4月28日に公開され、現在も全国で上映中の劇場版「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」。連続ドラマの時から医師・弦巻比奈役で出演している中条あやみは、5月1日に自身のInstagramで結婚を発表。公私共に充実期を迎えている。そこで、モデル・俳優として活動してきた中条の軌跡を振り返ってみたいと思う。

■「黒の女教師」で俳優デビュー

1997年2月4日生まれ、大阪府出身の中条はイギリス人の父と日本人の母を持つハーフ。“あやみ”というのはミドルネームで、ファーストネームは「ポーリン」であり、モデル仲間からは「ポーリン」や「ポーちゃん」などと呼ばれることも。14歳の時に家族旅行で訪れたグアムの空港でスカウトされたことがきっかけで芸能界入り。2011年、ファッション誌「Seventeen」の専属モデルオーディション「ミスセブンティーン」によって専属モデルに選ばれ、モデルとしてのキャリアをスタートさせた。

俳優デビューしたのは翌2012年7月期に放送された連続ドラマ「黒の女教師」(TBS系)だった。榮倉奈々が昼と夜で違う顔を持つダークヒロイン的な高校教師を演じた作品で、中条は3年D組の生徒の一人、梅原優役で出演。真面目で恥ずかしがりだけど、自分の意思をしっかり持っている女の子を演じている。

映画初主演作は2014年9月公開の「劇場版 零〜ゼロ〜」。ゲーム原案のミステリーホラー作品で、森川葵とW主演を務めた。中条が演じたアヤは、同級生の中で最も美しいと評判の美少女で、周囲から憧れられる存在。美しさと影の部分が見えるミステリアスさは作品の世界観や雰囲気に見事にハマっていた。

■若手女優の登竜門的なCMに抜てき

2015年には若手女優の登竜門と言われている「ポカリスエット」のCMキャラクターに抜てき。QUEENの楽曲「We Will Rock You」に合わせてセーラー服で疾走する姿が印象的で、広い層に知られるきっかけとなった。同時期に「Seventeen」の単独表紙も飾るようになり、同世代からも高い支持を獲得。

2016年は2月公開の映画「ライチ☆光クラブ」と7月公開の映画「セトウツミ」でヒロイン役を務めている。「ライチ☆光クラブ」の“カノン”は、光クラブの希望として玉座にまつられる美少女。こういった“尊い”役がこれまでの作品でもうまくハマっていたということだろう。そして「セトウツミ」は菅田将暉演じる“瀬戸”と池松壮亮演じる“内海”が河原の階段で時間つぶしに会話している場面が大半を占めている作品。中条は2人の同級生で、実家はお寺の樫村一期を演じている。特別なシチュエーションや劇的な何かが起こるというわけではないが、見ているとこの3人の関係性が面白い。中条の演技も自然体で、これまでの作品にはなかった一面を見せてくれている。

■「CanCam」の専属モデルに就任

2016年10月に「アナザースカイ」(日本テレビ系)の5代目女性MCに起用されると、2017年は大きな変化と飛躍の年に。同年6月号をもって「Seventeen」の専属モデルを卒業し、11月号から「CanCam」の専属モデルに就任。読者層が一つ上の世代になり、モデルとしても一つステップアップしたことになる。しかも加入した最初の号で単独表紙を務めたことは、編集部から彼女への大きな期待の表れと言える。

俳優としても、映画「チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜」に、チアダンス部の部長・玉置彩乃役で出演。広瀬すず、福原遥、山崎紘菜といった同世代との共演で刺激を受け、“チアダンス”という新しいことへの挑戦で成長を遂げた。同年11月公開の映画「覆面系ノイズ」では有栖川仁乃(ニノ)を演じ、劇中に登場するバンド「in NO hurry to shout;」(イノハリ)のボーカルを務め、中条、志尊淳、磯村勇斗、杉野遥亮という今をときめくキャストで劇中歌「Close to me」にて実際にCDデビューも果たした。

