前半終了間際、ゴールラインを挟んでの攻防──。

 自信を深めたのは、粘り強いディフェンスでトライを許さなかった東京サントリーサンゴリアス(東京SG)ではなく、あと一歩及ばずトライを取り切れなかった東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)のほうだった。

【PHOTO】ラグビー界に名を馳せる世界のトッププレーヤー30選! 5月19日に秩父宮ラグビー場で行なわれたラグビーリーグワン2023−24プレーオフトーナメント準決勝第2戦は、リーグ戦2位のBL東京が、同3位の東京SGに28−20で勝利。リーグワンとなってからは初、前身のトップリーグ時代を含めると14シーズンぶりの優勝に王手をかけた。

 ともに府中市に本拠を置くチーム同士による「府中ダービー」。立ち上がりから果敢にアタックを仕掛けて主導権を握ったのは、レギュラーシーズンで2戦2敗の東京SGだった。

「絶対にリーグ戦とは違うことをやってくると思っていたが、その通りだった。(ボールを長く持たず)一気にワイドに振ったり、自分たちのウイングめがけてハイボールを蹴ったりすることで、上手くプレッシャーをかけてきた」

 BL東京のキャプテン、リーチ マイケルが「さすがサントリー(東京SG)」と称えたように、試合は序盤から圧倒的な東京SGペースで進む。開始8分にドロップゴールで先制を許すと、22分にもラインアウトモールを押し込まれて、0−10。BL東京は敵陣に入ることもままならなかった。

 それでも「80分をトータルで考えて、我慢するところは我慢しようとチームで話した」というリーチの言葉通り、この難しい時間帯を凌ぐと、次第に流れが変わる。38分にはマイボールラインアウトを一度はスチールされるが、これを奪い返して最後はLOジェイコブ・ピアスがねじ込み、反撃の狼煙を上げる。

 冒頭のシーンは、3点差に追い上げたこの直後だ。

 ハーフウェイラインから少し敵陣に入った位置で相手スクラムを押し、コラプシングのペナルティを得る。しかし、ショットは狙わない。22mライン付近からのラインアウトモールでゲインし、今度はオフサイドの反則を誘う。だが、ここでも同点のショットは狙わない。ラインアウトから連続攻撃を仕掛け、東京SGのインゴールに迫る。

「チームにモメンタム(勢い)があったので、ショットという選択肢はなかった。残念ながらトライは取り切れなかったが、前半最後のあの勢いが、後半につながった」

 試合後にリーチはそう振り返ったが、結果的に激しく相手にプッシュをかけた前半終了間際の一連の攻撃が、BL東京の選手たちに「必ず仕留められる」という自信を与えたのだろう。

 それは、7−10とビハインドを背負って迎えたハーフタイムのロッカールームの様子からも窺える。トッド・ブラックアダーHCは証言する。

「ハーフタイムに、私は何も言わなかった。彼らは流れが自分たちに来ていると理解していたし、選手同士で話していた内容は、我々コーチ陣が考えていたこととまったく同じだったからだ」

 テリトリーを取って、確実にボールをキープすることで、今度はこちらが相手にプレッシャーをかける。自然な形でチーム内の意思統一はできていた。
  逆転のトライが生まれるのは、後半開始早々の42分。ラインアウトからのサインプレーで、SOリッチー・モウンガ、WTBジョネ・ナイカブラとつなぎ、仕上げはFL佐々木剛が右中間へと飛び込んだ。53分にPGで3点を返されるも、その後、FLシャノン・フリゼル、さらにこの日何度となく鋭いランを見せていたナイカブラがトライを重ね、28−13と一気にスコアを広げるのだ。
 「前半、相手22mラインに4回入りながら、一度しかスコアにつなげられなかった」と、試合後に田中澄憲監督が嘆いた東京SGとは対照的に、BL東京にはワンチャンスをモノにする決定力があった。

 粘る東京SGも74分に1トライを返すが、反撃もここまで。BL東京が決勝へと駒を進めた。相手は、今季無敗の埼玉パナソニックワイルドナイツだ。3月の交流戦では、好勝負を演じたものの24−36で敗れている。はたして、勝算は──。

 オールブラックスの一員として、数々の大舞台を踏んできたフリゼルは言う。

「決勝戦というのは、リーグ戦とはまったくの別物。たとえ無敗のチームでも、必ず弱みはある。今までとは違う顔も覗かせるはずで、そこを突けば勝機はあると思う」

 22歳の若き日本代表LO、ワーナー・ディアンズは今季のBL東京の強さをこう語る。

「トライを取られても焦らず、自分たちのDNAに戻れる。我慢強く自分たちのラグビーにフォーカスすることで、モメンタムを生み出せている」

 BL東京のDNA──。すなわちそれは、リーチの言う「ラグビーの原点(接点)から逃げず、ボールを持ったら前に出る」ラグビーなのだろう。

 それを貫けば、長く優勝から遠ざかり、いつしか「古豪」と呼ばれるようになったBL東京が、東芝時代のような「強豪」に戻れる日も来るはずだ。5月26日、国立競技場での下剋上に期待したい。

取材・文●吉田治良

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