東京都の非正規公務員として児童生徒や保護者からの悩みを聞いて支援してきたスクールカウンセラーから、3月末で「雇い止め」に遭うとの訴えが労働組合に相次いで寄せられている。2024年度も継続して働くことを希望し公募試験を受けた東京都スクールカウンセラーのうち、2割を超える250人が採用されないことがわかった。採用者からも「明日はわが身」などと採用基準を詳しく明らかにするよう都教委に求める声が上がっている。

雇い止めに遭った東京都のスクールカウンセラー。会見で「理不尽な雇い止めを行政が率先している」と話した=5日、東京都内


学校の評価は高いのになぜ不合格?

 スクールカウンセラーや心理職らでつくる労組「東京公務公共一般労働組合心理職一般支部(通称・心理職ユニオン)」(豊島区)は、1月下旬に合否が出てから相談を受けている。相談者数は5日までに73人に達した。

 相談では「学校での評価が高く面接でも滞りなく受け答えをしたのに不合格になった」との声が多く寄せられた。そのため労組は基準の開示や、勤務実績を考慮せずに面接のみとした選考理由の説明を求め、2月末までに団体交渉を都教育委員会に3回申し入れた。

新規は783人のうち441人が合格

 都教委や労組への取材によると、契約更新の上限に達して試験を受けた都スクールカウンセラーは1096人。不採用や、補欠に当たる「補充任用」として4月から採用されない人は22.8%の250人に上る。

 新規での応募は783人のうち441人が合格し、更新上限に達しないため公募試験を受けずに契約を更新したのは420人だった。労組によると都教委は採用基準の資料開示要請などに応じていない。

「部品を交換するような…理不尽」

 雇い止めに遭った都スクールカウンセラー4人と採用者1人は5日、都議会を訪れて採用基準の開示や更新上限の撤廃、雇い止めの撤回を求める要請書とオンラインで集めた4856筆の署名を東京都教育庁の石毛朋充勤労課長らに手渡した。石毛氏は「団体交渉の申し入れは法令に基づいて対応したい」と述べた。

 5日に都内で会見した都スクールカウンセラーは「部品を外して新しいのと換えるような理不尽な雇い止めを行政が率先している」と批判。東京公務公共一般労働組合の原田仁希氏は「これだけ一気に非正規公務員の雇い止めが起きたのはおそらく全国初ではないか」と述べた。

スクールカウンセラーとは

 悩みを抱える児童生徒やその保護者、教職員らに助言する専門職で、臨床心理士や公認心理師といった資格が求められる。東京都では、公立の小中学校と高校全2068校のほか、都立特別支援学校の13校に計1565人の都スクールカウンセラーを配置(2023年度)。1人が複数校を担当する場合もある。勤務日数は1校につき年間38日。平均週1回で日当は4万4100円(2023年度)。定期的に公募をかけて採用する理由を都教育庁職員課は「公務の職に広く市民が就けるようにする平等取り扱いの原則と、試験で選考する成績主義を踏まえるため」と説明する。

東京都スクールカウンセラーの雇用(任用)の仕組み 

 全員が非正規の公務員。契約を1年ごとに区切る新しい人事制度(会計年度任用職員制度)が2020年度に全国で導入され、それ以前から契約を毎年更新していた人は、2023年度に都教育委員会の定める契約更新の上限に達する。2024年度も働くためには公募試験に受からなくてはならなくなった。


20年以上のベテランが…嘆く校長「評価はA。続けてほしいのに、なぜ」

 東京都の非正規公務員のスクールカウンセラー(スクールカウンセラー)が大量に「雇い止め」されたのを受け、2002年度から都スクールカウンセラーとして働く遠藤みち恵さん(62)らが取材に応じた。「250人が一斉にクビを切られて怒りと絶望を感じる」。更新上限に達したため公募試験を受けたが、補欠に当たる「補充任用」と1月下旬に通知され、4月からの正式採用はされていない。

「若い世代が安心して働けない。人生設計もできない」と語った東京都スクールカウンセラーの遠藤みち恵さん=東京都内で


都は「雇用機会公平性の確保」と答弁

 遠藤さんは都立高校1校と区立小学校2校を2023年度は担当する。勤務実績が評価されたから20年以上契約を毎年更新し、複数校を任されたと思っていた。

 当初は「学校側は私に辞めてほしかったのか」と自分を責めた。だが、校長から「評価をAで出した。続けてほしいのになぜこのようなことが起きるのか。困る」と言われ、現場に求められていたと知った。「遠藤さんだから言えたことがいっぱいある」と動揺して泣く保護者もいた。

 大規模な雇い止めが起きていることを知ったのは、1〜2月に労働組合が都スクールカウンセラーに実施した2024年度の採用状況を聞くアンケートがきっかけだった。「年齢で切られたかと思ったが、次世代を担う働き盛りの人も切られていた。若い世代が安心して働けない。人生設計もできない」と話す。

 労組に加入し2月26日の都教育委員会との団体交渉で、出席した都教委職員の名字を呼んで思いを訴えた。組織として決めたため雇い止めは問題ないとする都教委の姿勢が人ごとのようで、「あなたたち一人一人が私たちの人生を決め、破壊した」との責任を感じてほしかったからだ。

 別の都スクールカウンセラーも5日、遠藤さんと同じく割り切れぬ思いを吐露した。2月の都議会で浜佳葉子教育長が公募する理由を「雇用機会公平性の確保」と答弁した点について、「都スクールカウンセラーの雇用の機会を設けるメリットと、250人の雇い止めされたスクールカウンセラーを頼っている何百人の子どもと保護者への影響を比べて考えてほしい。雇い止めは切実な相談ニーズをないがしろにする判断だ」と話した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年3月5日3月6日