当メディアのインタビューで「今まで、“これだけはやりたくない”と思っていたのが、歌とダンスだったんです(笑)。映画『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』ではダンスにチャレンジしたので、まさか1年の間に苦手なジャンルを2つもやる機会が来るとは思ってもみませんでした。怒涛の1年、修行のような1年でした(笑)」と当時語っており、歌とダンスには苦手意識を持っていた中条だったが、ダンスは「チア☆ダン」で克服、歌はこの作品でボイストレーニングを受け、ボーカリストとしての才能も開花。その結果としてのメジャーデビューし、これも大きな自信につながったはず。

もうこの頃には「絶対的な美少女役といえば中条あやみ」というイメージも定着。2018年9月公開の映画「3D彼女 リアルガール」で佐野勇斗とW主演を務めているが、リア充な美少女・五十嵐色葉(中条)がアニメ好きのオタク男子・筒井光(佐野)と付き合うというコメディー要素満載のラブストーリー。これもまた役者として一つの殻を破った作品と言えるだろう。佐野とはのちに「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」で同じチームとして共演することに。


■連ドラ初主演!そして現在へ

その後も、2019年4月からのドラマ「白衣の戦士!」(日本テレビ系)で連ドラ初主演(水川あさみとW主演)を務め、2020年の「閻魔堂沙羅の推理奇譚」(NHK総合)でも主人公・閻魔沙羅を見事に演じ上げた。映画も「ニセコイ」「雪の華」「水上のフライト」と主演作の数が増えていった。

ドラマでは、2020年10月に放送された「あのコの夢を見たんです。」(テレビ東京系)の第1話「追いかけたいの!」に出演しているが、本人役という珍しい形での出演となっている。このドラマは南海キャンディーズ・山里亮太の著書「山里亮太短編妄想小説集 あのコの夢を見たんです。」を映像化したもの。モテモテでフラれた経験のない“中条あやみ”が、フラれることを経験したくて、アプリ「振られ屋」に依頼してフラれる経験をする、というお話。山里役の仲野太賀とは、俳優デビュー作の「黒の女教師」でクラスメイトとして共演経験あり。

2021年1月からスタートしたドラマ「君と世界が終わる日に」(日本テレビ系/Hulu)のヒロイン・小笠原来美役もそうだが、同年7月期放送の「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」(TBS系/ディズニープラスほか)でも弦巻比奈という当たり役と出会った。

「TOKYO MER」はオペ室を搭載した大型車両ERカーで事故や災害現場に駆けつけ、自らの危険を顧みず患者のために戦う、都知事直轄の救命医療チーム。中条が演じる弦巻は、循環器外科医を目指す研修医だったがTOKYO MERのチームに参加させられてしまう。

自分のやりたいことに集中できず、規格外のチーフ医師・喜多見幸太(鈴木亮平)に振り回され、反発してしまう。しかし、喜多見をはじめ、チームのみんなの背中を見ているうちに、徐々に意識が変わっていく。第1話などの序盤と最後の方を見比べると、弦巻の成長・変化の大きさがよく分かる。

劇場版の公開直前にテレビスペシャルが放送されたが、その中でもいろんな面で成長を遂げているのがよく分かる。「TOKYO MER」は喜多見が主人公だが、別の視点から見ると弦巻も主人公だったと断言できる。

カリスマ的で神々しい美少女や誰もが憧れるヒロインから、共感度の高い弦巻比奈のような役まで、どんな役でも説得力を持たせ、魅力的な人物に昇華させる中条。

目鼻立ちくっきりでスラリと長い手足…どうしてもまずは美貌が注目されがちだが、苦手な歌やダンスを克服するなど努力家の一面もあり、「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)でゴチメンバーをクビになった際には号泣するなど、バラエティー番組でも“お高く止まらず”ひたむきに取り組む姿勢も人気の理由だろう。

あるフリーの編集者は「一度取材でお会いしただけなのに、1年ぶりに取材機会を得て、現場で顔を見るなり『お久しぶりです!』と人懐っこい笑顔で迎えてくれました。美貌と演技だけじゃなく、性格もいいのかよ!と驚きました」と、彼女の律儀な一面も明かしている。

それこそ軽々しく「圧倒的美貌を武器に」と称することすら中条の前では安っぽく感じてしまう。“三拍子そろったスター”として今後、どんな場面で、どんな役どころで、どんな作品に挑戦してくれるのか楽しみだ。

◆文=田中隆信