悪魔の血を引く少年・奥村燐(CV:岡本信彦)が、父親である魔神(サタン)を倒すために最強の“祓魔師(エクソシスト)”を目指す『青の祓魔師』のTVアニメ第3シーズン『島根啓明結社篇』(毎週土曜夜24:30-25:00ほか、TOKYO MXほか/U-NEXT・Hulu・dアニメストア・アニメ放題ほかで配信)。悪魔とのド派手なバトルが見どころのダークファンタジーながら、家族や友達との絆、葛藤や成長、青春コメディまで、少年漫画の醍醐味がギュッと詰まった大人気シリーズだ。3月2日に放送された第9話は、燐が志摩廉造(CV:遊佐浩二)や神木出雲(CV:喜多村英梨)と対峙する「助けて」。(以下、ネタバレを含みます)

■外道院の「論破してみろよ」に言い返せない燐


異形屍人(キメラゾンビ)との戦いを切り抜けた塾生メンバーたちだったが、外道院ミハエル(CV:檜山修之)は、異形屍人にさらなるドーピングを施した膨張屍人(インフレゾンビ)をさし向ける。もはや人間だったころの面影はいっさい留めず、ただエネルギーを求めて襲いかかる存在と化した膨張屍人。燐は外道院のあまりの冷酷さに「何とも思わねえのかよ」と食ってかかるが、外道院はほかの生物で実験するほうが身勝手だと反論、人間が人間を使って実験するのは正義だと断じると、燐は何も言い返せないのだった。

冒頭は燐と外道院の問答。悪魔の血を引く燐は、人間の味方でいることこそ自分の存在意義だと思っているが、外道院は人間でありながらも人間が嫌いという真逆の存在。さらに弁が立つ外道院は、人間が動物に行う化学実験を例に出しつつ、「自分たちが生きるためにほかの生物を殺す。人間とはそういう生き物だ」と言い、人間を実験体とする自らの行為を正当化しようとする。明らかに非人道的で極論ではあるものの、その言葉にはどこか説得力があり、ゆえに燐は何も言い返せなくなってしまうのだ。さらに「薄っぺらい偽善者どもが!」と煽る外道院に、燐は「外道がぁ!」と声を荒げるのが精一杯。ふたりの第1ラウンドは外道院に軍配が上がったと言えるだろう。

実験室へ移動中の出雲を見つけた燐は、すかさず出雲の元へと駆け寄ろうとするも、志摩廉造に行手を阻まれる。なんとか志摩を退ける燐だが、今度は出雲本人から「これはあたし一人の問題よ」と突っぱねられてしまう。出雲の返答に戸惑う燐だったが、再び志摩が介入してきたことで、出雲はその場から去ってしまう。こうして、ついに出雲への人体実験が始まるのだった。

ここでは燐と志摩が第4話以来となる対決。志摩のことを友達だと思っている燐は、志摩の攻撃に対して防戦一方で、自分から攻撃する意思はない。とは言え素の身体能力では燐に分があるため、最後には「目ェ覚ませや!」と鉄拳制裁を食らわせるなど、一応の勝利を収めた。剣を持っていない左拳にも関わらず、たった一撃で志摩を吹き飛ばすあたり、やはり燐の戦闘力は凄まじいものがある。一方で、燐の助けを断ったシーンでは、出雲の葛藤と逡巡が描かれた。自分から助けを求めたことで結果的に死んでしまった吉田マリア(CV:遠藤綾)や、自分を守って消滅してしまった“御饌津(ミケ)”(CV:井上剛)たちのことを思い浮かべた出雲は、もう誰にも頼れないという想いを強くする。それでも出雲は生存を諦めたわけではなく、自分が九尾を従わせることで一発逆転を狙っているあたり、一級品の諦めの悪さと執念を感じさせてくれる。

■MAX絶叫をはじめ、出雲の全感情が爆発!


再びバトルに突入する燐と志摩。今度の志摩は高位悪魔である”夜魔徳(ヤマンタカ)”を召喚した本気モードだが、燐はやはり本気では戦えない。すると燐の青い炎のエネルギーに反応した膨張屍人がやってきて、燐は体内に取り込まれてしまう。一方出雲は、外道院たちが見守るなか「神降ろしの舞」を踊り、母である玉雲(CV:大原さやか)から自身の肉体に九尾を移すことに成功。九尾との主導権争いが始まると、なんとか従えようと抗う出雲だったが、あまりの苦しみに悶え苦しむ。気力が尽きるその直前、仲間たちへの本当の気持ちに気づいた出雲は、泣きながら「た…す…けて!」と思わず声を発する。すると、その声を聴いた燐が剣を抜き、出雲の元へとやってくるのだった。

九尾の憑依シーンでは、塾生メンバーたちに対する出雲の本心が露わになった。そもそもファンであれば、出雲のこれまでの言動から「知ってた」という話ではあるのだが、出雲自身は自覚しておらず、ここへきてようやく自分の気持ちに素直になれたというのは嬉しいところ。さらにこの一連のシーンでは、出雲の芝居がこれ以上なく心を引きつけるもので、演じる喜多村英梨の役者魂が堪能できる点にも注目。九尾に勝とうとする強気な姿勢から一転、延々と続く絶叫と悲鳴、さらにはモノローグによる葛藤や諦め、気付き、嗚咽、泣きまで、ありとあらゆる感情表現が詰め込まれていて、これにはSNSでも「出雲ちゃんの芝居、泣けすぎる」、「人間ってこんな声出せるの?」など、芝居に対する称賛の声で埋め尽くされた。ヒロインのピンチに主人公が登場というのは王道中の王道ではあるものの、それでも最高にエモい感情になれたのは、この迫真の芝居の積み重ねの賜物だとも言えるだろう。

出雲の声に反応して颯爽と登場した燐は、そのまま外道院を殴り飛ばす。しかし外道院はそれでも自らの負けを認めず、今度は地上フロアの屍人たちを地下へと送り込むことで時間稼ぎを試みる。周囲を無数の屍人に囲まれた燐は、やるせない表情を浮かべながらも屍人を斬り倒していくのだった。

ついに……ついに燐が外道院をぶっ飛ばした。第5話に登場して以降、ずっと視聴者のヘイトを集めまくっていた外道院だけに、このシーンは爽快そのもの。SNSでも「燐! 思いっきりやってくれ!」、「ざまあすぎる」、「やったー!」と歓喜の声が多数飛び交っていた。ちなみにここは全体としてはかなりシリアスなシーンではありつつも、殴られて回転する外道院の顔がスローでアップになるなど、この瞬間だけはコミカルな演出がつけられている。さらにその直後には燐の「泣いてんだろうが!!」という名セリフが飛び出すなど、短い時間のなかで笑いと感動が襲ってくる、超速緩急が効いた名シーンだった。ともかく「これぞ主人公」という活躍を見せた燐ではあるが、最後に屍人を斬るシーンでは再びやりきれない表情を見せており、性根の優しい燐にはまだまだ辛い状況が続きそうだ。さて次回第10話「仲間」は3月9日(土)放送予定。期待して待とう。

■文/岡本大介