日本の音楽シーンをリードし、映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では主題歌(TM NETWORK名義)を担当した小室哲哉。T.M.Revolutionとして「機動戦士ガンダムSEEDシリーズ」の主題歌を歌った西川貴教。2人の初タッグとなる曲“西川貴教 with t.komuro「FREEDOM」”が1月24日にリリース。『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(1月26日公開)の主題歌になる。2人の才能が送り出す楽曲は、時代へのアンチテーゼ。西川はこれを、「あらゆる部分で時代に逆行した挑戦的な曲」だと自信を込めて語る。

■「いつか」「また今度」ではダメな時代になってきた

ーー主題歌を依頼された際に西川がまず考えたのは、「自分が『ガンダム』からもらった縁を、次の世代に渡していくこと」。そして、浮かんだのが小室のことだった。

ガンダム40周年のとき、アマチュア時代から切磋琢磨してきたLUNA SEAが、小室さんの提供で「BEYOND THE TIME〜メビウスの宇宙を越えて〜」をカバーしたんですよね。それを目の前で聴いたとき、時代を超えて、作品の中の理念や色々なものがつながっている感じを強く受けて、以来ずっと、心のどこかに引っかかっていることがありました。それが昨今、身近な方が亡くなる悲しい出来事が幾つも重なって、「いつか」とか「また今度」なんて言っていてはダメなんだと思い、この機会をチャンスに変えて、小室さんに楽曲制作をお願いしようと決めました。

ーー過去、小室とはセッションの機会はあっても、楽曲制作を共にした経験はない。上がってきたデモは、衝撃を受けるものだった。

(『SEED FREEDOM』監督の)福田己津央さんから「一任します」という言葉をいただいたスタートだったので、それなら僕も自分の主観的なものを一回外して、小室さんの船に乗せてもらおうと思いました。それで上がってきたデモは、本当に驚きのものでした。最近の僕は原点回帰で“歌に帰る”みたいな形で色々なクリエイターと色々なアプローチをした楽曲作りをしていて、それらのデモを例に挙げると、ほぼ完成楽曲です。今ってデモ段階での作り込みがものすごいんですよ。昔みたいなギター1本と歌のメロディーだけみたいなデモなんて、ほぼ存在しません。なんなら僕に寄せたガイドボーカルが歌ってくれているデモもあり、「もうこのままでいいんじゃない(笑)」くらいのデモがごろごろ出てくる時代です。そんな中にあって、小室さんのデモはすごくシンプル。

シンプルなリズムパターンに最低限の鍵盤と、小室さん自身が歌ってくれていたすごくソフトでふんわりした歌のメロディー。最初、これがどうなっていくのか戸惑いがありましたが、オケ入れの段階、僕の歌入れ段階というのを経ていく中で、どんどん形が変化していって、久しぶりに音楽が成り立っていく様を見た感覚がありました。ぼんやりしていた全体のシルエットが、最後のトラックダウンまでの間にどんどんフォーカスが合っていくというような。完成してからも折々の仕事で歌唱を重ねているんですが、それによっても自分の中でどんどん陰影がはっきりして、コントラストが強くなってくる印象です。

■タイパよりも味わい。「FREEDOM」は時代への挑戦

ーー“シンプル”というのは音だけのことではない。歌詞も、装飾を削ぎ落したような印象だと話す。

難しい言い回しはなくて、小室さんはあえてそうしたワードチョイスをされたんじゃないのかなって思います。今ってJ-POPもK-POPも、一聴しただけでは歌詞が分からない歌が多い気がします。映画もアニメもタイパだと言って倍速で観るような時代になって、“行間を読む”みたいなことを面倒くさがり、煩わしく感じられる方も多くなってしまったのかなって。でも、実はそういうところにこそ趣きがあって、たとえば我々の音楽で言うと、ギターソロをめっきり見なくなったのはすごく残念に感じるところです。

僕がまだリスナー側で音楽を好きになり始めたころって、歌詞やメロディーと同じぐらいに一曲の中にギターソロや楽器のソロがあって、一緒に口ずさめたぐらい印象的なものだったんですよね。それが今はもうイントロもなければ間奏もなくて、曲も3分くらいでスパッと終わっちゃう。了解の“り”みたいな感じで、なんかそういうのって寂しくないですか。こんな味気ないものでいいのかなっていうのを感じていたので、そういう意味では「FREEDOM」はたっぷり5分近くあります。

