沢尻エリカ, 伊藤英明らが出演する、舞台『欲望という名の電車』が2月10日、新国立劇場中劇場にて開幕。2月22日からは森ノ宮ピロティホールにて上演。

アメリカ演劇を代表するテネシー・ウィリアムズの名作『欲望という名の電車』は、1947年にブロードウェイで初演、ブロードウェイ3大賞を同時受賞。1951年にはヴィヴィアン・リーとマーロン・ブランドで映画化されアカデミー賞を受賞。映画史に残る名作となった。そして、`24年2月、鄭義信演出「欲望という名の電車」が上演。マイノリティ社会の中にある“希望”を描き続けてきた鄭は「欲望という名の電車」をいかに演出するのかー。

主演のブランチ役には、本作が舞台初出演にして初主演となる沢尻エリカ(第29回日本アカデミー賞・新人俳優賞/2006年エランドール賞・新人賞/第43回 ゴールデン・アロー賞・新人賞 /第36回日本アカデミー賞・優秀主演女優賞)。ブランチと反発し合うスタンリー役に伊藤英明(第38回 日本アカデミー賞・優秀助演男優賞 他)。”蛾”のような繊細さをまとったブランチの脆さと相反するスタンリーのエネルギーは反発しながらも互いを引き寄せ合っていく。ブランチの妹・ステラ役には清水葉月、ブランチに好意を抱くミッチ役に高橋努。そのほか、ステラの大家ユーニス役に青木さやか、ユーニスの夫のスティーブ役に福田転球、スタンリーのポーカー仲間でもあるパブロ役に中村まこと、医師役に久保酎吉、看護師役にうらじぬの、コワルスキー家にやってくる集金人の若者役に青木瞭が出演する。1951年にエリア・カザン監督で映画化。舞台俳優だったマーロン・ブランドがそのままスタンリー役に起用され、彼の映画デビュー作になった。
日本では最初に文学座で上演され、ブランチは杉村春子の当たり役のひとつとなり、34年間に約600回演じた。1998年には舞台を日本に置き換えた「欲望という名の市電」が蜷川幸雄演出、浅丘ルリ子主演で上演された。ほかには、水谷八重子 (2代目)(当時は良重)、岸田今日子、東恵美子、栗原小巻、樋口可南子、大竹しのぶ、高畑淳子、秋山菜津子などがブランチを演じている。
開演5分前から俳優陣がひとり、ふたりと登場、笑いあったり、喋ったり。洗濯物がはためく、貧しいながらもエネルギーに満ちた雰囲気。そして時間になり、音楽、電車の音。賑やかな楽曲になり、さらに賑やかに全裸の男が走ったり、下着姿の女性がいたり、猥雑だが、”生”が躍動。裕福ではない人々の日常、三輪トラックに乗ってガタイがいい男性が登場、彼の名前はスタンリー(伊藤英明)、運転しているのはちょっとお腹がでている男性、スタンリーの友人・ミッチェル(高橋努)。「おーい、ステラ!」笑顔で迎える女性。ステラ(清水葉月)、スタンリーとは夫婦。トンネルから大きな荷物を引っ張っている女性が登場、白いスーツに白い帽子、ひと目でこの街の住人でないことがわかるファッション、セレブ感満載、彼女の名前はブランチ(沢尻エリカ)この物語の主人公。

開口一番、あの有名なセリフ。家に入る、そして棚から酒の瓶を、ステラが戻ってくる。急いで瓶を戻す。「ステラ!」2人抱き合う。2人は姉妹、元々裕福な家柄であったが、両親が亡くなったり、夫が亡くなったり、と不幸続き。 豪華絢爛な暮らしをしてきたブランチにとっては、ここは、まさに”異世界”、アメリカ南部のニューオーリンズのフレンチクォーター、妹が住んでるアパート、古く貧しい雰囲気。

しかも多民族が住んでいる町、スタンリーはポーランド系アメリカ人。南北戦争後、主に工業労働力として、20世紀初頭までに約400万人がアメリカにやってきた。移住動機は経済的な理由、“教養のない貧しい農民の流れ者”というのが、ポーランド人移民に関する他のアメリカ人たちの一般的印象。ブランチも無意識的にそのような印象を持っている感。スタンリーの言葉使いも標準語ではない。またブランチがいない時にブランチのクローゼットを勝手に開けて毛皮やら派手なドレスやらをぶちまけたり、真珠のネックレスや金のブレスレット、ティアラを見つける。「やめて!」という妻の声に耳を貸さずに。粗野で乱暴、野生的、気位の高いブランチとは当然ソリが合わない。2人はことあるごとに衝突する。

さまざまな問題を内包する戯曲、当時のアメリカ社会の倫理観を考えると、同性愛、少年愛、レイプと衝撃的な内容、ブランチは幸せを掴みかけるも過去を暴かれ悲劇的な末路をたどる。町に来た時から精神不安定、ストレスフルなブランチ、唯一頼りになると思われた身内・妹、後半、時折、喪服姿の人々が舞台上段をゆっくり歩く。

ブランチの過去、裕福で優雅だった頃、そこからさまざまな”試練”があり、幸せを夢見ていたが、寸前で再びどん底に、それも己の”過去”のせいで。過去に囚われ、過去に追い詰められ、過去によって崩壊し、狂気に蝕まれていくブランチ、この様を沢尻エリカが好演、細かい表情も的確に。スタンリーはDV男性、粗暴で教養もない、ステラは姉のブランチとは違い、適応力がある女性。スタンリーはDVだが、ステラは別れない、これには様々な見方、解釈がある。

またステラは現実的でもある。ラストシーンは奥行きのある印象。
キャスト陣が沢尻エリカ始め、奮闘、座組みの良さも感じる。細かいところまで神経が行き届いたセット、様々な問題、テーマを内包している作品、1951年の映画もU-NEXTなど観れるので、見比べるのも一興。公演は東京は18日まで、その後は大阪で22日開幕。

あらすじ
アメリカ南部、ニューオーリンズ。「欲望」という名の電車に乗って、「墓場」という電車に乗り換えて、「天国」と呼ばれる猥雑な下町に降り立ったブランチ・デュボアは、妹のステラ・コワルスキーを訪ねる。
二人は南部の地主の家に生まれ、裕福な少女時代を過ごした姉妹だった。しかしブランチは、実家のベル・レーヴ(美しい夢)という名の大農園を失ったことをステラに告げ、妹とその夫スタンリー・コワルスキーが暮らす質素な部屋に身を寄せる。
ポーランド系労働者である義弟の野蛮な言動を嫌悪するブランチと、彼女の上流階級然とした振る舞いに我慢がならないスタンリー。二人の軋轢が高まるなか、ブランチはスタンリーの友人ハロルド・ミッチェル(ミッチ)との出会いに最後の幸福をつかもうとする。しかし愛は非情な終わりを迎え、ブランチの精神は壊れてゆく。

概要
舞台『欲望という名の電車』
日程・会場
東京:2024年2月10日(土)〜2月18日(日)新国立劇場 中劇場
大阪:2024年2月22日(木)〜2月25日(日)森ノ宮ピロティホール
出演
沢尻エリカ/伊藤英明
清水葉月 高橋努 青木さやか 福田転球 中村まこと 久保酎吉 うらじぬの 青木瞭 ほか
作:テネシー・ウィリアムズ
翻訳:小田島恒志
演出:鄭義信

“A STREETCAR NAMED DESIRE is presented through special arrangement with The University of the South, Sewanee, Tennessee.”

主催:エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ
企画・製作:エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ

公式HP:https://streetcarnameddesire.jp/