【プロボクシング:4団体統一スーパーバンタム級タイトルマッチ】5月6日/東京ドーム

 東京ドームが“モンスター劇場”と化した。

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 5月6日、東京ドームで行なわれたのはボクシングの興行だ。

 東京ドームでのボクシングはマイク・タイソンvsジェームズ“バスター”ダグラス以来34年ぶり。世界タイトルマッチ4試合がラインナップされ、そのメインイベントが井上尚弥vsルイス・ネリの4団体統一スーパーバンタム級世界王座戦だった。井上はこれが4団体初防衛戦。プロ6戦目から階級を変えつつ、10年間全ての試合が世界タイトルマッチだった。
  挑戦者のネリは“悪童”と呼ばれる。かつて山中慎介と対戦した際、ドーピング検査で陽性。再戦では体重オーバー。それでも山中を退けた。日本のボクシングファンにとっては大ヒールだ。

 とはいえ、世界2階級制覇を成し遂げてもいるネリは挑戦者にふさわしい選手でもあった。井上が圧倒的に有利とはいえ、アグレッシブな選手だけに何があるか分からない。

 その恐さは、1ラウンドで現実のものとなる。アッパーに合わせた左フックが直撃し、井上がダウン。キャリア初の衝撃的すぎる場面だった。

 ボクシング史上初、東京ドームでの日本人ボクサーのメインイベント。気負いやプレッシャーはあったそうだ。動きが整わないうちにもらってしまった。34年前、同じドームでのタイソンの敗北が頭をよぎる。

 だが、ここからが井上の“モンスター”たる所以だった。2ラウンド、ネリの左フックをかわしざまにカウンターの左。ダウンを奪ってポイントをイーブンに。

「ダウンしても落ち着いていました。ボクサーとして燃えるところでもある。ハイテンションでした」

 勝利者インタビューで、井上はそう語っている。ネリの動きを見切り、挑発するようなパフォーマンスも。主導権を握ると5ラウンドには接近戦での左フックで2度目のダウンを奪う。そして6ラウンド、猛攻を仕掛けるとトドメの右。ネリは立ち上がってこなかった。
  井上は東京ドームという特別な舞台で、新たな“伝説”を作ったと言える。これまでも圧倒的な強さを見せてきたが、今回は見る者に極上のスリルを提供した。

「サプライズ、たまにはいかがでしょうか」
  ダウンシーンをそう振り返った井上。倒されてもカウント8までしっかり休み、立て直したのは非凡としか言いようがない。まったく慌てていなかったのだ。

 そして、このダウンがあったからこそ我々の試合への集中力も増した。井上が優位に立っても、ネリが打ち返してくるから緊張感が途切れない。いわば“助演男優賞”だ。

 ネリという相手を得て、井上の底力が爆発した。普通に考えればダウンは反省材料だ。しかし結果として、試合は盛り上がった。目が離せないものになった。井上はダウンを喫したところまで含めて“完璧”だった。そんなふうにも思える。

 強さ以上の魅力を持つスペシャルな選手となった井上。もちろん「井上だってクリーンヒットされれば倒れるんだ」と感じた者もいるだろう。それは、これからの対戦相手を勇気づけるかもしれない。

 ただ今回の試合で、井上は序盤勝負の相手に劣勢となっても立て直せることを証明してもいる。ダウンを喫しはしたが、そのことでより隙のない選手であることを見せつけたとも取れるのだ。

 その強さ、魅力はまさに底なし。再びドームのリングに立つ日も楽しみにしたい。

文●橋本宗洋

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