堤幸彦監督作品「SINGULA」が5月10日より公開される。15体のAIアンドロイド同士が繰り広げる究極のディベートバトルロイヤル討論劇だ。原案・原作は2019年に上演された一ノ瀬京介による同名の舞台。
物語は、「先生」と呼ばれる人間が作り出した、顔もスタイルも全く同じな15体のAI。情報学習能力を持つが感情はなく、その違いは各個体に埋め込まれたチップによる性格や記録されている情報のみ。そして規則を破ると、ただちにシャットダウンされてしまう。15体のAIたちは互いの素性を知らないまま、「人類を破壊するべきかどうか」という究極のディベートバトルを開始する。
2.5次元やミュージカルの舞台に数多く出演してきた俳優・spiが全編英語で15体のAIキャラクターを演じ分けた。同作はマドリード国際映画祭にて外国語映画として、監督賞、主演男優賞、脚本賞、サウンドデザイン賞の4つのコンペティション部門にノミネートされ、spiが外国語映画賞最優秀主演男優賞を受賞した。

海外での評価は高く、3月にはニューヨーク・ブルックリン劇場で公開された。いよいよ始まる日本公開を前に、主演のspiさんの特別インタビューが実現した。

ーー映画、拝見させていただきました。オファーの感想と15のキャラクターをお一人で演じ分けていますが、台本読んだときのその第1印象は?

spi:最初「やりませんか」ってオファーに、堤監督と仕事ができるっていうのはものすごく嬉しかった。堤監督の映画が大好きだったので『トリック』『SPEC』etc.を見て育ってきたので、監督と仕事できるのは、もうすごく、本当に嬉しくって。『やらしてもらいたい』と…。これは元々、舞台作品なんですけど、僕はこの舞台を見ていました。15体を15人の俳優さんで演じるんです。話の大枠はわかっていましたが、堤さんは、映画は映画的なオチでと伝えられ、プロとしては最高のオファーをいただきました。
英語の台本をいただいて…全て英語、TOEIC900点以上、英検1級クラスの単語がバンバン出てきて、これを暗記みたいに読むならまだしも、セリフを全部覚えなきゃいけない…暗記!って…しかも自分がセリフを言ってないときのそれ以外のキャラクター14体の芝居が…自分がセリフを言ってないときもお芝居してなければいけない、それを15体分ですので、1体分作るのに大体1週間ぐらいかかるんです。

ーーと言うと、4ヶ月ぐらいでしょうか?

spi:はい。4ヶ月かかる… 英語の台本は手元にありましたが、撮影まで1ヶ月半でした。間に合うわけないじゃん! 無理だよ! って泣き崩れて…家で突っ伏して泣きました。俺にはできないって。でも、英語の先生入れていただいたり、たくさんのサポートを得まして何とか撮れました。

ーー15体ものキャラクターが全く同じ格好で、頭に付いている番号、1、2、3、4、5と違うだけ。例えば “1” が喋ってるときは、残りの “2” から “15” の14体分のキャラクターがその “1” のキャラクターの話を聞いて皆、違うリアクションをしてるわけですね。舞台だと15体に対して俳優が15人、分け合ってやることになりますが、映画の場合は、1人の俳優で15体、やろうと思えばできてしまう…その演技やリアクションがとても大変だった、ということですね。

spi:はい。大変だったです。

ーーあるキャラクターが喋ってる言葉に対するリアクションが1回につき、14通り。

spi:はい。一言につき14通りは、しんどかったです。

ーー撮影もかなり特殊だとお察します。出来上がった映画を見ると、誰かが喋って、その残りの14体が様々な反応して様々なことを言ってます。この撮影のエピソードをお願いします

spi:はい。事前にカット割は決まっていました。15人の俳優さんたちと一緒にプレーパーク作ってあったんです。こうすれば合成はうまくいくであろうと。1つ、俺がセリフだけを吹き込んだ録音を作ったんです。吹き込んで撮ってるときは誰かのセリフの中のリアクションはその録音を流してました。その録音を流し、それに対する返事だけをミュートにしていただき、そこを本人のセリフっていう…ずっとそんな繰り返しです。1行ずつで撮ってる瞬間は出来上がった絵面はほぼわからないですね。