ーーそんな「FREEDOM」。西川は「全体を通して聴いて、味わうもの」「あらゆる部分で時代と逆行している挑戦的な曲」だと自信を込めて表現した。

「物足りない」なんて感想をちょこちょこ見受けますが、PVに入っている部分だけでなく、全体を聴いて味わってもらいたいと思っています。デモの話と同じですが、今の音楽って最初からもう“ありあり”。「とにかくこれを飲み込んでください」みたいな感じの楽曲が多い気がしている中、「FREEDOM」は聴き手に委ねられる楽曲だという印象です。時代に対する挑戦――僕はそういう気概をすごく感じているし、そうした音楽を小室さんと一緒に届けることができたことにとても大きな意義があると思っています。これが皆さんに届いた先でまたどう熟成して、どんな風に変わっていくのかを楽しみたい思いです。

ーー時代への挑戦ではもう1つ。「シンガロングできるような曲」というのも西川に響いたポイントだった。

先ほどの話のように、今の日本の音楽シーンって良くも悪くもテンポ感の速さ、ワードの多い独特な音楽文化に変わってきているところがあって、アンセムというか、一緒にシンガロングできるような曲が少なくなってきている気がしています。そういった意味でもこの「FREEDOM」は不思議な魅力があって、何度も聴いて口ずさんでいるうちに、僕の中でどんどん変化していく。世界観がどんどん見えてくる。端々に時代を象徴するワードや今だからこそ生々しく感じるようなワードもありますが、それ以上に僕自身としては世代を超えたアンセムのようなものになっているんじゃないかなという印象ですし、そうした楽曲を目指して小室さんと共に制作したというのが僕の気持ちです。

ーー楽曲名の「FREEDOM」は、小室からの提案だ。デモですでにこの曲名が付いていた。

小室さんの中でもこれしかないっていうことだったんだと思います。聴いた僕自身もですし、福田さんも同じ気持ちだったんじゃないかと思います。『SEED』がスタートした約20年前から遡って、必然的に色々な意味を感じざるを得ない曲名ですよね。人と人とが理念や信じるものの違いで軋轢を生んで、以前は遠くの国で起きている感覚だった出来事が今は身近に迫ってきていて、決して他人事ではなくなってきています。『SEED FREEDOM』は僕らが考え直さないといけないことを投げかけてくれているし、「FREEDOM」という言葉に込められた想いはとても大きいのだと思います。それって突き詰めていくと“好きか嫌いか”に圧縮されて、選択肢は個人個人に委ねられている。そういう映画に対するこの曲名の主題歌じゃないですか。

■新作『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は両澤へのラブレターなのかもしれない

ーー『SEED FREEDOM』ではこれまでの「SEEDシリーズ」の流れ同様、戦争が描かれるが、主人公とヒロインのラブストーリーでもある。そこに西川は福田監督のある想いを想像した。

福田監督からいただいた言葉の中でとても印象的だったのが、 “「ガンダム」と言えば”を取り除いて、キラとラクス、2人だけのビジュアルを最初に出していくという話。これには意味があって、今回の軸になっているのがラブストーリーなんだと。監督の話はそこまでで、ここから先はあくまで僕の解釈です。この『SEED FREEDOM』は「SEEDシリーズ」を共に築き上げてこられた両澤千晶(シリーズ構成。福田の妻、故人)さんへのラブレターなんじゃないかと感じていて。そういう想いをこの作品を通して届けられたらな、という気持ちも僕の中にかなり大きく占めています。

ですから、曲としてはみんなでシンガロングしたいという気持ちがあったと同時に、広くたくさんの誰かにではなくて、“今、目の前にいるあなたのため”に歌いたいという気持ちが全体としての大事なキーになっていると思います。

■「SEEDシリーズ」主題歌で生まれたつながりは大きい

ーー2024年はちょうどガンダム45周年にもなるということで、自身のここまでの歩みをそれと重ねながら話してくれた。

もう本当によもやですよ。『機動戦士ガンダム』に衝撃を覚えた幼かった僕が、自分専用の機体を作ってもらったり、主題歌を歌わせてもらったり、ここまで「ガンダム」と深く関わらせていただけることになるとは想像していませんでした。今では色々な作品に楽曲提供をさせていただいていますが、それも『SEED』きっかけなところもあるんです。オンエア当時に観ていて、僕の楽曲ファンになっていただいた方から「いつかお願いしたかったです」とオファーをいただくことがすごく増えました。そういった意味でも「SEEDシリーズ」と巡り合えて、いろんな景色を見てこられたことはとても印象深いです。

ーー支えられて歩めたアーティスト人生。感謝と恩返しの気持ちも大きい。

「SEEDシリーズ」で言えば、今回の劇場版以降もムーブメントを絶やさない活動。例えば映像と朗読劇、音楽とを合わせたイベントというのは「SEEDシリーズ」から始まったようなもので、それをアリーナサイズへの拡大や全国ツアーにして地方の方にも楽しんでもらいたいという思いがあって、できるならそのお力添えになりたいと思います。そのときにはそれこそ今まで関わってくれた全ての方に恩返しできる何かを行いたいと考えています。

取材・文:鈴木康道