悪魔の血を引く少年・奥村燐(CV:岡本信彦)が、父親である魔神(サタン)を倒すために最強の“祓魔師(エクソシスト)”を目指す『青の祓魔師』のTVアニメ第3シーズン『島根啓明結社篇』(毎週土曜夜24:30-25:00ほか、TOKYO MXほか/U-NEXT・Hulu・dアニメストア・アニメ放題ほかで配信)。悪魔とのド派手なバトルが見どころのダークファンタジーながら、家族や友達との絆、葛藤や成長、青春コメディまで、少年漫画の醍醐味がギュッと詰まった大人気シリーズだ。8話の放送を終え、物語も終盤戦へ突入するなか、今回は杜山しえみを演じる花澤香菜さんのインタビューをお届け。シリーズを通じてしえみというキャラクターをどう捉え、どう演じてきたのか、たっぷりと伺いました。

■私なら出雲のツンに耐えられないかも…めげないしえみちゃんがスゴい

――アニメ「青の祓魔師」約7年ぶりの新シリーズになりますが、最初にお話を聞かれたときはいかがでしたか。

花澤香菜 原作はずっと面白いまま続いていますし、いつかはアニメでも続編を描くんだろうとは思いつつ、ここまで間隔が空くと「あれ? もしかして可能性薄いのかしら?」とも感じていたので、続編制作を知ったときには本当に嬉しかったです。この7年間、「青エク」でご一緒した先輩方とはいろいろな現場でお会いしていましたが、また今回みなさんで集まれているのはすごいことだなと思います。

――久しぶりにしえみを演じてみて、感覚はすぐに掴めましたか?

花澤 燐や雪男など、おなじみの声に囲まれたことですぐに「しえみちゃんってこうだったな」と自然とチューニングが合いました。「私、まだまだイケるじゃん」って(笑)。

――しえみは過去のシリーズを通して着実に成長してきたキャラクターです。振り返ってみて、どのように変化してきたと感じていますか?

花澤 友達想いなところは最初からずっと変わっていなくて、ずっと素敵な女の子だなと思っています。ただ最初の頃はなかなか戦えず、自分に自信が持てなかったりもしていましたよね。でも近くで燐たちが頑張る姿を見ているうちに、私もみんなのことを守るために強くなりたいと思うようになってきて、ついには祓魔師(エクソシスト)を目指すようになって。その決断をしたのが、しえみにとってはいちばん大きなターニングポイントだったと思います。

――今ではふつうに戦えるキャラクターになっていますよね。

花澤 そうなんですよ! ちょっと前までなら臆していた場面でもけっこう前のめりで「私が助ける!」みたいなノリで向かっていくので、本当に成長したなあと感じます。


――過去シリーズを振り返った際、花澤さんがもっとも思い出に残っていることはなんですか?

花澤 シーンとかセリフとかもたくさんあるんですけど、「青エク」と聞いてパッと出てくるのは、やっぱり喜多村英梨ちゃんですね。私と英梨ちゃんって、デビュー作がまったく同じなんですよ(※2003年『LAST EXILE』)。この業界で完全な同期って英梨ちゃんだけなので、そんな彼女と今でも一緒にお仕事をしているのって不思議な感覚で、会うたびに感慨深いなと思っちゃいます。しかも今回アフレコをしているスタジオが、デビュー作の時と同じだったんです。そんな思い出深い場所で、英梨ちゃんがものすごいお芝居をしているのを間近で見ていると、ついもらい泣きしちゃって。とにかく特別な空間でした。

――花澤さんと喜多村さんが二人でいる時は、どんな雰囲気なんでしょうか?

花澤 だいたいは英梨ちゃんが喋っていて、私は聞いていることが多いと思います。英梨ちゃんってめちゃめちゃ論理立てて考える人だから、「そんなところまで考えてるの?」って驚くこともあるし、「今度から私もそうやって考えよう」って刺激をもらえることも多くて、とにかく話を聞いていてすごく面白いんですよね。

――花澤さんはどちらかと言うと感覚派なんですね。

花澤 めっちゃ感覚派です。だから英梨ちゃんとは同期だけど、どこか自分を引っ張ってくれるお姉ちゃん的なイメージがありますね。

――お二人が演じるしえみと出雲も、だんだんと距離が縮まってきています。二人の関係性についてはどうご覧になっていますか?

花澤 いやあ、しえみちゃんってめげないですよね。私だったら最初にあれだけ露骨にキツい言い方をされたらさすがに「傷つくわ〜」って言っちゃいそうです(笑)。でもしえみちゃんは自分が悪いんだよねって解釈するので、喧嘩になりようがないじゃないですか。出雲ちゃんからしてみれば、しえみちゃんのそんなピュアすぎるところが余計に癪に触ると言うか(笑)。だから二人が仲良くなるのにはやっぱりそれなりの時間がかかるとは思うんですけど、その代わり、一度出雲ちゃんが受け入れてしまいさえすれば、一気に親友になれるんじゃないかなと思っています。
■3人でのダンスシーンは最高! でも同時に「ここがピークか」とも

――ここから現在放送中の『島根啓明結社篇』を振り返っていきますが、まず序盤の見どころは学園祭ですよね。燐と雪男と3人でのダンスシーンは幸せそうでした。

花澤 最高でしたね。しえみちゃんにとってこの3人の心がひとつになる瞬間って特別だし、何よりも幸せな時間だったと思うんです。それだけに「ここが幸せのピークなんだよな」とも思っちゃって(笑)。このあと、辛い展開が待っていることが分かっているだけに、ここでなんとか食い止めておきたかったなみたいな気持ちもあって。…ほんと、ここまでは最高だったんです。

――燐役の岡本信彦さんや雪男役の福山潤さんとの掛け合いはいかがでしたか?