ーー例えばゲームの舞台化になると、キャラクターが繰り出す技に映像演出を合わせる、でも、稽古場だと合わせられないから、演じているご本人はどういう絵面になってるのかわからないと…皆さんよくおっしゃっていますが、今回のは、その感覚に似てるのでしょうか?

spi:キャラクター1人につき、出ていい範囲っていうのがあったんですよ、合成でかぶっちゃうから、体から大体20センチぐらい外までの中に収めないといけなかったんですね。1枚の絵をワーッと重ねてる感じだったので、どう見えるかはわからないことはなかったかもしれないですね。頭の中では、長方形がはめ込んであるだけな感じだったんで、ただどこを使われるかわからない、というのはありました。15体いるから、誰の反応をどう使うかは自分自身ではわかりません。そこは堤監督が決めますので。

ーー見た目は全く一緒の15体のキャラクター、でも中身が全く違うところがこの映画の面白さの一つかと思います。その演じ分けは大変でしたか?

spi:実は、大変でもなかったですよ。なぜ大変ではなかったかというのは、ちゃんと教科書に載ってるやり方でやっているっていう感じで、その知識を知ってるか知らないかだけだと思います。感覚でやっているのではなく、ちゃんとロジックを立てて、演じ分けているので、そこはそんなに大変じゃなかったです。大変なのは休憩なし、自分しかいないので、休めない。他の役者さんも”俺”だから、自分しかいませんので。終わって次の人、『あ、俺か』っていう状況です。カメラマンさんのスケジュールも6日半しかない、もう時間がないから、急ピッチで…トップスピードで全員でやっていますので、1テイクでOKだったらOKっていう感じで進行してました、『あとはこっち何とかするから』って言ってくださったので、それを信じてやってました。

ーー映画はもちろんご覧になっていらっしゃると思いますが、出来上がったものを見たときの感想、初めて観たときの感想をお願いします。

spi:自分が主演の映画は初めてだったんですけど、堤監督が『一発目…初めて見たときは、”なんだこの芝居”とか”なんでこのカットなんだ”とか思うことがある、俳優はみんなそうだと、でも何日かすると気にならなくなるから安心しろ』って言われました。一発目に観た時…素晴らしい、サウンドデザインもすごいし、カット割り、エフェクトとかも全部面白いし、俺自身の芝居以外はすごく最高だと思いました。

ーー何度か拝見してるんですか。

spi:合計7回ぐらい見ています。

ーー最初に見たときの感想と、7回目最後に見た感想はやっぱり変わりますか?

spi:全然違いますね。0回目(0号試写)は俳優目線で見ちゃってる、本当の1回目は映画館で見た。変な映画だなっていう印象、『なんかこれ、変なの?』…よくわかんないってのいうが1回目。2回目を見たらめちゃくちゃ面白いなって思った、面白すぎて、あれ?なんかもう終わっちゃったみたいな印象。90分は短いので、3回目ぐらいからは『これ1人でやってんだ、1人で演じ分けてるのすごいな』と。4回目ぐらいから自分の好きなキャラ探し始めて5、6、7回目は誰かと一緒に見ることが多かったです。誰かに見せるために…『ちょっと見せたい映画があるんだけど』って言って一緒に見る、その人にとっては1回目。

ーーそうですよね。

spi:その人の1回目の感想を聞いて、うん、そう思うんだ…そこを楽しむみたいな感じでした。

ーーまだ1回しか見てないんですけども、すごく哲学的で15体が本格的にディベート始める前がちょっと長いですね。それから本格的に話し合いを始める。15体、見た目は一緒でも全く違う15のキャラクターがいて、それぞれのキャラクターが互いの性別の生い立ちも何もわからない状態、みんなが話し合っていくうちに告白めいた発言がいくつか出て、しかも出された命題が結論が出そうにもないもの、規則を侵せばシャットダウンされてしまう、追い詰められてる状況。堤監督らしいなという感じですね。

spi:おっしゃる通りです。

ーーマドリード国際映画祭にこの作品を出品することになって、受賞いたしましたが、出品すると聞いたときの感想をお願いいたします。

spi:いけ!いけ!いけ!と思いました。もうどんどんどんどん出していこう!っていう気持ちでした。映像好きの海外の人に絶対イケるって思いました。英語は国際語、言語の壁もこえてますし、その堤監督のセンスを海外にどんどん発信して、この映画をもっと観ていただき、評価をいただくことは最高だなと思いました。最終的に主演男優賞をいただきました。

