日本の勝利で沸くスタンドの一角に、共感と興奮で胸を満たし、同時に冷静な観察眼をもって、歓喜の輪を見つめる人々がいた。

 女子テニスの国別対抗戦“ビリー・ジーン・キング・カップ(以下BJK杯)”の、対カザフスタン戦。大会期間中の2日間、いずれも約20人のアスリートたちが、ベースライン後方からコートに熱い視線を向けていた。それらアスリートたちの内訳も、陸上からサーフィンと幅広い。彼・彼女たちに共通しているのは、各々が自身の体験等に照らしながら、何かしらの情動や考察を得たことだ。

 今回のBJK杯に他競技の選手たちが集ったのは、テニスの“アスリート委員会”が主導となり動いたからだ。アスリート委員会は、現役もしくは選手経験者たちによって、各競技団体内に結成される組織。

 その中でも副委員長の土居美咲らが中心となって、他競技のアスリートたちに声を掛けた。昨年の引退後も、競技の枠を越えて交友を広めてきた土居は、友人たちの「テニスを見に行ってみたい」の声をよく耳にしてきたという。あるいは自らも、他競技を観戦し、感動と新たな発見に胸を高鳴らせたこともある。
  そのような興奮をテニスで体験してほしいと願った時、BJK杯は最適だと思われた。応援する対象が明確であり、会場にも一体感が生まれる。テニス観戦の魅力を知ってもらう上でも、代表戦は格好の入り口だった。

「選手が感情をむき出しにする姿に、こちらも熱くなりました」と目を輝かせたのは、競泳の高橋美帆さん。高橋さんは、テニス・アスリート委員会メンバーの今西美晴と高校時代の同級生。その縁もあり、今回、有明コロシアムに足を運んだ。

 2012年ロンドンオリンピックに出場し、14年には個人メドレーで当時の日本記録を打ち立てた高橋さんは、競技者に寄りそうように、日比野菜緒や大坂なおみを見ていた様子。

「競泳はすぐにレースが終わってしまいますが、テニスは長い試合の中で、自分で気持ちを盛り上げながら、流れを作っているのだなと思いました」

 そのような心の機微に敏感なのは、高橋さんが現在は指導者として、日々後進たちに向き合っているからかもしれない。
  フェンシングの久良知美帆さんも、日本チームの勝利を決めた日比野の奮闘を見ながら、その胸中に思いを馳せた一人。

「バレーボールの代表戦も見にいったことがあり、やはりお客さんはたくさん入っていました。ただ団体競技と違い、テニスではたった一人で、これだけの注目を浴びながら試合をする。それは、本当にすごいなって!」

 そう熱く語る久良知さんは、「あとは単純に、筋肉がすごいなぁ」と言うと、「ねっ」と隣に座る、同じくフェンシングの向江彩伽さんに視線を向けた。

「2人で、日比野さんのふくらはぎがすごいなって話してたんです」と応じる向江さんは、「私たちも筋肉質になりやすい競技だと思うんですけど、それとはまた違った筋肉」だと分析。

「フェンシングは1試合3分の3セットなので、10分ほどで終わる。これだけ長時間を戦い抜くテニス選手の、体力と集中力はすごいなと思いました」という視座は、まさにアスリートならではだ。
  ゴルフの倉田珠里亜さんも、テニスプレーヤーの肉体に注目した一人。

「ふくらはぎと、太ももの筋肉を見ていました。特にヒザの上がすごいなって」

 そう言い笑みをほころばすゴルファーは、「サーブを打つ前だけ、めっちゃ静かになる。緊張しないのかな……」と、プレーヤーの心に自身の気持ちも重ねていた。
 
 スポーツは、同一空間にいる人々の想いを収斂し、巨大なエネルギーを生む。今回のBJK杯観戦も、アスリートの連携を深め、きっと新たな始まりの契機となる。

取材・文●内田暁

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