NBAの今季の新人王は、前評判通りサンアントニオ・スパーズのヴィクター・ウェンバンヤマが受賞した。

 昨年6月、フランス人史上初のドラフト1位指名選手となった逸材について、自国では「NBAはそう甘くない」「アメリカで活躍できるかは未知数」といった懐疑的な声もあったが、“ウェンビー”は開幕直後から大活躍。224cmの高さを生かしたブロックではリーグNo.1の平均3.58本でタイトルを獲得したほか、リバウンドでも10.6本で8位にランクイン。平均21.4点と合わせてルーキーながらチーム最多の数字を叩き出したのは見事だった。

 さらに現在フランスでは、ひょっとしたら、今年のドラフトでも1位指名選手が誕生するかもしれないと大きな話題になっている。

 先日NBAが発表したアーリーエントリーの選手リストでは、195人中17人、割合にして8.7%と、フランスの若手選手の躍進ぶりは目覚ましい。なかでも注目の2人、アレクサンドル・サールとザカリー・リサシェが、数々のモックドラフト(指名予想)でトップ3圏内に予想されているのだ。
  2005年生まれのサールは、スペインの名門レアル・マドリーで研鑽後、16歳でアメリカに渡り、高校世代の若手の育成を目的としたリーグ、オーバータイム・エリートで2年間プレー。今季はオーストラリアNBLのパース・ワイルドキャッツに移り、平均9.4点、4.3リバウンド、1.5ブロックをマークした。

 オクラホマシティ・サンダーと2WAY契約中のビッグマン、オリビエ・サールは6歳年上の兄で、ポジションは兄と同じくセンター。身長216cm、ウイングスパンは225cm以上を誇る。フットワークが軽快で敏捷性があり、対人ディフェンスも得意としていて、まさに現代のビッグマンに求められる要素を備えた選手だ。

 フィジカル面やシューティングなど、まだまだ改善点も多いが、タイプとしてはサンダーのチェット・ホルムグレンやジャレン・ジャクソンJr.(メンフィス・グリズリーズ)といった名前が挙げられている。

 サールと同じく2005年4月生まれで先月19歳になったばかりのリサシェは対照的に、フランス国内でキャリアを積み上げてきた。 彼の父ステファンも元プロバスケ選手で、父がプレーしていたスペインのマラガで誕生。15歳でトニー・パーカーが会長を務めるフランスのクラブ、アスベルの育成部門に入団し、ユースリーグでプレーしながらプロチームでも少しずつ経験を積み、昨季はトップチームのロスター入り。ユーロリーグの舞台も踏んだが、層の厚いアスベルでは出場時間が限られることを理由に、今季は中堅クラブのJLブールへのレンタル移籍を選択した。

 ドラフトの前年に、アスベルから中堅クラブに移籍したキャリア計画は、先輩のウェンバンヤマと似通っている。

 身長206cmのリサシェは、3ポイントも得意とするシュータータイプで、JLブールではスターターに定着。ユーロリーグのアンダーカテゴリーにあたるユーロカップ準優勝にも貢献し、ライジングスター賞を受賞した。

 ユーロカップでは自己最多の22得点を筆頭にコンスタントに2桁得点をマークしてシーズン平均11.3点を記録。この年齢にしてチームの主力としてカップ戦を経験したことも、成長に大きく役立ったと言える。
  サールとリサシェの2人は、昨年ハンガリーで行なわれたU19W杯でフランス代表として共闘。準決勝で2連覇中のアメリカ(準々決勝で日本に105−61で勝利)を89−86で下して銀メダルに輝いている(決勝はスペインに69−73で敗戦)。

 ちなみにこの大会でフランス代表のトップスコアラーだったメルビン・アジンサは、元NBAのアレクシス・アジンサ(元ニューオリンズ・ペリカンズほか)のいとこで、彼も今年のドラフトにエントリーしている。

 エントリーはドラフト開催の10日前まで取り下げることができるため、実際にフランスから何人の選手が参戦することになるかはまだ不明だが、17人のアーリーエントリーは同国史上最多。フランスのタレントの豊富さを示す結果となっている。

 今年のNBAドラフトは1巡目と2巡目の指名が2日に分けて開催され、1巡目は現地時間6月26日にブルックリンのバークレイズ・センター、2巡目は27日にマンハッタンにある『ESPN』のスタジオで行なわれる。

 早くからアメリカに渡ってNBAに照準を合わせてきたサールと、国内クラブで経験を積んだリサシェ。対照的なキャリアをたどってきた同い年の2人が、ともにドラフトのトップ指名候補に並んでいる。2年続けてフランス人選手の名前が一番に呼ばれるのか注目だ。

文●小川由紀子