ーー実際にマドリードの映画祭に行ってトロフィーを頂いたわけですが、映画祭に参加した感想と実際にトロフィーを手にした感想をお願いします。

spi:実感はなかったですね。賞をもらった瞬間はもちろん嬉しかった…ただ何か違和感はありました。もちろん感謝する気持ちは、すごくありました。その感謝が当初は全然わからなかった。一晩寝かせて次の日ぐらいに、英語を教えてくれた母親と俺が小さい頃から芝居について議論をしてくれた父親、現場で手伝ってくれた弟…今まで出会った俳優の方々だったり、自分の人生の中で経験させてくれた人たちの全ての集大成がこの映画の、この15体のお芝居に繋がってる。俺、ではなくみんなで取った賞、これが一つの形なんだなって思ったらやっとしっくりきました。うん、俺だけじゃない、みんなで取った賞なんだっていうのが率直な感想です。

ーー英語の言い回し、面白いですし、付いてる字幕も面白かった。これが5月10日にいよいよ日本で公開されますが、字幕や英語がわからない人も、感覚的に雰囲気が伝わる字幕だと思います。

spi:いいですよね。字幕を出す位置も、『このキャラクターが喋ってるんだよ』っていうのをわかりやすいようにしてくれています。

ーー普通に字幕が出るのではなく、例えば、この発言は4番とか、この発言は15番とかわかりやすくなってますね。すごく見やすい。

spi:よかったです。漫画の吹き出しみたいな感じでいいですよね。

ーー日本語と英語、両方わかる人だと英語のセリフを聞きながらこれがこういう日本語に翻訳されている、そこのところも面白いかもしれないですね。

spi:英語洋画の日本語の字幕の字数制限がかかってない状態なので、自由に訳されてると思います。

ーー通常は字幕は字数制限があるので、翻訳家はそこが一番四苦八苦するところだと聞いたことがあります。

spi:無視して作れているので、映像の一部として日本語が入っているっていう感覚ですね。

ーーいよいよ5月10日から新宿のバルト9で公開、日本初ですね。

spi:すごいです。

ーーこれが国内での初公開で、日本のお客様の反応が楽しみですが、公開に向けての感想と、見にいらっしゃるお客様に対してメッセージをお願いいたします。

spi:正直、まさか日本で公開できるとは思いもよりませんでした。インディーズ作品的なノリで作っているので、商業映画ではなく、映像作品、一つのアートな形として撮ったものなので、これがまさか新宿バルト9で上映されるなんて思ってもなかったですし、配給会社が決まってやってるわけでもない。堤監督もおっしゃってましたけど、今の時代に殴り込んでいる…インディーズでも、人の興味さえ引けば、上にいける、作品が人前に出ることができるっていうのが今の時代の感じにぴったり、それに携われてすごく感謝しています。観に来る方々は、自分、俳優ファンだけではなく、堤監督のファンもいますし、映画ファンもいます。たまたま興味持った方もいらっしゃると思いますが、1回目より2回目の方が確実に面白いんです。1回目を見終わって、2回目見に行くときに誰かを連れて行きたくなると思います。『ちょっと変な映画があるんだけど見に行かない?』みたいな。2回目に観たときに何か新しい発見もある、いろんなベクトルの哲学がある。今の自分が一番大事にしてるものに共感できるキャラクターがいるかもしれないし、逆にイラッとするかもしれない。思考実験を具現化したような映画なので、それを楽しんで体験していただきたいです。

ーーありがとうございました。映画公開を楽しみにしております。

概要
映画『SINGULA』(読み:シンギュラ)
日程・劇場:2024年5月10日〜 新宿バルト9ほかにて期間限定公開
出演:spi
監督:堤幸彦
脚本・原案:「SINGULA」一ノ瀬京介
主題歌:「イフ」r-906 feat. 初音ミク
配給:ティ・ジョイ

公式サイト:https://singula-movie.com

公式X(旧Twitter):https://twitter.com/SINGULA_movie

取材・構成:高浩美