その列車の種別、行先といった情報は、基本的に車両の正面、側面などに記載されています。が、なかには種別の「普通」としか表示していないなど、パッと見ただけではどこに行くのかよくわからないケースも見られます。

 こうした行先表示ネタで筆者が思い出すのは、一昔前の山陽電気鉄道(以下、「山陽電車」)。現在も普通列車などで走る3000番台の車両の一部には、2005年前後まで側面に以下のような表示が出ていました。

 【特急|阪急方面】【普通|阪神方面】

 行先の部分こそあるものの、「どの駅が終点か」が、具体的に示されていません。山陽電車の線路は神戸側の起点・西代駅から神戸高速線につながり、その先の高速神戸駅で阪急線と阪神線へ向かう線路が分かれています。表示内容でどちらに入るかはわかりますが、旅客サービスの点では少々不親切な気もします。

 この曖昧な表現の行先表示は、1960年代に使われていたサボにも見られます。要は「昔からの名残」ともいえますが、それが残り続けた理由は、いくつか考えられます。

1. 利用者に特段の不便が生じない

2. 行先表示器に収録できるコマ数が少ない

 「1」ですが、1998年に山陽姫路〜阪神梅田(現・大阪梅田)間の直通特急が登場する前、山陽電車が乗り入れる神戸側の終端駅は、阪急線の六甲駅、阪神線の大石駅でした。その手前にあるターミナルの三宮(現在の神戸三宮)駅どまりの列車もありますが、【阪急方面】【阪神方面】とあれば、「少なくとも高速神戸から先、三宮には行く」ことがわかります。とくに姫路エリアにおいては、六甲、大石よりも三宮の方が圧倒的に需要が大きく、その先の正確な行先はあまり気になりません(姫路市在住経験のある筆者の印象)。現代でいえば、京急線泉岳寺駅行き快特で「品川方面」とフォローするのと似ています。

 「2」は完全に山陽電車の都合ですが、当時使われていた側面の行先表示器には、収録できるコマ数が17しかないものもありました。その収録数を節約するため、「阪急六甲」「阪急三宮」と「阪神大石」「阪神三宮」の計4種類を、【〜〜方面】という表記にまとめたのではないか、とも考えられます。

 慣れない人には少々理解に苦しむ表示ですが、その裏には使用機材の都合、利用者が知りたい情報の優先順位といった事情があったように感じます。現在、【〜〜方面】の表示は残っていませんが、筆者は山陽電車に乗ると、この曖昧な表示を時々、思い出してしまうのです。