花澤 掛け合いそのものは7年前と変わらず、そのまんま燐と雪男でした。学園祭のシーンでは、福山さん自身も「楽しいのはここまでだな」みたいなことをおっしゃっていたので、ストーリーの展開に合わせてまた少しづつ雰囲気は変わっていくのかなと思ったり。あとは休憩中の話題がちょっと変わりましたね。最近は「健康」についての雑談が多くなって、そこは7年という月日を感じる瞬間もあります(笑)。

――ダンスパーティーの後は、志摩廉造の裏切りが発覚し、出雲が誘拐されるなど急展開となりました。

花澤 驚きましたね。志摩役の遊佐浩二さんも福山さんと同じく「楽しいのはここまでだ」的な雰囲気を現場で漂わせていて、ちょっと面白かったです。志摩くんの裏切りシーンに関してはどんなお芝居をされるのか楽しみで仕方なかったんですけど、本当に素敵なお芝居をされていて感動しました。

――もともと飄々としたキャラクターですから、余計に本音が読めなかったですよね。

花澤 そうですね。原作を読んだ時って、それぞれが頭の中で理想のニュアンスを想像しているじゃないですか。そこに声を付けるのってすごく大変なことだと思うんですけど、さすがですよね。どこからが本当でどこまでが嘘なのかのさじ加減が絶妙で、素晴らしかったですね。

――その後、島根に向かう機内では、しえみ特製の"草サンド"も振る舞われました。

花澤 みんなから「まずい」と言われて、私もちょっと気まずかったです(笑)。しえみちゃん的には、味はともかくお腹の足しになるのであればと思っただけで、100%純粋な好意のはず。ただ雑草の味ってたしかに独特だから、みんなが反射的に吐き出しちゃうのもわかる気がします。

――もしかして草を食べた経験があるんですか?

花澤 草ではなくて…カナブンなんですけど(笑)。中学時代、学校帰りの田舎道で口の中に突然カナブンが飛び込んできたことがあったんです。反射的にちょっと噛んでしまって、そしたら雑草の香りが口いっぱいに広がってきたんですよ。すごいショックで…。このシーンを読んだときは、思わずそのことを思い出しちゃいました。

――しえみは島根に着いてから、ちゃんと戦力として塾生メンバーたちとともに戦っていますね。

花澤 そこはやっぱり出雲ちゃんを助けたいっていう気持ちがとても強いんだと思います。出発前、駅の改札で朴朔子ちゃんからヒソヒソと何かを言われるじゃないですか。しえみちゃんはその言葉も背負っているので、余計に強い気持ちで挑んでいると思います。

――今後の展開としては、しえみと出雲の感動的なやり取りも待っていますね。

花澤 そうなんですよ。出雲ちゃんがしえみちゃんに感情をめちゃめちゃぶつけるシーンがあって、そこは本当に見どころだと思います。朴ちゃんからもらった言葉がなんなのかも含めて、ぜひ注目してほしいです。
■しえみを演じるのはある意味でメンタルケアにも

――物語終盤戦に向けての見どころを改めてお聞かせください。

花澤 出雲ちゃんが自分の人生とどう決着を付けていくのかというのは一番のポイントですよね。あとはとにかく外道院さんが大暴れしているので(笑)。個人的に、外道院さんがいったいどんな展開を迎えてくれるのかも楽しみです。

――外道院は本当にクズなキャラクターですね。

花澤 本当にヤバいキャラなんですけど、不思議と憎めないんですよね(笑)。檜山修之さんのお芝居もそうだし、身体や顔のフォルムもそうだし、イルミナティ側からもちょっと雑に扱われている感じもそう。クズなんだけど面白くて、だからこそ目が離せない感じがありますよね。

――檜山修之さんの芝居も振り切っていて、聴いていて楽しいです。収録はいかがでしたか?

花澤 外道院さんはほかのキャラクターとセリフが被ることが多いので、別ブースから同時収録しているんです。だから私たちはイヤホンをつけて檜山さんの声を聴くんですけど、あまりに音圧がすごくて、みんなが一斉に「うるさっ!!」って(笑)。あとはお芝居が面白すぎて、みんなで必死に笑いをこらえる時間もあって、とにかく楽しかったですね。


――2011年から長きにわたって演じられてきた役柄ですが、改めて花澤さんにとってしえみはどんな存在でしょうか?

花澤 しえみちゃんはとにかくピュアでいい子なので、彼女としてのお芝居をまっとうするには、どこかで「私自身も真っ直ぐでいなきゃ」みたいな感覚があるんです。第2話で雪ちゃんに勉強を教えてもらっているシーンでも、彼女の素朴さが雪ちゃんの心をほぐして癒すシーンがあるじゃないですか。彼女のそういう部分をちゃんと醸し出すというのは、役者に課された使命でもあると思うんです。そういう意味で、13年間にもわたってしえみちゃんを演じさせていただけるというのは、私にとってもメンタルケアになっているような気もします。

――なるほど。汚れた心では演じられないんですね?

花澤 そうかもしれませんね。だからしえみちゃんの声を担当している限り、私自身も真っ直ぐで純粋な気持ちをどこかで持ち続けたいなと思っています。

――では最後に、ファンにメッセージをお願いします。

花澤 今回も本当に素晴らしいクオリティでアニメを制作してくださっているので、どうぞ最後まで応援をお願いします。原作もめっちゃ盛り上がっているところなので、もう待ちきれないよという方は、ぜひ原作も合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。

■取材・文/岡本大介