13年前に起きた東日本大震災では津波で多くの住宅が流されました。その失われた住まいの図面を被災者の記憶を頼りに冊子にして出版した女性建築士たちがいます。「私たちにできる仕事のひとつ」と語る彼女たちの活動、そして図面を描いてもらった被災者の思いを取材しました。

「記憶の中の住まい」を作った女性建築士たち

東日本大震災発生後、約10年間にわたる記録をまとめた一冊の本が、今年1月出版されました。「記憶の中の住まい」です。

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ベージをめくると・・・。
和室。お雛様を飾っていた場所。流しや漬物樽があり、食を支えた小屋物置。別の物置には、スキー・スノーボードが入っていた。リビング、音量を気にせず音楽を楽しんだ。日常の情景が浮かぶ、イラスト付きの図面。

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作ったのは、宮城県建築士会女性部会に所属する一級建築士の西條由紀子さんと小林淑子さんです。二人はそれぞれ、仙台市内の設計事務所で働いています。

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一級建築士 西條由紀子さん(73):
「震災発生後、わたしたち建築業界もみんなバタバタして忙しくしていたが、ちょっと落ち着いた3年目ぐらいのときに、被災した人の話を聞いて間取りを描くことができないかということでスタートしたのが、2014年だったと思います」

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宮城県建築士女性部会では、3〜4人でチームを組み、被災地で、かつて生活していた人たちの記憶を頼りに家の図面を作成し、完成したものは一つひとつ手渡しで届けていきました。

一級建築士 小林淑子さん(59):
「形がなくなってしまったお家の間取りを描くということは、私たちができる仕事のひとつなのかなと思い、一生懸命お話を聞いて間取りを描くことをしてました」

図面を描いてもらった女性は

これまで図面に起こした家は30軒以上。

そのうちの1軒の家に住んでいた女性、震災前、仙台市若林区の荒浜地区に住んでいた佐藤優子さん(62)です。

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2014年、佐藤さんは、仮設住宅を回り被災者の話を聞いていた西條さんたちに、かつての自宅を描いてもらいたいと依頼しました。

この日、佐藤さんは、西條さんと小林さんと共に、自宅のあった場所を訪れました。

自宅のあった場所は、いま…

1980年に、佐藤さんの両親が建てた、木造2階建ての一軒家でした。その家は津波で流され、今は更地となっています。佐藤さんが震災前の家の様子を説明してくれました。

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佐藤優子さん:
「ここからがお家ですね。玄関にシャンデリアが1個あって、奥の廊下や茶の間にもあって、年に一回の大掃除が大変でした」

佐藤さんの家の図面に、二人がつけたキャッチコピーは「きらきらシャンデリアの和室がある家」です。

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西條由紀子さん:
「こたつがある茶の間にもシャンデリアがあって、楽しい家族だなと思いました」

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佐藤さんは、父の夢を叶えたシャンデリアのある自宅だったと話します。

よみがえるあの時の出来事

単なる間取りだけでなく、図面には、思い出に寄り添う言葉が並びます。「おじさんがとったクジラの骨」とは・・・。

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小林淑子さん:
「(庭の)『多分この辺にあったんですよ』と聞いたです。クジラの骨が!」
佐藤優子さん:
「荒浜海水浴場には、1年間で2頭くらい、クジラが打ち寄せられるんですよ。クジラがあがったと聞いたら、いち早く浜に行ってバケツ4つくらい持って、切り分けていた」

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間取りを見ると、かつて住んでいた時の思い出がよみがえってくるという佐藤さん。この記録は特別なものなったといいます。

宝物になった図面

佐藤優子さん:
「(図面を)渡されたとき、なんてうれしいんだろうと思いました。自分の写真も全部流されてなくなって、記録として残っているものはないんですね。それが家族代々まで残せるっていうのは、本当の宝物だと思いました」

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震災前の自宅や生活を思い出してもらうことに、西條さんと小林さんはためらったこともありました。それでも、佐藤さんが図面を見つめるまなざしに、背中を押されました。

小林由紀子さん:
「この話たちは、貴重な話だよねっていうことになって、みなさんに見てもらわないといけない図面なのではないかということで本を作ろうということになりました。一生の宝物って言われたのは、すごくうしかったですね」

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色あせることのない記録。西條さんと小林さんは、被災した人たちの思い出に、そっと寄り添い続けます。

「記憶の中の住まい」は、宮城建築士会が1冊 1000円(税込・送料別)で販売しています。