昨年4月にこども家庭庁が発足してまもなく1年。次々と打ち出される子育て支援策は、子どもを育てる人たちの負担感の軽減や、「子どもを産みたい」と思える社会につながるのでしょうか。3回にわたって考えます。2回目の今回は、教育費の無償化について取り上げます。


喜んだのに、扶養から外れて該当せず

 「『大学無償化』と聞いて喜んだけど、結局うちは該当しない。本当にがっかり」。東京都内で3人の子どもを育てる50代前半の女性は悔しさをにじませる。

 昨年12月に政府が打ち出した子どもが3人以上いる「多子世帯」の大学無償化。だが、3人以上の子が同時に扶養されていることが条件となる。この女性の場合、子どもは私立大3年と私立大1年、公立中1年で、制度が始まる2025年度には第1子が扶養から外れる見込みのため、対象にならない。

 夫婦ともに会社員で、世帯年収は約1000万円だが、介護や病気で働けない時期もあった。住居費などの負担も重く、大学に支払う2人分の学費年間約260万円をまかないきれず、奨学金を借りている。「卒業した後の返済が気がかり」と胸を痛める。

 これまでも、国の子育て支援を十分に受けられなかったと感じている。幼稚園や保育園が無償化されたのは、子どもが3人とも卒園した後。「うちは本当に間が悪い」と嘆く。

満額を払った後で、所得制限が撤廃に

 所得制限で、教育費の支援を受けられなかった人も少なくない。

 都内の別の50代女性は、既に私立高校を卒業した19〜25歳の子ども3人の学費を共働きで稼いだが、世帯年収が910万円を超えたため、授業料を軽減する国の支援金を途中から受けられなくなった。

 ところが、東京都はこの4月から、私立を含む全ての高校の授業料助成で所得制限をなくし、「実質無償化」することに。女性は「満額払ってきたのに。正直、悔しい」とこぼす。

苦労を見た次の世代 少子化の一因に

 高校入学から大学卒業まで子ども1人にかかる教育費は平均約940万円に上るとの調査結果もある。子育て世帯の負担感は大きい。

 日本大の末冨芳(すえとみかおり)教授(教育行政学)は「今、高校生や大学生の子を育てている保護者たちは、支援の恩恵を受けられなかった世代。まさに『子育てのロスジェネ』」と指摘する。この世代の苦労を見てきた次の世代が「子どもを持つことはリスク」と感じたことが、加速する少子化の一因になった可能性があると分析する。

日本大学の末冨芳教授


 教育無償化の流れについて、末冨さんは「若い世代への人的投資で、家庭の経済力による子どもの格差をなくす意味で意義のある転換。20〜30代の女性たちの多くは、教育も保育も所得制限なく応援されることを求めている」と語る。

「どんな進路でも不安なく選びたい」

 ただ、さまざまな家庭への目配りがなければ、本当に支援が必要な人に届かないことも懸念される。

 岐阜県内の女性(45)には、中学3年の次女がいる。起立性調節障害という自律神経が関連する病気のため毎日通学するのは難しく、4月から県外の通信制高校で単位を取りながら、地元のサポート校にも通う。両校の学費は3年分で計約200万円に上る。「どんな進路でも、経済的な不安なく選べるといいのに」

東京都立大の阿部彩教授(本人提供)


 教育費以前に生活自体が苦しい家庭も多く、東京都立大の阿部彩教授(貧困・格差論)は「この10年間、教育費の支援は進んだが、物価高騰で生活が苦しくなる中で住宅や公共料金などの支援は拡充されていない」と懸念する。

 「誰一人取り残さず、抜け落ちることのない支援」を掲げる国。冒頭の女性は願う。「今は必要な過渡期なのかもしれない。自分の子どもたちが子育てをする頃には、もっと良くなってほしい」

=次回は4月3日に掲載予定です。①は3月20日に掲載しました。