある。フォークやスライダーをある程度制球できていますし、ピッチングスタイルは大谷と同じような感じ。若干コントロールが乱れる時がありますが、課題はそれくらいじゃないですか。

――連勝していた時は先発ピッチャーが踏ん張り、ワンチャンスを生かして僅差の試合をモノにする傾向でしたが、大量失点が続いていた時期はやはりフォアボールが課題だったでしょうか。

今中 序盤に大量失点していては中日のペースに持ち込めませんし、打ち込まれる時はすべてフォアボール絡み。それでは守っている野手も集中力を保つのが難しくなります。昨季もそうでした。

 阪神との4月20日の試合は初回に先制され、2回にすぐに逆転したのに、その裏にビッグイニング(7失点)を作られて......。それも(シェルドン・)ノイジーへのフォアボールから始まりましたし、そういうことをやっていたら野手もシラけてしまいます。

――フォアボールが勝敗に直結してしまっている?

今中 4月20日に立浪和義監督とお会いした時にも「やっぱりフォアボールがきっかけで点を取られる」という話をしていました。フォアボールを「出すな」ということではないんです。出してしまっても踏ん張れればいいのですが、踏ん張れない。阪神のバッターたちがどんどん振ってきたとしても、ストライクゾーンで勝負しなければいけません。

 阪神のバッターたちは、高めのボール球にあまり手を出していませんでした。それが、おそらく中日のピッチャー陣を苦しめたんです。逆に、中日のバッターたちは高めのボール球を振ってしまう。その差が結果に表れたんじゃないですか。

――調子がよかった時はピッチャー陣の与四球が少なかったですが、その点はキャンプ中の今中さんからのアドバイスが生きていたのでは?

今中 昨季にフォアボールが多かったことは立浪監督も指摘していましたし、球威のあるピッチャーに関しては「どんどんゾーンを攻めていったほうがいい」とキャンプで伝えました。それが結果的にフォアボールを減らすことにつながったのかもしれませんが、自信を持って投げていたのに、ちょっと打たれた時に"怖さ"を感じてしまったんでしょう。

 ピッチャー陣の調子がよくて勝ちが多かった時でも、たまにフォアボールを出すとそれをきっかけにほぼ失点していましたからね。4月4日の巨人戦でも、梅津が先頭の菅野智之にフォアボールを出して、先制点を取られた。結局は、調子がよくても無駄なフォアボールを出すと、失点して負けてしまうんです。フォアボールは極力出さない、出したら出したで切り替えて投げられればいいのですが、なかなか切り替えができていません。

――逆にフォアボールを減らせば、抑える確率も上がる?

今中 それが顕著に出ています。フォアボールが少なければなんとか抑えられますし、野手が守っていてもリズムがいい。それは打線にも影響するでしょう。連勝して首位に立っていた頃はリズムがよかったですから。

――改善していくためには、ピッチャー陣がゾーンで勝負することを徹底すべき?

今中 そうですね。相手の4番バッターでも関係なく、どんなバッターに対してもゾーンで勝負していくべきです。今はどのチームを見ても、それほど怖い打線はありません。阪神は打線に火がつきましたが、ほかのチームではヤクルトの村上宗隆の調子が上がり出したぐらいですしね。課題ははっきりしていますし、ピッチャー陣がゾーンで勝負することを再度徹底すれば、勝ちを拾っていけるはずです。

(後編:バッター陣の課題は「阪神打線から教えてもらった」 得点力アップに必要なこと>>)

【プロフィール】

◆今中慎二(いまなか・しんじ)

1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。

著者:浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo